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大義なき解散<3>「1票の格差」また放置

政治行政 神奈川新聞  2014年11月22日 10:17

升永英俊さん
升永英俊さん

「住所による差別」が放置されている、と憤る。

前回2012年の衆院選でいえば、神奈川10区に住む人の投票権は高知3区の人の0・41票分しかない。

「そうして選ばれた国会議員によって国政が決められる。つまり多数決の原則が否定されている。これでは民主主義国家ではない」

弁護士の升永英俊さん(72)が語気を強めた。

「1票の格差などというのんびりしたレベルの話ではない。1票の住所差別だ」

その「差別」が置き去りにされたまま、総選挙の幕が再び切って落とされた。2年前の違憲状態の選挙制度で当選し、正統性が問われている安倍晋三首相によって、である。

■民主主義国家 人口比例選挙の実現を目指す「一人一票実現国民会議」の共同代表。

億単位の私財を投じ、全国紙に意見広告を打ってきた。その数、100回超。資金の半分以上を負担する。12年9月8日の朝日新聞にはこうある。

〈例えて言えば、国会議員は、(いわば、主権者からの白紙委任状を手に持って…全国民を代表して、国会で、国家権力の行使についての多数決を決めるための投票を行う)「特別な代理人」でしかない〉

〈各国会議員は、国会で等価値の投票権を有する以上、主権者からの国会議員への委任状の数は、同一でなければならない。即ち、国会議員が、同数の『登録有権者数』から選ばれるような選挙区割り(即ち、人口比例選挙)が、必須である〉

衆議院については3倍、参議院については6倍を基準に、それを超えたら「違憲状態」であるという不文律の下、最高裁判決は下され続けてきた。そして国会議員は自らが当選した選挙制度の抜本改正に踏み切ろうとしない。

「こんな不条理があっていいのだろうか。ある県の選挙区では20万票で当選し、別の県の選挙区では40万票の獲得で当選する。倍の差があっても、同じ国会議員として1票を投じ、国政は決せられる。これでは国民が主権者とはなりえない」

六本木ヒルズに構えたオフィスの執務室で諭すように升永さんが語り続ける。

「これは主権者意識を徐々に高めて不平等さに気付いてもらう、といった啓発運動ではない。実現しようとしているのは国民が権力者であるというルール。市民社会の実現といっていい。日本は有史以来、国民が主権を握るということはなかった。目指しているのは民主主義国家の誕生だ」

意見広告には「一人一票に反対の最高裁判事に不支持票(×印)を投票して」と記載する。最高裁裁判官の国民審査。対象の裁判官のうち1票の格差を合憲とする最高裁裁判官を名指しし、「×」を付けるよう呼び掛ける。

憲法79条は投票者の過半数が不信任なら罷免されると規定する。

効果はあった。09年総選挙での国民審査では、名指しされた2人には他の7人と比べて全国平均で約1・18倍、神奈川では1・39倍の不信任票が集まった。

国民審査に注目したのはそれが1人1票の参政権だと気付いたからだった。「この運動が『裁判官へのプレッシャー』や『脅し』になるとは思っていない。一気に罷免を目指している。それが民主主義。有効投票数の半数、おおよそ3千万票の不信任を集めれば罷免できる。そうすれば世の中は変わる」

■動き始めた山 その名が一躍知られるようになったのは、青色発光ダイオード(LED)の発明でノーベル物理学賞の受賞が決まった中村修二さんの訴訟でだった。当時中村さんが勤めていた会社を訴え、発明の対価として200億円の支払いを認めさせた。「すご腕」と評されるゆえんだ。

知的財産や税務をめぐる訴訟で巨額の支払いを命じる判決を数々勝ち取り、01年には高額納税者番付に弁護士最上位として名を連ねた。

語る「民主主義国家の誕生」が熱を帯びてゆく。

26日、13年参院選の無効を問う最高裁大法廷判決が下される。このときの1票の格差は4・75倍。かつての不文律でいえば合憲だが、09年以降の判決に照らせば違憲状態になる。さらに踏み込んだ判断もあり得る。

「ポイントは憲法が『人口比例選挙』を求めていると判断するかどうか。最高裁はこれまでこの点に一度も触れていない。国民が初めて主権を手にするかどうか。歴史的出来事になる」

転換点となった09年衆院選を問うた11年の最高裁判決。住んでいる場所による投票価値の不平等に合理性はないとした上で「投票価値の平等の要請にかなう立法措置を講ずる必要がある」とし、いわゆる「違憲状態」だと結論付けた。

12年衆院選を問う13年11月の最高裁判決では、同年6月に法改正した「0増5減」では、47都道府県に1議席ずつを割り当てる「1人別枠方式」の構造的な問題が最終的に解決されているとはいえないとして、再び「違憲状態」だとした。

「動かすことなど不可能だと思われていた山が動き始めた」

繰り返される違憲状態。「状態」として選挙自体の有効性を維持するのは、法改正に必要な期間の猶予を与えるという意味がある。しかし、安倍政権は司法によって「十分ではない」と判断された0増5減から歩を進めようとしなかった。

投開票日翌日の12月15日、全国295選挙区で一斉に提訴に踏み切る。

21日、議員たちが万歳の声を響かせた解散への、それが答えだ。

◆1票の格差 住んでいる場所によって1票の価値が異なるという問題。2013年参院選の場合、鳥取県選挙区を1票とした場合、相対的に最も価値が低くなったのは北海道の0・21票。神奈川県は0・26票だった。これまで国政選挙翌日に全国各地で一斉に「議員定数不均衡訴訟」が提起され、高裁では「違憲・違法」や「違憲・無効」とする判決が出ているが、最高裁は「違憲状態」としつつ、法改正に必要な期間があるとして選挙自体は「有効」とする判決を出している。

●ますなが・ひでとし 1942年東京都出身。東大法学部卒、住友銀行入行。67年同行を退行し、69年司法試験合格。73年東大工学部卒、80年米国ワシントン市司法試験合格、84年ニューヨーク州司法試験合格、91年東京永和法律事務所開設、2008年TMI総合法律事務所パートナー。特許法、技術ライセンス、著作権、税法などが専門。

【神奈川新聞】


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