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てんでんこの先に 災害避難を考える<2>豪雨(下)

社会 神奈川新聞  2014年09月02日 12:13

梅雨入り直後の豪雨で崩落が起きた現場=6月7日、横須賀市ハイランド
梅雨入り直後の豪雨で崩落が起きた現場=6月7日、横須賀市ハイランド

不安がないではなかったが、家を離れようとは思わなかった。「さすがに土砂はここまでは流れ込んでこないだろう」

崩落した崖地は自宅から40メートルほど。横須賀市ハイランドの自営業清水伝さん(83)が落雷のような豪音に驚いたのは、6月7日午前1時半ごろ。梅雨入り直後の豪雨ではす向かいの崖が崩れ落ち、大量の土砂が目の前の市道をふさいでいた。

この斜面は、東京・伊豆大島で土石流災害を引き起こした昨年10月の台風26号のときにも崩れた。崩落の規模は今回の方が大きかったが、市は現場確認を行った上で「避難勧告を出すほどではない」と判断。一方で、近くの行政センターで自主的な避難者を受け入れる準備を整えた。

だが、清水さんにすれば「避難は体力的な負担が大きい」。店を空けることにもなり、「できる限り避けたい」との本音もある。

妻智子さん(80)も同じ意見だ。「暗い中で避難すると慌ててしまい、かえって危険になる。家にいた方が安心」

現場を見下ろす崖上に住む藤井実さん(66)も避難しなかった。「これ以上は崩れないと思った。勧告が出たときは避難するつもりだが」

その一方で、自治会防災部の副部長である藤井さんは、お年寄りや障害者らの避難支援や安否確認のための連絡網に基づき、隣家の1人暮らしの女性に電話で連絡。行政センターで避難者を受け入れていることを伝えると、女性は自主的に向かったという。

センターは本来的な避難場所ではないが、「現場からの距離やスペースなどを考慮して開設を決めた」と市幹部。だが、雨の激しさや災害の規模によっては、こうしたきめ細かい対応は難しい。「津波や洪水は危険箇所や状況が視覚的に分かるが、土砂災害はいつ、どこで起きるか分からない。決めておいた避難場所へ逃げたとしても、安全は保証できない」

東日本大震災後に改正された災害対策基本法には、避難行動の選択肢として「垂直避難」が位置づけられた。猛烈な雨の中で移動するより、自宅の2階以上で待避する方が危険を回避できるという考え方だ。横須賀市も昨秋の台風時に一部の住民に促した。

しかし、広瀬弘忠・東京女子大名誉教授は「垂直避難は最後の最後に取るべき行動」と指摘。「災害の歴史においては、多くの人が避難せずに犠牲になっている。家ごと土石流に押し流された広島市のようなケースでは、命を守れない」からだ。

専門の災害心理学の立場から「人には、異変を小さく受け止めようとする『正常性バイアス』があり、避難行動の遅れにつながる一方、突然の大災害時は頭の中が真っ白になる『凍りつき症候群』に陥りやすい」とし、警鐘を鳴らす。「だからこそ災害の予防的避難は、危険な場所からいち早く遠ざかることを目指すべきだ」

【神奈川新聞】


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