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日本で働き続けたい でも、母国の家族も心配 外国人介護福祉士の思い

社会 神奈川新聞  2014年09月19日 13:35

介護福祉士の国家試験に合格し、「日本で働き続けたい」と話すインドネシア人のウィダヤティさん=横須賀市の特別養護老人ホーム「太陽の家二番館」
介護福祉士の国家試験に合格し、「日本で働き続けたい」と話すインドネシア人のウィダヤティさん=横須賀市の特別養護老人ホーム「太陽の家二番館」

経済連携協定(EPA)に基づくインドネシア・フィリピンからの介護福祉士候補者の約7割が国家試験合格後の日本での介護業務の継続を希望していることが、学校法人「国際学園」(横浜市青葉区)の調査で分かった。しかし、彼らの定住などを見据えた生活支援は進んでいない。国家試験に合格し、日本で働き続けたいという外国人介護福祉士の思いを聞いた。

「ご飯食べましたか?」

「体調はどうですか?」

横須賀市西浦賀の特別養護老人ホーム「太陽の家二番館」。リビングにインドネシア人介護福祉士のウィダヤティさん(26)が現れると、お年寄りらの顔がぱっと明るくなる。一人一人の手を握りながら声を掛け、きびきびと作業する姿は貫禄さえ感じさせるほどだ。

ウィダヤティさんは2010年にEPA介護福祉士候補者の第3陣として来日した。インドネシアでは看護師として働いていたが、「在宅介護が中心のインドネシアにはまだない介護福祉士という仕事を知りたい」とEPAに参加した。

半年間の語学研修を経て、社会福祉法人ユーアイ二十一(同市)が運営する同施設でEPA研修を始めた。施設に来たばかりのころは日本語が苦手で「常に辞書を持ち歩き、日本人職員とは筆談ばかりだった」と振り返るが、勤務の傍ら1日2~4時間の勉強をこなし、ことし介護福祉士の国家試験に合格した。

同法人ではウィダヤティさんを含め6人のインドネシア人候補者が研修しており、本年度も新たに4人を受け入れる。資格試験のための勉強時間を勤務時間に組み込むなど、施設にとって受け入れに負担はあるが、それでも積極的に採用するのは介護職の人材不足が深刻だからだ。

景気が回復傾向になった最近は、介護職の採用はますます難しくなった。同法人も就職説明会を行うほか、数カ月前から折り込みチラシなどにも募集広告を出しているが、1人も応募がないこともある。「将来的な労働力の確保というより、今すぐ外国人労働者が必要」(同法人関係者)というのが本音だ。

ウィダヤティさんは、国家資格取得後の5月から夜勤も担当。日本語での介護記録もそつなくこなす。同法人マネジャーの中村豪さん(37)は「日本人を含め、職員全体の中心的存在になりつつある」と目を細める。

ウィダヤティさんの住まいは勤務先から徒歩30分、法人が借り上げた中古の一戸建てだ。家賃10万円の半額は施設から補助を受け、残り5万円を同居する候補者3人と負担し合う。食事は自炊、昼は弁当持参で生活費を切り詰める。

ほかの職業に比べて収入の低さが問題視される介護職だが、母国の平均月給と比べれば10倍近い高収入だ。EPAの参加動機に「経済面での魅力はあった」とウィダヤティさんも認める。貯金は、母国で看護学校に通っていた妹の学費のために仕送りした。

「今のところ結婚の予定はない」とはにかむウィダヤティさんだが、インドネシア・フィリピンからの女性介護福祉士候補者の約3割が、結婚や介護を理由に帰国を希望しているという調査結果に「気持ちは分かる」と共感する。

中部ジャワの実家では母と妹(22)が脳出血で倒れた父の介護をしている。看護師の資格を持つ妹も自身と同じくEPAでの来日を希望していたが、介護のために諦めた。

「日本は安全だし清潔で暮らしやすいので働き続けたい。でも父の体調は心配だし、来日を望んでいた妹を呼び寄せたい気持ちもある。家族が近くにいたら心強いと思うことはある」

しかしEPA候補者が日本に呼び寄せられるのは、配偶者と子どもだけ。しかも家族には基本的に就労が認められず、資格外活動の許可を得ても週28時間以内でアルバイトなどに限られる。EPA候補者が母国から家族を呼び寄せて、日本で生活していくことは経済的にも困難だ。

将来的な帰国の可能性もふまえ、同法人でも25歳以下の候補者を受け入れているのが現状だ。「候補者が日本人と結婚して、働き続けてくれるのが一番いいんだけど…」と法人関係者からは本音も漏れる。

ウィダヤティさんは今、ケアマネジャーの資格取得にも意欲を見せている。ただ、EPA候補者の滞在資格である「特定活動ビザ」は「基本的に介護施設で介護福祉士として働いてもらうのが前提」(法務省入国在留課)となっており、ほかの資格や業務での滞在は現時点では検討されていない。

EPA介護福祉士候補者の受け入れ調整機関「国際厚生事業団」(東京都)の報告書によると、ことし4月現在、候補者・国家資格取得者を含めてインドネシア人の31・4%、フィリピン人の30・4%が帰国している。

◆定住化など支援に遅れ

EPAによる介護福祉士候補者の受け入れから6年。インドネシア・フィリピン合わせて、国家試験合格者は242人に上る。しかし資格を取得し、日本での就労継続に意欲を見せる外国人に対し、定住化などを視野に入れた生活支援は検討すらほとんどされていないのが実情だ。

厚生労働省外国人雇用対策課は、EPAによる介護福祉士候補者の受け入れについて「あくまでもインドネシア・フィリピンとの経済連携を強化するのが目的で、定住や定着を目指したものではない」と説明。日本の介護現場では人材不足が深刻化しているが、「労働力不足を補うための制度ではない」としている。

国家資格を取得した外国人や受け入れ施設から、家族の受け入れや日本人と同等の待遇といった定住や定着に向けたさまざまな要望があることは認識しているものの、「本年度からはベトナムからの受け入れも始めるなど国としてはまだ受け入れを進め、制度を広めていく段階。定着のための支援を検討する段階には至っていない」という。

今回、外国人介護福祉士の定着に向けた調査研究に当たった国際学園・横浜国際福祉専門学校の伊東一郎副校長は「国家試験に合格し、日本での滞在年数も長い外国人介護福祉士が増えてきた。定着を目指すならば、生活も含めた総合的な支援を本格的に進める必要がある」と指摘している。

【神奈川新聞】


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