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【照明灯】遠く隔たる平和への願い

社会 神奈川新聞  2014年08月09日 10:55

作家・野呂邦暢は1937年、長崎市内で生を受けた。父の応召によって転居した隣の諫早市から、原爆が投下された長崎の上空に閃光(せんこう)が走るのを遠望した。生まれ故郷は一瞬にして失われた

▼芥川賞受賞作「草のつるぎ」は、陸上自衛隊に入隊した体験を基につづった。表題は戦闘訓練の匍匐(ほふく)前進の際、肌を刺す鋭い真夏の草を表す。戦地からの生還を果たした、新隊員の教育係は言う。「いま戦争が始まったら、ここにいる連中は皆死ぬだろうな」

▼つらい訓練の先に本当の戦闘が待っているという緊張感は希薄である。若い野呂にとって、そこは仮の居場所でしかなかったようだ。だが今、戦後の安全保障体制の転換とともに、自衛隊の役割も大きく変わろうとしている

▼長崎はきょう「原爆の日」を迎える。田上富久市長は式典で読み上げる平和宣言の中で、集団的自衛権を含む安全保障をめぐる議論により国民に広がった平和への不安と懸念に真摯(しんし)に耳を傾けるよう政府に要請する

▼広島では6日、被爆者団体の代表が集団的自衛権の行使を容認した閣議決定の撤回を安倍晋三首相に迫った。「抑止力によって戦争に巻き込まれない」という首相の説明は、被爆者らが訴えてきた核廃絶、平和の願いと遠く隔たっている。

【神奈川新聞】


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