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「人口減社会」への処方箋 増田元総務相に聞く 地方に雇用、教育の場を

社会 神奈川新聞  2014年09月04日 11:49

インタビューに答える増田元総務相
インタビューに答える増田元総務相

地方から大都市への人口流出が現在のペースで続けば、2040年には全国の半数の896市区町村が消滅する可能性がある-。「日本創成会議」が5月に公表した推計に、多くの自治体が危機感を強めている。「消滅」の可能性を指摘された中には、神奈川の9市町村も含まれる。現場は「不都合な真実」にどう向き合うべきか。政府が「地方創生」に本腰を入れるきっかけとなった推計を座長として取りまとめた増田寛也元総務相に“増田ショック”の処方箋を聞いた。 -人口減少がもたらす弊害とは。

「真っ先に影響が出るのは社会保障、とりわけ介護サービスの供給が難しくなる。地方だけでなく、都市部も『待機介護高齢者』が極端に増えて超過密高齢都市になる。(国立社会保障・人口問題研究所の推計では)神奈川では40年に75歳以上の高齢者が10年の2倍以上になる。産業にも影響し、自治体そのものが成り立たなくなる。黒岩祐治知事は未病産業の創出を打ち出しているが、そうした分野に(予算や人を)振り向ける余力がなくなる。このままでは、東京圏をはじめ大都市圏に人口が一極集中し、国力が衰退してしまう『極点社会』がやってくる」

-対策の要は。

「いかに地方に働く場を創出するかだ。本社機能をどう地方に移すか。(本社機能の一部を東京から北陸に移した)コマツやYKKの例もある。こうした企業に税制上の優遇措置を講じることなどが考えられる」

「昨年、東京圏は約10万人の転入超過となったが、20~24歳が最多で、次は15~19歳の若年層だ。これは大学の東京圏への集中も影響しているだろう。大学をはじめ、教育機関ももっと地方にあっていい」

-東京に隣接する神奈川は人口集中と人口減少の二極化が顕著だ。

「私が知事を務めた岩手県は県庁所在地でも人口減。だから流出をどう抑えるかで県の方向性は一致するが、神奈川は股裂きだ。横浜、川崎のようにどんどん人が入ってくる所がある一方で、県西部や三浦市のように人口減に直面している地域もある。県全体として危機意識や対策を共有するのが難しい」

「都市部では林文子横浜市長らが注力している子育て環境の整備が重要だ。神奈川は、県と政令市の役割分担で難しい面もあろうが、政令市はいろんな権限を持ち、素早く意思決定ができる。そのメリットを最大限生かすことが大切だ」

-人口減に直面する神奈川の自治体に必要な視点は。

「少子化対策はもちろんだが、流出をどう抑えるかにウエートを置くべきだ。神奈川は東京と至近で、大学をはじめ若者が集まる拠点もある。東京的な要素がありつつ、都内より広い土地で居住できたり、住居費が安かったりする生活の自由度を両立させることが可能ではないか。自治体はそうした優位性を発信し、Iターン、Uターンを取り込むべきだ」

-人口減問題で、効果的な対策が講じられてこなかった背景は。

「国の縮小自体、考えたくなかったこともあろうが、具体的なデータがなかったことが大きい。日本創成会議が市区町村単位で基礎データを示したのを機に、地に足の着いた地域活性化策を国民全体で考えてほしい。気を付けてほしいのは、データが『厳しい見通しが示された自治体への投資は無駄だ』と示しているのではないこと。人口減は不都合な真実だが、いたずらに悲観することはない。もちろん自治体だけで課題を克服するのは難しい。国が大きな地方創生の風を吹かせる必要がある」

■神奈川の人口減 日本創成会議の推計では、三浦、松田、山北、大井、箱根、真鶴、湯河原、二宮、清川の1市7町1村が2040年には20~30代の女性が10年に比べ半分以下に減り、消滅の可能性を指摘された。うち、松田、山北、箱根、真鶴、清川の4町1村は、人口1万人も割り込み、消滅の可能性が「より高い」とされた。横浜市金沢区、横須賀、秦野市、中井、愛川町でも20~30代の女性が4割以上減ると推計。一方で横浜市都筑区では20~30代の女性が13%増えるとされた。

◆決定打なく対応苦慮

県内で消滅可能性都市に名指しされた9市町村は、県全体ではなお人口増加が続く神奈川で、いち早く人口減に転じた地域ばかりだ。交通利便性が低く、雇用の場が少ないという悩みも共通する。「即効性のある手だてはない」「国レベルで対応すべき問題」。厳しい未来図の打開策は見いだせていない。

約1万3千人(8月1日現在)の人口が30年間で6千人余りに落ち込むと予想された国際観光地・箱根町。山口昇士町長は「ショックの一言。試算の通りにならないよう取り組まなければ」と危機感をあらわにする。「少子化対策には最優先で取り組んできた」との自負はあるが、試算による若年女性の減少率は71.6%。9市町村で最も高かった。

「箱根は観光に特化した町。仕事の種類は限定的にならざるを得ず、若者が求める職業の選択肢があるかどうか」と雇用の場を確保する難しさを口にする。

三浦市の吉田英男市長も就労環境を課題に挙げる。「昔は2時間かけて通勤したが、今はワークライフバランスが重視される」と都心から遠い立地面の不利を指摘。通勤の負担を軽減すべく始発駅の京急線三崎口駅前に住宅地を整備する青写真を描くが、「20~30代の女性を呼び込むのは至難の業」だ。

ピークの1994年に5万4千人を超えていた三浦市の人口は今、4万6千人を割り込む。2040年は3万人をわずかに上回る程度と厳しい推計になった。

将来の目標人口は1万8千人だが、約1万3千人への減少が見込まれた大井町は定住対策の検討に若者の発想を取り入れる。町内に研修施設のある昭和女子大の大学院生に協力を求め、16年度からスタートする総合計画基本計画にアイデアを反映させる予定だ。間宮恒行町長は「『消滅』と言われるのはショックだが、真摯(しんし)に受け止めたい」と施策に生かしていく構えだ。

一方、「今後、消費税率がさらに上がれば、コストの高い都心は住みにくくなり、地方に移る人も出てくる」(山北町の湯川裕司町長)といった見方も。

打開策として市町村合併を模索する動きは今のところ出ていない。二宮町の坂本孝也町長は「町が消えてなくなるわけではない。小さな町にしかできないこともあり、合併は考えていない」と強調。推計を受けて「人口減に歯止めをかける思いを新たにした」と語る清川村の大矢明夫村長も、平成の大合併を経験した自治体の苦境を念頭に「人口が少なくても、合併は選択すべきでない。その方が地域が消滅してしまうのではないか」と指摘する。

ますだ・ひろや 旧建設省官僚、岩手県知事(3期)などを経て、第1次安倍、福田内閣で総務相。現在は野村総合研究所顧問、東大公共政策大学院客員教授。62歳。

【神奈川新聞】


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