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大義なき解散<2>貧困の現実置き去りに

政治行政 神奈川新聞  2014年11月20日 09:00

雨宮処凛さん
雨宮処凛さん

18日夜の記者会見、安倍晋三首相の言葉は雨宮処凛さん(39)の心に響かなかった。見聞きしてきた実態とあまりにかけ離れていたからだ。

例えば、胸さえ張って語ってみせた、総選挙で国民の信を問うとしたアベノミクスの成果。

「『三本の矢』の経済政策は、確実に成果を挙げつつある。政権発足以来、雇用は100万人以上増えた。有効求人倍率は22年ぶりの高水準だ。今春には平均2%以上、給料がアップした。過去15年間で最高だ」

作家として、活動家として貧困層の取材と支援活動を続ける雨宮さんは首を振る。

「求人の中心は非正規雇用。安倍政権になってから、正社員は31万人減って、非正規労働者は129万人増えている。実態は良くなっていない。アベノミクスで暮らしがよくなっているという人は所得の上位数パーセントにすぎないのではないか」

前提となる現実を見ていないから、「雇用は改善し、賃金は上がり始めている。ようやく動き始めた経済の好循環の流れを止めてはならない」と力説されても、そのために持ち出された消費税再増税の先送りが後付けの理由にしか映らない。

「実は、経済政策がうまくいかず、景気が上向かないという政権にとって不利な状況をうまくやり過ごそうとしているようにしか見えない。増税を予定より1年半先送りにするというのは、経済を回復させてから増税すると言いたいのだろうが、経済が回復するかどうかは分からない。国民には聞こえはいいが、見通しが立っていない未来に丸投げしただけではないのか」

あるいは現実は意図的に無視されているのか。

■暴走

第2次安倍政権を「暴走政権」と評する。「特定秘密保護法、集団的自衛権の行使容認と、国民の反対の声を無視して、押し切った。おまえたちの意見は聞かないよ、というメッセージとして受け取った」。国会周辺で行われた秘密保護法に反対するデモにも足を運んだ雨宮さんの実感だ。

消費税再増税の先送りの理由に経済成長の先行きを挙げ、国民生活への影響を考慮したと安倍首相は強調する。

では、秋の臨時国会で何をしようとしていたか。

労働者派遣法改正案は、企業の派遣労働者受け入れ期間の上限廃止が柱だった。現行の上限は3年だが、働く部署を変えれば、企業は上限を超えて派遣労働者を使えるようになる。

解散によって改正は先送りとなったが、雨宮さんは「派遣労働は一時的という原則を骨抜きにするものだ」。改正案を貫く、労働者の側に立とうとしない姿勢。「非正規労働者は年齢を重ねれば重ねるほど正社員になるのが難しくなる。女性であれば、結婚しないというだけで貧困のリスクにさらされる」。セーフティーネットの整備も遅々として進まない。

やはり成立断念となった女性活躍推進法案もそうだった。女性の採用や昇進の機会を増やし、仕事と子育ての両立に向けた環境整備を促すのが狙いだったが、「パフォーマンスだったということ。耳当たりのいいことを言っておいて、本当はどうでもよかったということだ」。

そもそも「すべての女性が輝ける日本に」というスローガン自体、懐疑的に見ていた。

女性就労者の6割は非正規雇用だ。職場での地位向上が望めず、薄給や長時間労働は結婚や子育てに影響する。多くの女性にとって仕事と子育てを両立する環境は依然整っていない。

「安倍政権が掲げる『女性の活用』は一部のスーパーウーマンしか念頭にない。バリバリ仕事をして、社内でのし上がって、年収がある程度高く、結婚にも子育てにも前向きな人。非正規労働者で子どもを産み育てようという、ど根性がある人は少ない。未婚女性の増加という、かつての日本社会では想定していなかったことが起きている。子どもを産んでくれ、少子化を食い止めてくれというやり方はもはや時代遅れ」

■悲観

労働問題を論じたシンポジウムの会場で初老の女性に掛けられた言葉を忘れない。

非正規社員として駅の売店で働く。未婚。60歳。月収約12万円。

「正社員との格差が圧倒的。差別しないでほしい」

ぼそりと言う低い響きが胸を突いた。誰に言えばいいのか分からない。でも、誰かに言わずにはいられない。暗い光を宿した目に射すくめられた。

貧困層に広がる「諦めムード」をひしひしと感じている。2008年から09年にかけてリーマン・ショックや「年越し派遣村」の活動が行われたころは社会運動に参加するフリーターの数は多く、全国に広まったが、「今は生活が苦しくて運動に参加する余力がなくなっている」と感じる。背景にあるのは、社会の閉塞(へいそく)感だ。

「非正規労働者の平均年収は168万円。家賃や生活費だけでいっぱいいっぱい。非正規雇用が続けば疲弊し、年を取れば仕事は見つからなくなる。非正規労働者は正社員になることが無理なのは分かっている。その中で、ちょっとでも時給の高い仕事を得られるかという、すごく小さな生存競争になっている」

20年後を想像してみる。「自分と同世代で非正規の人の多くは生活保護を受けることになるのではないか」。50、60歳になったら仕事は見つからない。このまま不安定労働を放置していればやがて破綻し、かえって多大な社会保障費がかかるのは目に見えている。「生活保護費を削る法改正がそうだったように、目先の節約が優先され人間の命が後回し。財源のことよりまず人命のことを考えてほしい。いま必要なのは低所得者層の底上げ。長期的には国民全体にいい結果をもたらすと思う」

安倍首相が決断を誇ってみせた消費税再増税の先送りもだから、希望の光になり得ない。

●あまみや・かりん 作家、活動家。2000年にデビュー作の自伝的エッセイ「生き地獄天国」(太田出版)を出版。貧困、労働問題などをテーマに取材、執筆し、社会運動に取り組む。

【神奈川新聞】


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