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中越地震から10年 復興の途上で〈4〉「横浜からも寄り添える」節目迎えた“蘖展”次の10年へ

社会 神奈川新聞  2014年10月26日 11:30

故郷の山河を題材にした自身の作品を前に思いを語る尾身さん=24日、横浜市港南区のギャラリー「CoZAの間」
故郷の山河を題材にした自身の作品を前に思いを語る尾身さん=24日、横浜市港南区のギャラリー「CoZAの間」

目を奪われたのは、全村避難のヘリコプターに乗り込む一人の女性だった。テレビのニュースに映し出されたその女性は、1枚の写真を大切そうに胸に抱えていた。「写っていたのは棚田だったと思う。こんな大変な状況のときに、なぜ写真を持っていたのか。理由を聞いてみたくて」

中越地震から年が明けた2005年1月、横浜市港南区の高橋みどり(50)は帰省の足を延ばし、新潟県長岡市の仮設住宅を訪ねた。旧山古志村(現長岡市)の日常や風景を切り取っていたその女性に「お目にかかりたい」と手紙を書いていた。

快く応じた女性は山古志の診療所に勤める看護師。失われた風景を写し込んだ一枚一枚を小さくプリントし、避難者に配っていた。高橋はやはり震度6強に見舞われた隣の小千谷市出身。父母や祖母にけがはなかったものの、実家は壁にひびが入るなど損傷していた。大地を引き裂いた中越地震が、ともに影響を受けた2人の縁を結んだ。

偶然は重なり、東京で山古志の写真展を開く話が進む。その年の9月、わずか3日間の「中越蘖(ひこばえ)展」。切り株から出る若芽を意味する「蘖」という言葉に、立ち直っていく古里への思いを高橋は重ねた。千人余りが来場し反響はあったが、「せっかく写真を借りることができたのだから、もっとじっくり見てもらいたい」。

夫と営む設計事務所に併設したギャラリーで、地震から1年の節目に蘖展を開催。そして気付く。「遠く横浜にいても、被災地に寄り添える」。変わり果てた故郷の姿に喪失感を覚えていた高橋は前を向いた。

■思い共有

被災地の例えば土砂崩落の現場を見る限り、「1年や2年でどうにかできるような状況じゃない」と感じた。「すぐに忘れ去られないようにしたい」とも思った。だから、10年の継続を目標に据えた。

新潟に根ざして創作する作家を探しては、蘖展の趣旨と出品を呼び掛ける言葉を手紙にしたためた。返信がないこともあったが、これまでに30人ほどが協力。陶芸や和凧、銅細工、和紙の生活用品などが小さなギャラリーを彩った。

2年目から出品を続ける十日町市の版画家、尾身伝吉(59)は蘖展を心待ちにしている。「毎年、節目の時期にこの場所で思いを共有できる。出会ったきっかけは悲しい出来事だったが、実りの多い時間を過ごさせてもらった」

10年という大きな節目にも、故郷の山河を題材にした温かみのある作品が並ぶ。「ただ悲しむばかりじゃなくて、和やかにあの日を振り返ることができる。それはとても幸せなこと」

そう話す尾身自身にも、前を向くきっかけが必要だった。

住み慣れたわが家は一部損壊。近くの小学校に1週間、家族4人で避難した。そのときに接したニュースに、ひどく狼狽した。

親子3人が乗った車が巻き込まれ、2人の命が奪われた長岡市の土砂崩れ。ハンドルを握っていた皆川貴子さん=当時(39)=は尾身の版画が気に入り、たびたび展覧会に足を運んでいた。ともに犠牲になった真優ちゃん=当時(3)=と、奇跡的に救助され中学生になった優太君(12)を連れてきたことも覚えている。

■守る古里

自宅の片付けなどに追われ、半年は創作する気になれなかった尾身。雪解けを待って再開するとき、その最初の題材に皆川さんの古里、旧小出町(現魚沼市)を選び、越後三山を背景に流れる魚野川を描いた。この「甦る故郷」もまた、過去の蘖展に出品され、彩りを添えた。

必ずしも有名でない風景や日常を切り取る作風に逡巡もあったが、「地震で吹っ切れた。古里の良さ、自然の豊かさ、そして厳しさ。それを描き続けていく」。自らの立ち位置を再確認できたことが「この10年の原動力だった」と振り返る。一方で、被災した古い民家がいや応なく建て替えを迫られ、描きたい風景が徐々に失われていく現実にも直面している。

蘖展を訪ねてくる人に自身の体験を交えて優しく語り掛ける尾身に、作品に通じる温かさを感じてきた高橋は継続の目標にしてきた10年を迎えた今、反省を口にする。「自分が古里のためにと思っても、悲しみのどん底にいた人たちにすれば、どれほどの意味があったのだろう。作品をただ紹介するのではなく、作家たちの地震の体験、その後の生活や思いを聞き取り、発信することもできたんじゃないか」

果たせなかったこと、やり残したことがある。だから次の10年を見据え、新たな形で続けられないかと模索を始めた。少しずつ膨らんできた蘖は、きっと枝葉を広げる。

=敬称略

蘖展の会場は、ギャラリー「CoZAの間」(横浜市港南区港南台)。26日は尾身さんもギャラリーにいる。木版画展は11月3日まで。問い合わせは、同ギャラリー電話045(831)5127。

【神奈川新聞】


山古志の棚田の写真を見つめる高橋さん
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