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【社説】避難者自殺判決 原発事故の現実に目を

社会 神奈川新聞  2014年08月30日 10:09

原発事故による避難生活中に自殺した女性をめぐる裁判で、福島地裁は慰謝料など約4900万円を遺族に支払うよう東京電力に命じた。

帰還できる展望のない避難暮らしのストレスが自殺につながったと認め、避難者が自殺に至るのは予見できたはずだと踏み込んだ。東電の責任を明確にし、福島の人々が募らせる精神的苦痛の大きさを明示した意義は大きい。

判決は、こう読み替えるべきでもあるのだろう。

放射性物質を広範囲に拡散させる原発事故は、ひとたび起きれば被災者に自ら命を絶たせ得る-。

その重大性を、電力会社のみならず、原発政策を推進してきた政府、容認してきた社会にあらためて突き付けている。

判決文に悲嘆の深さが伝わる。

女性が追われたのは、生まれてから58年間を過ごした土地だった。3人の子どもを夫とともに育て、新しい家も建てた。ただの生活の場ではなかった。家族としての共同体をつくり上げ、最も平穏に暮らせる場であり、地域社会とのつながりを形成する場所だった。

わが身を焼いて命を絶ったのは東日本大震災から4カ月がたとうとしていた2011年7月1日、一時帰宅していた福島県川俣町の自宅敷地で、だった。農業を営み、土とともに生きてきた日々を思い、しかし、ここにいつ戻れるか分からないという絶望がいや増したのは、想像に難くない。

人にとって育ち、住まう土地は人格に等しい。暮らし、仕事、人間関係、つまり尊厳を根こそぎ奪い、再生を困難にさせるのが原発事故である。福島の震災関連の自殺者は7月までに56人に上り、岩手や宮城より20人ほど多いという現実が、その特異性を物語る。疲労や体調を崩し亡くなった震災関連死はやはり福島が最多で1700人を超える。

震災から間もなく3年半。安倍政権と電力各社は原発再稼働に動く。

自民党の高市早苗政調会長が再稼働の党方針を強調する中で「原発事故によって死者が出ている状況ではない」と発言したのは1年余り前のことだ。新たな「安全神話」に、福島の現実に向き合おうという姿勢は感じられない。福島の県内外で仮の暮らしを続ける12万5千人の悲嘆は置き去りにされ、心の孤立は今この瞬間も深まっている。

【神奈川新聞】


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