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保護司 役割増加も担い手不足

社会 神奈川新聞  2014年11月03日 10:18

山口信郎さん
山口信郎さん

計1793人。県内で活動する「保護司」の数だ。主な仕事は、犯罪や非行をした人が社会復帰できるようサポートすること。犯罪が多様化しその役割は増すばかりだが、県内では高齢化などにより定員割れが続き、担い手不足が深刻な問題となっている。難しさの中にやりがいを感じるこの道30年のベテランと、「社会への恩返し」と10月に新たに加わった新人の2人に、更生保護への思いを聞いた。

■冥利は「ありがとう」 県保護司会連合会会長・山口信郎さん

複雑な家庭環境、経済的困窮…。県保護司会連合会会長の山口信郎さん(73)=相模原市中央区=が向き合う少年少女の多くは、一人では超えがたい困難を抱えている。罪を肯定するつもりはない。ただ、彼らの境遇に触れて思う。「罪を犯してしまうだけの理由はある」。ちょっとしたきっかけで「取り返しのつかない状況に陥ってしまう」のが彼らだと実感している。

保護司になったのは1983年。当時、県立高校の数学教員だった。同じく教員だった父親が保護司を務めていた。自分と年齢の変わらない少年たちが自宅を訪ねてくる。更生に携わりたいという思いが自然と芽生え、自ら父親の背中を追った。

当初は申し訳なさそうに小声で話す彼らの言葉に耳を傾ける。面談を重ね、「あなたは不幸だったんだ」とふさぎがちな心を解きほぐし、「まだ若い。立ち直れる」と前を向いて歩けるように寄り添う。保護司歴31年。少年院を退院した少年少女を中心に、保護観察中の高齢者たちの更生にも心を砕いてきた。その数は100人を超える。

「保護司冥利(みょうり)に尽きる」瞬間がある。少年たちが無事に保護観察期間を終え、「ありがとうございました」と訪ねてくる時だ。

10年ほど前、少年院を退院してきた中学生の少年を担当した。月2回ほど面談し、日記を書くよう勧めた。少年の心の内を知ることができるだけでなく、本人の学力向上にもつながるからだ。当初は平仮名ばかりだったページが徐々に漢字で埋まるようになった。高校に進学し、卒業後に結婚。お盆と暮れには欠かさず夫婦で訪ねてくる。「先生、子どもができたよ」。愛くるしい男児を連れ、家族3人で足を運んでくれたのは最近のことだ。

一方で、1年半の保護観察期間終了まで残り2カ月に迫りながら、困窮ゆえにコメを万引きし、実刑判決になった高齢男性もいる。「どうして」と無力感に襲われ、今も悔やみ続ける。

うれしいこと、悲しいこと。その繰り返しを支えるのは「この国の未来を担う若者たちの境遇を少しでも良くしたい」という願いだ。同世代とはいえ、高齢者の人生経験から学ぶことも多い。

保護司が不足する中、なり手の“新規開拓”は容易ではない。「危険なのでは」と敬遠され、「私は立派な人間ではない。務まらない」と避けられてしまう。だが、経験に裏打ちされた思いがある。「人を愛し、地域を愛することさえできれば、誰でも保護司を務められる。一人でも多くの人に、なってほしい」

■「若さ」で更正手伝う 新人・門間剛さん

パソコン画面に向かい、マウスをクリックし、タッチペンを走らせる。漫画家の門間剛さん(41)=鎌倉市=は原稿執筆をパソコンで手掛け、人と交わる機会がほとんどない。編集者との打ち合わせもメールや無料のインターネット電話だ。「社会との接点を持ちたい」。そう思っていた今夏、伯母から突然、「保護司をやってみないか」と持ち掛けられた。

伯母は保護司として「定年」を迎えるという。保護司をしていたとは知らなかったが、約20年前に亡くなった祖父もそうだったと聞き、驚きは倍増した。

門間さんが漫画家への一歩として弟子入りした「師匠」からは厳しい指導を受けた。独立をして、厳しさの中にあった優しさに気付く。今はアシスタントを使わないスタイルだが、師匠から学んだ厳しさや優しさの連鎖を「自分で止めることはできない」。年齢を重ねるにつれて、「社会にお返しをしたい」という思いも募っていた。

バラバラだったピースがぴたりとはまって「保護司」という形となり、二つ返事で引き受けた。

以前、自動車運転免許取得の合宿に参加したときのことだ。相部屋となったのは鑑別所への入所歴を持つという男性だったが、「とても優しく接してくれた」。保護司の活動を「危険では」と考える人がいるかもしれない。だが、「犯罪や非行をした人は『怖い』。そんな固定観念にとらわれてはいけない」と力を込める。

もちろん不安はある。県内の保護司の平均年齢は65・7歳(8月1日現在)。「人生経験が決して豊富ではない自分に務まるだろうか」と思うこともある。

だが、年配の保護司が多い中で、「若さこそ強み」と前向きに捉える。少年ら若い保護観察対象者には「父親」のつもりで、まっすぐにぶつかってきてほしい。最近、高齢の対象者も増えているというが、年長者には人生の「後輩」と思ってもらい、先輩としての経験を話すことで自信を取り戻してほしい。

無理はしない。自然体で、できることから一歩ずつ。「まずは1人ずつ担当し、仕事と両立させたい」。その積み重ねこそが息の長い活動につながると信じている。

【神奈川新聞】


門間剛さん
門間剛さん

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