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横浜市の障害者施設整備 「バリアフリー条例」が壁

社会 神奈川新聞  2014年08月29日 09:00

改修し入り口前方を広げた無限夢工房のトイレの一つ。雑居ビルのトイレは改修も難しい=横浜市西区
改修し入り口前方を広げた無限夢工房のトイレの一つ。雑居ビルのトイレは改修も難しい=横浜市西区

横浜市で今年に入り、地域活動支援センターなど小規模障害者施設の新設、移転が軒並みストップしている。「福祉のまちづくり条例」のバリアフリー基準を満たす新築や賃貸物件の確保が難しいためだ。障害者団体は「バリアフリーのために施設が造れなくなるのでは本末転倒」と困惑。条例の対象施設を現行の全施設から、県条例と同じ床面積500平方メートル以上に緩和してほしいと訴え、署名活動を始めた。市も障害者団体も福祉の進展を目指していることに変わりないが、厳しいジレンマに直面している。

バリアフリー法は、不特定多数や主として高齢者や障害者が利用する建築物などを新築、増築、改築、用途変更する際には通路や駐車場、出入り口、廊下、階段、傾斜路、エレベーター、車いす用トイレなどの項目について細かいバリアフリー基準を義務付けている。対象は床面積2千平方メートル以上だ。

各自治体は条例で基準の上乗せを行っているが、県が対象床面積を500平方メートル以上としたのに対し、福祉の先進自治体を自認する横浜市は0平方メートル以上、つまり全施設とした。2012年度には関連条例を「福祉のまちづくり条例」に一本化し周知を図ってきた。

そこで問題が生じたのが、地域活動支援センター(旧地域作業所)など市内に約400カ所ある日中活動系の小規模障害者施だ。条例の一本化後、「指導が強化されたと感じる。そのため、新設、移転の見通しが立たなくなった」と市障害者地域作業所連絡会(市作連)前会長の佐藤文明さんは語る。

市作連が5月、加盟団体を調査したところ、新設予定7件のすべてが土地探しを含め難航し、移転予定10件も難航か困難を予想していたという。

このため、市作連、市精神障害者地域生活支援連合会(市精連)など市内の障害者団体5団体は26日、対象床面積を500平方メートル以上に緩和するよう求める署名運動を行うことを決めた。

ことし3月末の横浜市の障害者手帳所持者は約14万9千人。09年3月末の約12万5千人から5年間で約2万4千人も増えた。特別支援学校の卒業生も00年度の420人に対し、11年度は735人。障害者施設へのニーズは高まり続けている。一方で、東日本大震災からの復興、円安、東京五輪などで建築費が高騰し、各障害者団体は施設整備に頭を悩ませている。

そうした中で、市が小規模障害者施設にもバリアフリー基準適用を徹底していることに、障害者団体からは「理想を求めるのは良いが、現実離れしている」との悲鳴が上がる。

小規模障害者施設は狭い敷地に新築したり、雑居ビルの一室や民家を賃借したりしている。床面積は地域活動支援センターで平均約140平方メートルにすぎない。市内の駅周辺で基準を満たす賃貸物件はめったになく、新築、改修も多額の費用が掛かる。障害者団体こそ施設のバリアフリー化を進めたいと思っているが、限られた物件、資金の中で妥協点を探している現実がある。

条例について佐藤さんは「国の基準をそのまま小規模施設に当てはめれば、エレベーターとトイレばかりが広く、活動場所が狭いという矛盾が生じるのは明らか」と指摘。市精連の大友勝代表も「現在の基準では田園地帯でしか施設を造れない。街の中、人の中で支えるという障害者福祉の基本理念がゆがんでしまう」と述べ、「対象を県条例と同じにするのが現実的な対応ではないか」と指摘する。

障害者団体の困惑に対し、市建築情報課は「バリアフリーの基本理念から面積の緩和は考えていない」と言い切る。今後の高齢化を考えれば、障害の種別にかかわらずバリアフリーは徹底すべきだとの考えだ。新築の場合は完全に適用。ただ、既存物件を利用する用途変更の場合は「施設ごとに物件や利用者の事情を聞き、バリアフリーの各項目について適用除外するかどうか審査する。ぜひ相談してほしい」と説明する。

ただ、障害者団体側は「審査は半年かかったケースがある。許可される保障もなく審査が長期間になれば物件を確保していられない」と語り、面積の緩和を強く求めている。

◆建築費の高騰も課題

「駅から近くなければ障害者は利用できない。雑居ビルの空き室を探しているが、基準を満たす物件がない」「耐震性の問題で移転が必要になった。これまで支えてくれた地域の中で探しているが見つからない」。横浜市のバリアフリー基準に対し、新設、移転を検討している障害者施設からは厳しい現実を訴える声が相次ぐ。

西区で全障害を対象にした地域活動支援センター3施設を運営しているNPO法人「無限夢工房」(鈴木源一郎理事長)は、4施設目を整備しようとビルの空き室を探している。樋野大禄統括所長は「既存3施設は横浜駅に近く、利用者は市内全域にわたっている。4施設目も駅近くで見つけたい。障害者の生き方を保障するなら、交通アクセスも重要」と語る。

しかし、物件探しは難航している。「オーナーに障害者施設を理解してもらい、さらに、バリアフリーのために水回りや室内の改修を承認してもらうのは大変だ」。審査の間の家賃負担も心配といい、「許可される保障もないのに何カ月も物件を確保していられない。審査はせいぜい1カ月以内でないと」と語る。

港南区で知的障害者、発達障害者を対象にした地域活動支援センター3施設を運営する一般社団法人「みのりの里」(関水実代表理事)は4施設目の新築を検討中だ。候補地とオーナーも見つかっている。しかし、「造れるかどうか悩んでいる」と小野義浩常務理事は表情を曇らせた。

みのりの里は、既存の建物を改築した2施設に加え、ことし4月に新築の3施設目をオープンした。延べ床面積約160平方メートルの2階建てだ。「建築資材は高騰し、消費税も上がった。補助金が上がらない中で大変な負担だった」という。それでも基準通り玄関への通路にはスロープを併設し、四つのトイレのうち一つは、中で車いすが360度回転できるトイレを整備した。「利用者は17~18人を想定していたが、活動スペースが想像以上に狭くなり12~13人しか利用できなくなった。利用を断わざるを得ない人も出てつらかった」。その車いす用トイレも、現在は利用者に身体障害者がいないため物置同然になっている。

4施設目について小野さんは「エレベーターは1基500万円以上。オーナーに基準通りに建築してもらうと家賃が上がり、職員を雇えなくなる」と苦しい財政事情を語る。

「知的障害者、発達障害者の施設と身体障害者の施設ではニーズも違う。限られた資金、スペースの有効利用を考えれば障害種別に応じて柔軟に対応してほしい」と語る。「特別支援学校の卒業生は増え続けている。施設がなくて困るのは障害者と親だ」と訴えた。

【神奈川新聞】


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