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【照明灯】音楽の魔力

社会 神奈川新聞  2014年08月13日 12:24

音楽が必ずしも人生を豊かにしてくれるとは限らない。時には人の心を狂わせる、いわば魔力を併せ持つ▼ワーグナーの楽劇がかき立てる異様な興奮もその一つではないか。この希代の天才作曲家が生んだ名曲は聴いた人の魂をわしづかみにして離さない魅力がある。長大な4部作「ニーベルングの指環」では、何と神々が憎悪や嫉妬に突き動かされ謀略を張り巡らせる。神力のぶつかり合いだから物語も音楽も壮大にして官能的である▼そんな偉大な芸術がはらむ毒のなせる業か、ついには20世紀最大のモンスターさえ魅了してしまう。第2次大戦で世界を悪夢に陥れたヒトラーだ。ナチスの戦意高揚にも役立ったというから作曲家にとっては迷惑な話だ▼傲慢(ごうまん)さで知られるワーグナーだが、その元には多くの人や金が集まった。他を引きつける特別な力があったのだろう。ついには自身の楽劇を特設劇場で上演する大事業に成功する。1876年のきょう、ワーグナー自ら総監督を務めたバイロイト音楽祭が始まった。140年近くを経て、なお熱狂を呼ぶ伝統の音楽祭。その魔は健在だ▼今は世界各地で紛争が勃発する時代。ファンのお叱りを受けるかもしれないが平和貢献には心を安らかにするモーツァルトの方が適任か。

【神奈川新聞】


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