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横浜・緑区の土砂崩れ 違法造成に危機感薄く

社会 神奈川新聞  2014年10月28日 10:00

土砂がアパート1階部分を埋め男性会社員が犠牲になった崩落現場=6日午後3時半ごろ、横浜市緑区白山
土砂がアパート1階部分を埋め男性会社員が犠牲になった崩落現場=6日午後3時半ごろ、横浜市緑区白山

脳裏に「人災」の2文字が浮かんだ。台風18号が猛威を振るった今月6日、横浜市緑区のアパートに住む男性会社員(30)をのみ込んだ土砂崩れ。近隣住民は口々に言うのだった。「5、6年前に業者が崖の上から土砂を搬入していた」「役所に通報したが、何の手だても講じてくれなかった」。記録的な豪雨が悲劇の引き金となったのは間違いない。背景にはしかし、行政が違法造成の歯止めになっていないことからくる深刻な問題が横たわっているように思える。

土砂崩れから2週間が経過した21日、横浜市庁舎の記者会見室にいら立ち交じりの質問が相次いだ。宅地造成等規制法(宅造法)違反で市が是正指導した243件のうち207件がその後1年以上も指導されず、放置されていることが明らかになった。

-放置の原因は。

「緊急案件として引き継がれなかったためだ」

-緊急案件でなければ継続指導しなくていいのか。

「違う。ファイルで引き継ぐ。ただ、優先的な案件が入るとそちらを先にやる。だが、他を手当てしないというのは許されないことだった」

緑区の土砂崩れも業者による違法な盛り土が約3年7カ月放置されていた場所で起きたものだった。にもかかわらず、責任回避の響きさえにじむ回答は、犠牲者が出てなお、当事者意識と危機感が十分に持てない市の構造的な問題を映し出しているようだった。

■忘れ去られる案件

宅造法は斜度を30度以上にしたり、盛り土を高さ1メートル以上にしたりする場合、許可が必要と定める。

違法な建築や開発への対策強化のため2005年に発足した違反対策課によると、毎年10件ほど宅造法違反の案件に対処しているという。

このほか過去5年間で建築基準法違反で指導したものが約1100件、都市計画法違反の指導は約400件に上る。うち是正できたのは400件ほど。指導しても業者が従うケースは多くないのだと担当課長はあっさり認める。

「次から次に新しい案件が持ち込まれ、古い案件に手が回らないのが実情。『指導しっ放し』と言われれば、そうなる」

罰則もあり、刑事告発することもできる。命令に従わない場合、行政代執行によって自治体が安全性を確保した上で費用を業者に請求することもできる。

だが、いずれも実施例はごくわずかだ。担当者は数年おきに異動していく。ひとたび緊急性が低いと判断されると、その案件は存在自体が忘れ去られてゆく。

緑区の件はまさにそうだった。09年1月に近隣住民からの陳情で違法な盛り土を把握した市は指導や勧告を繰り返した。だがそれも11年2月に呼び出し通知書を送ったのを最後に途切れる。

そして-。

土砂崩れが起きた当日、市の担当課が過去に指導歴のある崖だと把握したのは発生7時間後。神奈川新聞社の取材にも当初は「担当課が分からない」「うちの課ではない」と答えていた。

実は呼び出し通知送付後、崖地は業者によってなだらかに改良され、市もそのことを確認し、ただし目視によるものにすぎなかった-といった当初にない説明を市がしたのも21日の会見でのことだった。

■足元見られる行政

では、違法造成はなぜ横行するのか。緑区の崩落現場で違法な盛り土を行っていた不動産・総合建設会社の男性社長(70)は打ち明けた。

「欲をかいた。建設残土の処理費用と盛り土の費用が浮くと思った」

そして絶句した。

「何度も市から指導を受けたが、是正しようにも金がなかった。まさかこんなことになるとは」

競売で落札したこの急傾斜地(約2300平方メートル)に別の建設現場から出た残土を搬入し、傾斜地の上部に平らな土地を作り転売しようとしていたという。

宅造法に沿って許可を取得して残土を入れるとなると擁壁を築造したり、のり面をコンクリートで固めたりと費用がかさむ。無許可ならこうした費用はかからない。残土を受け入れることで収入も得られ、谷地や傾斜地の場合、埋めて平らにすればその上を宅地として転売でき、利益は膨らむというわけだ。

建設残土用地の仲介を手がける県内の男性が続ける。「無許可で搬入したり、許可内容を逸脱したりしていたとしても、民事や刑事で責任追及されるケースはほとんどない。言い方は悪いが、入れ得という部分はある」

■誰が命を守るのか

違法な残土埋め立てが放置されている問題は横浜だけのものではない。

藤沢市葛原には、谷地に残土が埋め立てられたまま2年近く放置された一画(約9500平方メートル)がある。ここもまた、県の土砂埋め立て条例に違反し、土砂の搬出や是正措置命令が出され、再三の指導を受けたが業者は現地を放置したままだ。

行政代執行や条例に基づき刑事告発もできるが、県は「推移を見守っている」とやはり腰は重たい。

挙げる理由は大きく二つ。まず緊急性。税金を投じて代執行するだけの危険性があるかどうか。県の担当者は「現地を目で見て、それほど緊急性がないと判断した」という。目視で危険性を判断している点は緑区の件と同じだ。

もう一つが前例の少なさだ。土砂埋め立てを担当する県リサイクル課によると、条例制定の1999年以降で代執行した事例は2件。横浜市も宅造法違反による代執行は78年以降、実施例はない。

刑事告発や代執行といった強制力のある法的手続きに踏み切っても、費用回収の可能性が極めて低いことも二の足を踏ませている。県による2件の代執行でも費用の大半は回収できていないのが実態だ。

県の担当者は藤沢市のケースについて「既に業者は会社としての実体がない。許可を取り消し、今年3月には命令即時履行催告書を出したが、是正される見通しは立っていない」という。

行政の足元を見て高をくくる業者、諦めからくる行政の“被害者意識”、そうして双方から当事者意識と危機感がますます失われていくという悪循環-。

崩落現場の真下に住む住民は斜面地を見上げ、訴える。

「誰が守ってくれるのか。『業者が悪い』では済まないはずだ」

再び21日の会見。改善点を問われた市の担当者は代執行を従来より積極的に行っていく姿勢を示しつつ、言い添えるのを忘れなかった。

「代執行は違反者がやるべきことを行政が金を出して工事をやるということ。これはもろ刃の剣。どうせ行政がやってくれるなら放っておけばいい、ということになりかねない」

◆横浜市緑区土砂崩れ 10月6日、台風18号による豪雨の影響を受け同区白山の崖地が崩落。直下の2階建てアパートを直撃し、1階の室内にいた男性会社員(30)が土砂に埋もれて死亡した。崖地には2009年ごろから10年3月までに4トントラックで約40台分の残土を業者が搬入していた。斜度が30度を超える場合や高さ1メートル以上の盛り土などは宅地造成等規制法に基づく許可が必要だが、無許可だった。

【神奈川新聞】


崩落崖の概況
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