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デモと若者(上)渋谷が違って見えた
時代の正体〈37〉デモと若者(上)渋谷が違って見えた

時代の正体 神奈川新聞  2014年10月31日 12:13

渋谷で沿道に向いマイクを手に声を張り上げる福田さん =25日
渋谷で沿道に向いマイクを手に声を張り上げる福田さん =25日

暮れなずむ休日、渋谷のファッションストリート、ラップのリズムに乗り、この街では耳慣れない単語が響いていた。

「トクテイヒミツホゴホウ、ハンタイ」

「ミンシュシュギッテ、ナンダ」

ラッパーのコールでデモを先導するトラックは「サウンドカー」と呼ばれ、大型スピーカーが2台据え付けられている。和光大3年、福田和香子(20)は荷台にひょいと飛び移り、マイクを握った。

「H&M」のサングラス、「SASPL」とプリントされた特注Tシャツにタイトなパンツスタイル。

「私がデモに参加するようになって1年がたとうとしています。別に私、活動家でも何でもありません。本とクラブが好きなただの大学生。でも、ただの大学生にも言いたいこと、言えることがある。政治や世の中に対して、言いたいことを言うってそんなにおかしいことですか」

張りのある声。ちょっと緊張してます、とこぼしていたはにかみはもう、ない。あるいは沿道の大人たちのしかめっ面、同世代の若者たちから向けられる奇異の視線を感じたか。

■ 補 完

SASPL-。「Students Against Secret Protection Law」の頭文字を取って「サスプル」。デモを主催したグループ名は、訳せば「特定秘密保護法に反対する学生たち」。ツイッターやフェイスブックで知り合った大学生で結成された。

代表者もいなければ、ちゃんとした組織があるわけでもない。中心メンバーの一人である福田は「子どもの頃から群れるのは苦手。『連帯』とか言われたら勘弁してよって参加してなかった」と笑う。

政治を学ぶ学生が動画「5分でわかる特定秘密保護法」を製作し、ユーチューブで流した。美術大生はそろいのTシャツや「DEMO」のロゴ入りのニット帽をデザインした。デモを企画し、「オシャレをしてきて」と呼び掛けた。

「デモというと悲壮感や暗い雰囲気が漂うものばかり。私たちは楽しく、明るく、オシャレにやりたい」

福田はどこまでも屈託がない。

では、なぜデモなのか。当日25日、出発地点の代々木公園でメンバーがマイクを手にあらためて趣旨を訴えた。

「政治のことを考えましょうとか、勉強しましょうと言うと、みんなえらいねと言う。でも、政治の主張をすると君、ヤバくないかって。こんなおかしな国、日本ぐらいじゃないですか」

「選挙に行けよと言う人がいる。でも選挙は民意を完全に反映するわけじゃない」。選挙だけが政治に関わる手段じゃない。デモはその手段の一つ。僕たちはおかしいと思った時に、おかしいと言っていい。選挙を補うものとしてデモがある」

■ 虚 無

マイクを握る福田の手に力がこもる。昨年12月6日、秘密保護法が成立した日に話題が及んだ時だ。

「私はとても怒っていた。それは国民の意思を踏みにじった政治家だけに向けられたわけではありませんでした。強行採決は政治家のみによってなされたものではないから。都合の悪いものから目を背け、おびえ、羊のように飼われてきた、そんな大人たちの存在なしには成立しなかったはずです」

法律の施行が12月10日に迫る。

「そんな彼らは言います。デモなんかしたって何も変わんないって。このデモだってそう。いまさら何になるんだって。そういう言葉を浴びせてくる大人たちをたくさん見てきました」

苦い思いがあった。都立中学校に通っていた頃、入学式や卒業式で君が代を歌うことを拒否し続けていた教諭がいた。

なぜ歌わないのか教諭は毎朝校門の前で話し続けた。学校側は制止もしなければ、国歌斉唱の是非を説明することもなかった。「存在しないかのように扱われていた」。翌年、教諭は異動になった。

決められた枠にはまらない人間は不必要と言わんばかりの対応に思えた。「でも言葉にすれば変わり者扱いされるのは分かっていたから」。無関心を装った。

■ 体 現

初めてデモに加わった夜を忘れない。

法案に反対する市民が国会前で座り込みをしているのをテレビで知り、永田町に向かった。マイクを向けられ、思いをしゃべった。誰かに写真を撮られた。大学名や出身地、家族構成を明かしていた。

「パパ、ママに迷惑をかけるかもしれない」。急に怖くなり、家に戻って父に泣きながらその出来事を話した。

それから1年。デモを重ね、むしろ声を上げていかなければいけないと思う。

「私だってもう一朝一夕で世の中が変わるなんて甘い期待はとっくに捨ててます。ただ私がこうして路上に出ることで、自分の言葉で自分の意志を紡ぎ続けることで、私は自分が生まれ育ったこの国が民主主義国であるということを体現してきたつもりです」

そうして臨んだスピーチだった。

「今日のお昼、カレーとパスタどっちを食べたいって聞かれて、パスタにするって言うのも、政治に対して意見を言うのも、自分の意思を表明することで何ら変わらないですよね」

クラブファッションで決めたカッコイイおねえさんに沿道の女子高生がiPhoneをかざし、動画を撮影していた。

〈かっこよかったって抱きしめてくれる友達がいて、全然知らないオバチャンにあなたは素敵(すてき)だわと声をかけられて、直接は何にも言わない癖してデモに初めて参加した弟からは俺は自分が変われる気がしたし姉ちゃんを応援するって珍しく自分の気持ちの書かれたラインが届いていたり…〉

あの日見たいつもと違う渋谷の風景をフェイスブックにつづった。 =敬称略

特定秘密保護法施行を前に大学生が東京・渋谷でデモを行った。主催者発表で2千人。若者たちはなぜ街へ出て、声を上げるのか。

◆特定秘密保護法 防衛、外交、スパイ防止、テロ防止の4分野で「国の安全保障に著しい支障を与える恐れがあり、特に秘匿が必要」な情報を特定秘密に指定し、漏えいした公務員に最高で懲役10年の罰則を科す。共謀したり、唆したりした民間人も5年以下の懲役が科される。昨年12月6日に自民、公明両党の賛成多数で成立した。防衛相や外務相、警察庁長官ら行政機関の長が特定秘密を指定し、秘密の有効期間は最長60年。法律の条文には「その他」の文言が多く含まれるなど秘密指定の範囲があいまいで、政府による恣意(しい)的な秘密指定や国民の知る権利の侵害が懸念されている。

【神奈川新聞】


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