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安倍政治を問う(12) 地方創生に潜む危機 京都大大学院教授 岡田知弘さん

政治行政 神奈川新聞  2014年12月16日 13:15

岡田知弘さん
岡田知弘さん

安倍晋三政権が掲げる「地方創生」で地方自治の根幹が揺らぎかねない-。そう危惧を抱く京都大大学院の岡田知弘教授は「そもそも上から目線ではないか」と提起する。「『地域』ではなく『地方』という言葉を使うのは、中央、すなわち東京を中心に据えた発想。『再生』とせず『創生』を掲げるのは、これまでとは違う地域をつくる意図があるからに他ならない」

そこに見え隠れする、「選択と集中」の名の下に地方の中核都市への予算配分と機能強化を図り、ひいては自治体を集約しようとの意図。総選挙の勝利で長期政権への足掛かりを築いた安倍首相が見据えるのは、財界が「究極の構造改革」として待望する道州制の導入であり、その先には地方分権に逆行する中央集権的な「新たな国のかたち」が浮かび上がっている。危惧の本質はそこにある。

安倍首相が衆院解散前の成立にこだわった地方創生関連2法の一つ、「まち・ひと・しごと創生法」の第2条はうたう。

〈結婚、出産又は育児についての希望を持つことができる社会が形成されるよう環境を整備〉〈地域の特性を生かした創業の促進や事業活動の活性化〉

多くのマスコミが来春の統一地方選に向けた政権のアピール材料とみた。「新たな交付金の創設などに伴うバラマキはあってはならないとの論調が目立ったが、それは本質的な問題ではない」。ここに至るまでの周到な準備、巧みな世論形成の仕掛けにこそ目を向けるべきだと岡田教授は強調する。

流れをつくったのは、2040年に全国の半数近い896市区町村が消滅する可能性があるとした日本創成会議の試算だ。岩手県知事も務めた座長の増田寛也・元総務相の名から「増田リポート」と呼ばれる。地方に住む20~30代の女性の大都市圏への流出がこのまま続けば、出生率が回復しても人口が大きく減るという衝撃的な内容で、消滅する市町村を名指ししたリポートは波紋を広げた。

■トリック

発表されたのは消費税増税から1カ月がたった5月8日。5日後の13日に経済財政諮問会議の「『選択する未来』委員会」が公表した中間まとめに消滅自治体のデータが引用され、15日には安倍首相の諮問で人口減に対応する地方行政体制の検討を始めた地方制度調査会も議論のベースにしている。

「自治体消滅論を政権の政策づくりに生かすため発表のタイミングを官邸と調整したのだろう。消費税増税の影響が広がり、アベノミクスの限界が表れてきたころに地方紙がセンセーショナルに伝えたことで人々の意識を自治体の消滅は避けられない、集約もやむを得ないという意識に向かわせた」

増田氏は現政権に近い。総務相に就任したのは第1次安倍内閣が改造を行った07年8月。前任の総務相は現官房長官の菅義偉氏だった。政府の「まち・ひと・しごと創生会議」の有識者の1人として、自治体消滅を前提とした議論をリードしてもいる。

こうした背景も踏まえ、岡田教授は「消滅論は危機感をあおる作為的なシミュレーション。ショック・ドクトリンだ」と問題視。その「トリック」を解き明かす。

「推計の基にした2005~10年の5年間は大都市への人口移動が比較的進んだ時期。しかも、東京への集中の傾向が最も高い水準で続く前提で試算し、若い女性が半減するから市町村が消えるという結論を導くのは論理的に無理がある」。さらに「東日本大震災を契機とした田園回帰を考慮していない。原発事故の影響、首都直下地震への不安を背景に地方へ移り住む人の流れが出てきている。過疎地の典型とも言われた島根県の中山間地でも若い人が増えている」。

こうした批判があるにもかかわらず、自治体消滅論が市民権を得つつあるのは「道州制導入への地ならしとして政権サイドが利用しているため」とみる。

自民党は道州制推進本部を設け12年に基本法案の骨子案をとりまとめたが、道州制を導入すればさらなる市町村合併を迫られる恐れがあるとして地方の町村長らが反発。法案提出には至っておらず、12年の総選挙で「基本法の早期制定後5年以内の導入を目指す」とした公約も、今回は「国民的合意を得ながら進める」と「後退」していた。

道州制実現が見通せない中、「基本法の制定による正面突破でなく、まずは消滅論で自治体を集約することへの抵抗感をなくそうとしている」と岡田教授は読む。

■こだわり

導入へのこだわりは第1次安倍内閣当時からあった。「当時掲げた主な三つの施策のうち、国民投票法と教育基本法は反対がありながらも成し遂げた。積み残しになっていた道州制に今回は腰を据えて取り組むのではないか」

自民党が目指す道州制の姿は、実現に向けた提言を繰り返してきた日本経団連の案ともほぼ重なる。現行の都道府県を廃止し、全国に10程度の道州を置くとともに、国の出先機関や公務員の数を減らす。浮いた財源を高速道路網などのインフラ投資に回し、グローバル企業が活動しやすい環境を整える。経団連はウェブサイトで、6兆円近くの財源が生み出されるとの試算をアピールしている。

しかし、「こうした経済至上主義の発想で築かれた地域社会は、住民にとっては暮らしにくい」。一例として挙げる岐阜県高山市にその厳しい現実を見る。平成の大合併で9町村を編入し、市域は東京都とほぼ同じ約2千平方キロに広がったものの、住民は10万人を切っている。「市の周辺部になったかつての村では人口が4割も減って投票所が集約され、お年寄りは投票に行きづらくなった。地元市議も選出されなくなり、民意を示すこともできない」

全国の市町村が3232から1700余りに減った平成の大合併で規模を広げた市町村では「住民の監視の目が届かず、災害状況の把握も遅れるようになった」。道州制では「そうした弊害がより顕著に表れる」とみている。

検討されている道州制では、国と地方、あるいは自治体同士の二重行政をなくすため、市町村は医療や福祉、義務教育などの住民に身近なサービスに特化する一方、道州は経済振興、高等教育などを担う。国は外交や防衛、通商政策などを担当する。

そこに岡田教授は「大企業が潤う形での富国強兵」に向かう危険を感じ取る。「国と自治体は水平的な関係ではなくなり、明治憲法下のような垂直的関係に戻ってしまう。国と地方が役割分担することで、例えば沖縄の基地問題は国の専権事項なので地方からもの申すことができない、という事態が起こりうる。これは戦争ができる国づくりにつながるものだ。憲法とともに地方自治は今、戦後最大の危機局面にある」

おかだ・ともひろ 54年生まれ。専門は地域経済学。研究者や自治体職員、地方議員などが会員の自治体問題研究所(東京)の理事長。「『自治体消滅』論を超えて」(自治体研究社)を今月刊行。

【神奈川新聞】


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