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ジャーナリスト・松竹伸幸さん
時代の正体〈17〉語る男たち(5)軍事語る護憲運動を

時代の正体 神奈川新聞  2014年08月16日 10:48

年間24冊の出版物の企画制作に携わる松竹伸幸さん=東京都千代田区のかもがわ出版東京オフィス
年間24冊の出版物の企画制作に携わる松竹伸幸さん=東京都千代田区のかもがわ出版東京オフィス

 語らずして、語る。それが役割と自任する。

 東京・神保町駅近くの中華料理店。議論は続いていた。

 「タイトルは『安倍政権こそ日本の最大の脅威』でどうだろう」「『これまでの護憲運動を超える』というのはどうかな」

 やんわりと、しかし、言うべきことは言う。

 「個人攻撃のようになるのはやめましょう」「護憲を超えて、はいいですね」

 円卓を囲むのは、元防衛官僚の柳沢協二さん、国連職員として紛争地で武装解除を指揮した東京外国語大大学院教授の伊勢崎賢治さん、防衛省の研究機関、防衛研究所の元所員で安全保障論が専門の桜美林大学教授の加藤朗さん。いずれも防衛・安保政策、国際貢献論のスペシャリストである。

 出版社の編集長としてそれぞれの著書を手掛けたことがあり、3人を引き合わせた。そうして発足をみた「自衛隊を活(い)かす:21世紀の憲法と防衛を考える会(自衛隊を活かす会)」。夜の会合は発足記念シンポジウムの打ち合わせだった。

 鶏の空揚げと野菜炒めをつまみに紹興酒の杯を傾ける。議論が脱線するたび軌道修正し、時には提案もする。

 「シンポのタイトルですが『憲法9条』という言葉を入れるのはどうですか」

 ただちにダメ出しを食らった。

 「憲法という言葉は若者からは遠い」「右の人も左の人も納得できる名称がいい」

 苦笑し、打ち明けた。

 「つい9条という言葉を口にする。やはり、どこかで思い入れがあるからだろう」

 会の設立を持ち掛けた立場として運営を支えるが、自らは前面に出て語らない。そう決めている。

 「私はかつて共産党本部で政策を考える立場にいた。いわば、従来の護憲運動を担っていた。軍事や国際貢献を語る新しい護憲運動のためには、自分が前に出ないほうがいい」

 安倍晋三首相が進める集団的自衛権の行使容認に反対して立ち上げた会ではあるが、掲げるのは「憲法解釈を変えず、自衛隊による国際貢献や防衛の道を探る」。自衛隊の廃止や縮小を求めてきたこれまでの護憲運動とは出発点が異なっていた。

エリートコース


 長崎県生まれ。父親は炭鉱労働者だったが、やがて閉山に。一家で夜行列車に揺られ、東京へ出た。だが父の働き口は見つからず、再び居を移した神戸で高校卒業までを過ごした。日本中が高度成長期に沸いていた時代、家は貧しかった。それでも父は「大学には行け」と言った

 一橋大に進学。貧しさから抜け出したいと考えていたが、社会を変え、貧しさ自体をなくそうとするマルクス主義の考えが新鮮に映った。学生運動にのめり込み、学生自治会の全国組織「全学連」(全日本学生自治会総連合)委員長を務めた。

 「学生運動は下火になっていった時代で、人が集まらなくなっていた。運動をどう広げるか悩み続けた」

 学費値上げ反対闘争を率い、一方で学生運動に携わる者は授業なんて出るもんじゃないという風潮に異を唱え、学生の本分は勉学であるとつづった「松竹論文」は語りぐさとなっている。「同世代から、あの松竹さんですかと声を掛けられる」

 思えば、本質は何かを突き詰める姿勢は当時からそうだった。

 共産党の国会議員秘書になり、40歳で党政策委員会の外交・安全保障担当に抜擢(ばってき)された。党の政策作りに携わり、気付けば党のエリートコースを歩んでいた。

 やがて壁に突き当たる。

 「国民の多くが自衛隊の存在を認めている。なのに護憲派は自衛隊を違憲とみなし、軍事について議論を避ける。他国から攻められたらどうするのかと問われ、自衛隊を否定する護憲派からは、対応する防衛政策が見えてこない。これでは護憲派や護憲政党への支持は広がらない」

 憲法を守るには、しっかりとした防衛政策を持った護憲派が政権に就く必要がある-。2006年、共産党を「退職」。京都のかもがわ出版に入社した。

一致点見いだし


 最初に手掛けた本が防衛省の元幹部の著書だった。

 タイトルは「我、自衛隊を愛す故に、憲法9条を守る」。

 われわれは日本を守るために隊員を鍛えてきた。それが海外派兵によって命を落とすようになってはならない-。軍事の何たるかを知る肉声にこそ意味があり、目指す運動の方向性があった。07年、第1次安倍政権のころだった。集団的自衛権の行使容認に向けた議論はすでに始まっていた。

 アフガニスタンなどで武装解除に当たった伊勢崎さんも以前なら接点を持ち得なかった。「武装解除という行為は護憲派の中には『武力行使』に当たるという認識があったので」

 柳沢さんについては「沖縄に海兵隊は常駐している必要はない」という論考が目に留まり、「元防衛官僚がここまではっきり言うとは」と驚き、連絡を取った。

 現行憲法の下でできる日本らしい軍事や国際貢献の在り方。その両輪となる2人の知己を得た。

 やはり出版を通じて知り合った加藤さんに言われた。

 「われわれは護憲派としては素人だ。今度はあなた自身が考えをまとめるべきだ」

 昨年4月に「憲法九条の軍事戦略」を出版。「護憲派は軍事というものを全否定する勢力だと思われてしまっては、主張が広がることも難しい」。一方で自衛隊の戦力は米国の軍事戦略に沿ったものとして備わっている。専守防衛の観点から見直せば、不必要なものもでてくる。そこに左右の立場を超えた一致点の鍵を見いだす。

 今年6月に出した「集団的自衛権の焦点」では集団的自衛権行使の論拠として安倍首相が持ち出した議論を「リアリティーがない」と断じた。「右か左か、立場や考え方は関係ない。自衛隊が海外に行き人を殺すのはおかしいという思いは、多くの人に共感してもらえるはずだ」

 6月7日に都内で開かれた自衛隊を活かす会の発足記念シンポジウム。柳沢さん、伊勢崎さん、加藤さんが登壇し、自衛隊のOBが国際貢献の現場での思いを語った。自身は受付で来場者の案内に専念していた。

 「壇上で語ることはなくても、シンポジウムに来た人に、私の思いは伝わっているはずだと思う」

 春に大学を卒業した長男に言われたことがある。

 「お父さんは共産党っぽくないと前から思っていたんだ」

 大学では伊勢崎ゼミに学び、報道メディアの道を選んだ。やはり伝える立場に進んだことがうれしかった。

まつたけ・のぶゆき 1955年長崎県生まれ。ジャーナリスト。かもがわ出版編集長。元防衛官僚や学識者らと立ち上げた「自衛隊を活かす:21世紀の憲法と防衛を考える会」の事務局を務める。


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