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時代の正体〈21〉人種差別撤廃委員会勧告(下)朝鮮学校はなぜあるのか

時代の正体 神奈川新聞  2014年09月08日 13:00

創立63年を数える神奈川朝鮮中高級学校と横浜朝鮮初級学校 =横浜市神奈川区
創立63年を数える神奈川朝鮮中高級学校と横浜朝鮮初級学校 =横浜市神奈川区

 日本の人権状況について勧告した国連の人種差別撤廃委員会の総括所見では、朝鮮学校の処遇について初めて独立した項目が設けられた。高校無償化からの除外と自治体による補助金の打ち切り、縮小に懸念が示され、是正が求められた。対日審査での委員の指摘から浮かび上がるのは、在日コリアンへのヘイトスピーチに根を同じくした、朝鮮半島の植民地支配に起因する民族差別に目を向けない国と自治体、政治の姿勢だ。

 メンバーの一人がジュネーブで行われた審査を傍聴した在日本朝鮮人人権協会の宋恵淑(ソン・ヘスク)さんが説明する。

 「委員の一人は『ジャスティス』という言葉を使い、公正に関わる問題だと指摘した。中華学校やアメリカンスクールと同じ各種学校に分類されているのに朝鮮学校だけ別扱いにされている、と」

 朝鮮学校を無償化の対象から除外している日本の政策は公正、正義にもとる-。世界の人権基準に照らして差別であり、人権侵害だと委員は断じた。

 文部科学省の反論はこうだった。

 「朝鮮学校は朝鮮総連と北朝鮮と密接な関係がある」

 民族学校が民族団体や祖国とつながりがあるという、一般的な事柄のどこが問題なのか明確な説明がされぬまま、指定の基準に該当しなかったにすぎないと主張した。基準自体が審査の途中で変更され、朝鮮学校が対象に含まれなくなったことには触れず、政策の変更はないとも述べた。

 除外の発端は2010年2月、当時の中井洽拉致問題担当相が疑義を唱えたことだった。北朝鮮による拉致問題に進展がないという政治的理由が持ち出された。この年の人種差別撤廃委員会の勧告で「朝鮮学校の除外を示唆する複数の政治家の姿勢」に懸念が表明されたが、制度開始後も支給がなされないまま、結局、12年12月に除外が決定した。

 文科省は、北朝鮮との国交が樹立するか朝鮮学校が日本の学校に当たる「一条校」になれば審査の対象になると説明したが、宋さんは「一条校になれば日本の学習指導要領に従わなければならず、朝鮮語の授業ができなくなる。勧告は『無償化制度の利益を適切な方法で享受できるようにする』と求めており、これは政治問題が解決し、日本の学校になれば対象になるという考えは不適切だという意味だ」と指摘する。

 自らの民族の言葉と文化、歴史を学ぶ民族教育への無理解が政府見解に透ける。それはまた、朝鮮半島の植民地支配の結果、海を渡った朝鮮人とその子孫として在日がいて、その間に奪われた言葉と文化を取り戻すためにつくられたのが朝鮮学校であるという歴史の無視に始まる。

 朝鮮学校の無償化を求める訴訟弁護団の一人でもある師岡康子弁護士は言う。

 「人種差別撤廃条約は植民地主義や奴隷制度への反省の上に結ばれたものだ。例えば、ヘイトスピーチについての勧告で『根本的原因に取り組むべき』としているのも、植民地主義に根ざした朝鮮人への差別であると認識しているからだ」

 自国の利益のため他国の領土を奪い、異民族支配を正当化するため、その民族を劣等とみなし、自国民の優越性をうたう植民地主義-。

 ヘイトスピーチをめぐっては自民党がプロジェクトチームを立ち上げ、「日本人として恥ずかしい」として対策の検討が始まっているが、「あたかも思慮の足りない人たちによるものだという態度だが、政府自体が標的になっている在日を差別的に取り扱ってきた。その象徴が朝鮮学校の無償化からの排除だ。公的な差別が民間におけるヘイトスピーチの蔓延を促している」。

 在日への差別とヘイトスピーチの根源を植民地主義にみる師岡弁護士は続けた。「過去の歴史について政府や社会が反省しないどころか、居直っている。政府が率先して歴史をねじ曲げ、隠していて植民地主義の克服、つまり根本的な解決ができるわけがない」

 審査では、植民地支配のさなかに起きた関東大震災における朝鮮人虐殺について初めて言及がなされ、「いつ調査を行うのか」とただされた日本政府の答弁は「日本は1995年に人種差別撤廃条約を締結しており、その以前に生じた問題は条約には適用されない」だった。

〈朝鮮学校の処遇についての勧告要旨〉
・高校無償化制度からの除外と地方自治体による財政的支援の停止や継続的縮小という、朝鮮半島をルーツとする子どもたちの教育の権利を阻害する法規定と政府の行為について懸念する。
・自国の領域内に住むあらゆる子どもが学校に入学する際、障害に直面しないよう、教育の機会の提供において差別がないことの保障を求めた前回の勧告(2010年)を繰り返す。
・朝鮮学校が高校無償化制度の利益を適切な方法で享受できるようにするだけでなく、地方自治体に補助金の支給を再開するか維持するよう求めることを勧告する。
・ユネスコの教育における差別待遇の防止に関する条約(1960年)への加入を検討することを勧告する。

記者の視点・石橋学 自治体の責任問う


 国連人種差別撤廃委員会の勧告では、自治体が朝鮮学校に支給してきた補助金の停止、削減への懸念も初めて盛り込まれた。

 〈高校無償化制度の利益を適切な方法で享受できるようにするだけでなく、地方自治体に補助金の支給を再開するか維持するよう求めることを勧告する〉

 補助金の問題が無償化問題に絡めて指摘された意味を考えたい。自治体の補助金の打ち切りは、国による朝鮮学校の無償化からの除外がお墨付きを与えた側面がある。勧告は日本政府に向けられたものだが、補助金の停止、削減は同じく民族差別であるとの認識が示されたことを自治体も重く受け止めるべきだ。

 県内に5校ある朝鮮学校をめぐっては、県が2013年2月に北朝鮮の核実験を理由に経常費補助を打ち切り、横浜市は同年10月、国際情勢に応じて支給を止められるよう要綱を改定し、施設・整備補助の不支給を決定した。川崎市は県の打ち切りを理由に13年度は支給せず、学費などの補助制度を廃止した。

 いずれも核実験や拉致問題という政治問題を名目にしているが、差別問題として勧告が突きつけているのは、朝鮮学校のみを特別視し、別扱いするという不公正がなぜ可能なのかという根源的な問いだ。児童・生徒への補助に制度を改変した県の対応においても、その問いは残されたままだ。

 国の政策が自治体に波及し、やがて人々の意識に浸透してゆく。人種差別撤廃条約4条c項にある「国または地方の公の当局または機関が人種差別を助長しまたは扇動することを認めない」の一文が差別における公の責任の重さを表す。従来から差別的に扱われてきた朝鮮学校が、京都でヘイトスピーチの標的にされたのも、今回の審査でその映像を目にした委員が朝鮮学校問題を重要視したのも、偶然の一致ではない。

◆朝鮮学校
 朝鮮半島にルーツを持つ在日コリアンの子どもに朝鮮語による授業で民族教育を行う学校。日本による植民地支配で失われた言語を取り戻そうと終戦直後に全国各地でつくられた国語講習所が始まり。全国に73校(うち休校9校)あり、県内では中学、高校に相当する神奈川朝鮮中高級学校、小学校に当たる横浜朝鮮初級学校、川崎朝鮮初級学校、南武朝鮮初級学校と、鶴見朝鮮初級学校付属幼稚園の5校で約450人が学ぶ。学校教育法で日本の小中学校、高校に当たる「一条校」ではなく、英会話学校などと同じ「各種学校」に位置付けられ、国の助成が受けられない。


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