1. ホーム
  2. 社会
  3. 中越地震から10年 復興の途上で〈2〉「住民の力で自立と持続」

中越地震から10年 復興の途上で〈2〉「住民の力で自立と持続」

社会 神奈川新聞  2014年10月24日 12:30

中越地震の震央がある棚田(写真中央)=長岡市川口武道窪
中越地震の震央がある棚田(写真中央)=長岡市川口武道窪

点在する集落と集落とを結ぶつづら折りから道を外れ、砂利を踏みしめながら遊歩道を下っていくと、その場所は現れた。

北緯37度17分30秒、東経138度52分。10年前、新潟県中越地震のすべてはここから始まった。

マグニチュード(M)6・8を記録した本震の「震央」。厳密には足元から13キロ下の地中に、岩盤の破壊開始点である「震源」がある。

直下地震特有の突き上げるような揺れに見舞われた被災地で唯一、最大震度7が観測された旧川口町(現長岡市)。地震から丸1年となった2005年10月23日、専門家やボランティアらが衛星利用測位システム(GPS)を使って震央の位置を特定した。3段連なる棚田の真ん中だった。

今月上旬。鳥のさえずりしか聞こえない朝の静寂の中、1台の軽ワゴン車が坂道をゆっくりと下りてきて傍らに止まった。

クマよけの鈴の音を響かせながら、農作業の準備を始めた星野正子(70)が振り返る。「父から引き継いだこの棚田が震央だなんて。聞いたときは本当にびっくりした」

地表面が食い違うなどの大きな被害は出なかったものの、周囲の斜面が崩落し、しばらく作業ができなかった。いま、再びこの土地を糧にできるようになった喜びをかみしめる。「体力の続く限りここで米作りを続けたい。子どもは別の仕事をしているから、跡継ぎはいないけれど」

◆ 「震央」活用

棚田のすぐそばに目印の標柱が立ち、「震央メモリアルパーク」と名付けられた。爪痕が残るほかの現場や展示施設とともに、中越地震の記憶や10年の歩みを伝える「中越メモリアル回廊」を構成する。その“原点”の場所として、私有地ながら見学者を受け入れる。

星野は「こういう場所はなくてはならないもの。地震のことは忘れられていってしまうから」。この地を守ろうと思うのは、生活のためだけではない。

震源の真上にあり、ひときわ強い揺れで壊滅的な被害に見舞われた川口。再生の道を模索し、長岡市に編入合併したのは、山古志に5年遅れの10年3月だった。

人口28万、新潟県第2の都市としての再出発だった。それは人口5千の小さな町が拠点都市の周辺部になったことを意味した。中越地震で建物が危険な状態になったため、駐車場に張ったテントに災害対策本部を設け、激震地の象徴でもあった旧川口町役場は長岡市川口支所となり、限られた業務を担うだけになった。

山古志などと同様に過疎高齢化が進む中で、数の面では減りゆく住民をどう支え、地域をいかに維持していくのか。

一つの試みが川口で動きだしている。被災後に各集落で芽吹いた地域づくり活動をベースに、3年前に設立された住民参加型のNPO法人「くらしサポート越後川口」。役割を縮小する行政に代わり、地域の課題解決を担っている。

◆ バスを運行

象徴は車体が黄色く塗られた2台のハイエースだ。

路線バスが走っていない中山間地の住民を支える地域バス。旧川口町から事業を引き継いだ長岡市が厳しい財政事情も考慮し、地域の団体が運行主体となる過疎地有償運送に昨春から切り替えた。受け皿となった「くらしサポート」がバスを走らせる。

利用の少ない土曜日の運行は取りやめる一方、運賃を大人200円、子ども100円に据え置き、隣の小千谷市へ通院する際の利便も考慮して運行ルートやダイヤを改編。無駄を省き、売り上げを増やす道を探り続けるが、「どうやっても赤字。でも、利用者の9割は75歳以上の後期高齢者。なくなったら困るという声が多い」と事務局長の赤塚雅之(43)は話す。

市の補助金で赤字を埋めるばかりでなく、地元中学校の授業でバスの利用を伸ばすにはどうしたらいいか生徒たちと一緒に考えたこともある。「自立」と「当事者意識」をキーワードに挙げる赤塚は「これからの川口を元気にしていく上で、若い人をどう巻き込むかは大きなテーマ」と実感を込める。

リース期限を迎えた中古のハイエースを利用した安価なレンタカー事業、住民交流の場でもある「川口きずな館」の運営、同館が立地する市の運動公園の指定管理と少しずつ役割を広げ、住民アンケートも手掛けるなど持続的な地域運営に腐心する。

全国から支援が寄せられた川口の10年。輪の中にいた赤塚は自転車に例えて「これまでは乗っていれば、誰かが背中を押して前に進めてくれた」と振り返り、次の10年を見据える。「これからは自らペダルをこがなければならないが、全速力である必要はない。こぎ続けられる自分たちのペースを見つけていきたい」

=敬称略

【神奈川新聞】


支援への感謝の言葉を刻んだ震央の標柱
支援への感謝の言葉を刻んだ震央の標柱

震度7を計測した旧川口町役場の震度計=2004年11月
震度7を計測した旧川口町役場の震度計=2004年11月

川口支所前で乗客を待つコミュニティーバス
川口支所前で乗客を待つコミュニティーバス

シェアする

編集部のおすすめ

アクセスランキング

  1. 40代男性がはしかに感染 横浜

  2. 伊勢丹相模原店跡、複合ビル建設を検討 野村不と売買交渉

  3. ロマンスカー車内でわいせつな行為・小田急車掌を逮捕/神奈川

  4. 横須賀市内で5900軒停電

  5. 横浜高島屋が開店60周年 鳩サブレー缶など限定販売

  6. 動画 はっけよい…ぎゃー! 比々多神社で泣き相撲

  7. 稲村ケ崎海岸の沖合に女性遺体 鎌倉署が身元など捜査

  8. 閉店セール、開店前に行列も 伊勢丹相模原店

  9. 【写真特集】台風15号の被害状況

  10. 保育園埋設の放射性汚染土問題 横浜市が保護者に相談会