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私が投票する理由〈3〉もう一つの道示せ 政治学者・中島岳志さん

政治行政 神奈川新聞  2014年12月10日 12:14

中島岳志さん
中島岳志さん

ある新聞社の世論調査では、アベノミクスを失敗とみる人の約3割が自民党に投票すると回答し、民主党に入れるという人とほぼ拮抗(きっこう)している。「この道しかない」と繰り返す安倍晋三首相に対し、野党が「アベノミクス以外の道がある」と明確に示せていないために、消極的支持が広がっている状況だ。

野党、特に民主がもう一つの道を鮮明にできないことが分かっていたので、安倍首相はアベノミクスを争点に持ち出したともいえる。

だが、アベノミクスは早晩破綻する。いまやっているのは壊れた車でアクセルを踏み込むようなもの。必要なのは修理なのに、だ。

もはや腹をくくって「そんなには成長しない」というモデルを描くべきだ。現役世代が増えないということは消費は拡大しないということ。低成長、脱成長モデルを描き、けれどもそれは暗い見通しではなく、ポジティブな成熟社会の道があり得ると希望を持って語れるかどうか。この選挙を通じ、あるいは次回に持ち越してでも問われなければならないことだ。

お金はそれほどもうからないかもしれないが幸せと感じられる社会にどうつくり直すか、だ。地域社会などさまざまな場所で意味のある生活を送れる、人から頼りにされ役割があるという感覚が持てる、生きがいがある社会。それはまた、民主主義が機能する社会でもある。

投票に行けと上から説教をしても意味が無いと私は思う。もちろん行くべきだが、大切なのは選択した道に関与し続けることだ。地域社会でもNPOでも趣味のサークルでもいい、自分がよりどころとする領域で他者と合意形成を図り、少数者や異論に配慮する公共性を身に付けることが重要。投票さえしていれば民主制は機能するという発想自体を疑わないといけない。そうでなければ、誰を選んでも何も変わらないという冷笑主義にからめ捕られてしまう。

安倍政権が支持率を維持してきた背景にあるのが、その冷笑主義の蔓延(まんえん)だ。

首相には、みんなで話し合って「なるほどあなたの言うことも一理ある」と、他者との葛藤に耐えながら合意形成を図っていく「保守らしさ」がかけらもない。特定秘密保護法の制定は独断で、集団的自衛権の行使容認も公明党と調整した程度。それでも支持されたのは、一発逆転を期待するいら立ちの裏返しでもある冷笑主義の拡大により、強いリーダーの独断的な決断に人々が惹(ひ)かれていく土壌がつくられたからだ。

何を決めるかではなく、独断的に何かを決めた姿に惹かれる状況は危うい。国家と個人の間にある社会の中間領域をつくり直し、人と人のつながりを問い直すことは民主制を機能させるためにやはり必要なのだ。

なかじま・たけし 75年大阪府生まれ。政治学者。北海道大准教授。近著に「『リベラル保守』宣言」(新潮社)。

【神奈川新聞】


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