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ウナギ考(下)大量消費国の責任問う

社会 神奈川新聞  2014年07月31日 10:30

シンポジウム「うな丼の未来2」で討論する研究者や関係省庁職員、業界関係者ら=27日、東京都内
シンポジウム「うな丼の未来2」で討論する研究者や関係省庁職員、業界関係者ら=27日、東京都内

絶滅危惧種に指定されたニホンウナギに関し、研究者らが危機感をあらわにするのには理由がある。端的に「ウナギはまだよく分からない生き物」で資源回復の有効打を見いだすのが難しいからだ。地道な保全活動を上回る資源枯渇に歯止めをかけるべく、関係者は調査や対策を急ぐ。

■養殖の誤解

ウナギに関する誤解で多いのは「養殖なんだからいくら消費しても構わないのでは」という考えだ。

確かにわれわれが口にするウナギのほとんどは養殖だ。その全てはシラスウナギ(稚魚)を河口で採捕し、養殖池で人工的に育てたもの。市場に出回るウナギは全て、そもそもは「天然」なのだ。捕りすぎれば当然、枯渇していく。

天然資源に頼らず、卵からふ化させて育てるのが「完全養殖」で、日本は2010年に世界で初めて成功している。だが「現在の施設と技術力で育てられるシラスウナギは、年間250匹程度」と水産総合研究センター(三重県)。同センターは16年までに1万匹を達成したいとし、20年には商業化を実現することを目標にしている。ウナギ量産研究グループの田中秀樹さんは「それまでにはまだいくつかの技術革新が必要。現状ではめどが立っていない」と話す。

魚類の資源回復策として一般的なのが、養殖魚の放流だ。ただ成長過程で雄と雌に分かれていくウナギの場合、養殖されるとほとんどが雄になり、放流された川の生態系バランスを崩す可能性がある。異種の混入や伝染病の恐れなどもあることから、研究者の間では有用性を疑問視する声が根強い。

■挑戦的判断

今年6月、ニホンウナギは国際自然保護連合(IUCN)によって「絶滅危惧種」に分類された。IUCNウナギ調査委員会のマシュー・ゴロック委員長は、「今回の評価はわれわれにとって大きなチャレンジだった」という。ニホンウナギに関する体系的な調査がなく、評価の基準となるデータが十分ではなかっため、「情報不足」に分類される可能性もあったためだ。

しかし今回、IUCNは同じくデータが十分ではなかった東南アジアの「バイカラー種」についても、分類を一つ上げて「準絶滅危惧」とした。理由をマシュー委員長は「近年特に、重度に漁獲圧が高まっているためだ」と説明する。

背後に存在しているのはまた日本だ。国内消費はニホンウナギとヨーロッパウナギがほぼ全てを占めていたが、両種の資源が乏しくなる中でバイカラーが次のメーンターゲットになりつつある。

水産庁でウナギを担当する太田愼吾漁場資源課長は、「中国でもヨーロッパウナギに替えて日本向けにバイカラーを養殖しようとする動きが広まる。ただ熱帯のウナギの養殖技術が未成熟で、ほぼ死滅させている。まさに資源の使い捨てだ。フィリピンなどには、すでに日本の商社も入っている」と指摘する。

この背景の中で出されたIUCNの判断を、北里大海洋生命科学部の吉永龍起講師は「踏み込んだ決断だ」と評価する。「市場原理を優先し、捕れるだけ捕って安く消費し、枯渇したらまた次へという日本の態度が、世界から警告を受けていると捉えるべきだ」

■保全と調査

ウナギは外洋で産卵・ふ化し、海流に乗って河川へとたどり着く。乱獲とともに減少の要因と考えられているのが、近年の気候変動による海流の変化や、河川の護岸工事やダムなどによる生息環境の悪化だ。

ニホンウナギの産卵場所が日本から2500キロ離れたグアム島沖と確認されたのが、つい5年前。産卵に向かう親ウナギがたどるルートなど生態の大部分は謎に包まれたまま。環境変動の影響があったとしても、広範な生活史に対して即効性のある保全対策が立てられないのが現状だ。

吉永講師は「親ウナギの全てではなく、恐らくどこか一部の川のウナギが再生産を支えていると考えられる。そこを重点的に守るのが有効だが、分かるのはまだ先になりそう」との見通しを語る。

現時点でできるのは漁獲制限と環境整備、現状把握のためのデータ収集という、地道な積み重ねだ。

吉永講師らが相模川河口で始めたシラスウナギの遡上(そじょう)量を調査する「ウナギ川プロジェクト」は、全国7河川に広がりをみせる。環境省は生息環境調査として天然ウナギの分布域の把握を始め、国土交通省も遡上を促すために機能していない魚道の見直しなどを進める。

ウナギは川に入ってから産卵までに5年から十数年を要するため、一度減ると回復が非常に難しい。資源の保全と改善には地道で粘り強い対策が必要となる。さまざまな利害関係を持つ業界や関係省庁が、同じ方向を向くことが不可欠だ。

土用の丑(うし)の日を前に来日し、漁業や養鰻(ようまん)業、卸や小売りをはじめとする業界全体の関係者と会合を持ったIUCNのマシュー委員長は言った。

「何が問題で、どうすればいいか。すでに皆さんは気付いているはずです」

世界に流通する7割を消費しているウナギ大国への、痛烈な皮肉だった。

■ニホンウナギは絶滅危惧種

国際自然保護連合(IUCN)は6月、絶滅の恐れがある野生生物を評価したレッドリストで、ニホンウナギを絶滅危惧種に分類したと発表。3ランクある絶滅危惧種の中で2番目に高い「近い将来における野生での絶滅の危険性が高い種」と判定した。

日本の親ウナギの漁獲量は1981年の1920トンから2011年の229トンに減り、稚魚のシラスウナギの漁獲は過去30年間で90%以上減ったことなどから、絶滅の危険が高まっていると判断した。

乱獲や生息地の破壊、海流の変化などが理由で、養殖向けのシラスウナギの乱獲が大きな脅威でありながら、依然として各地で乱獲が続いていると警告。インドネシアなどに生息するウナギの一種についても、ニホンウナギの減少に伴って代替種としての需要が高まっており、国際取引が増加傾向にあるなどの問題を指摘した。

ニホンウナギ減少の背景にあるのは1990年代末から2000年代始めにかけて急拡大した日本のウナギ消費だ。町の専門店で食べる高級食材だったウナギが、加工済みのかば焼きパックやコンビニのウナギ弁当などの形で売られるようになり輸入も急増した。

また、財務省の統計などから、絶滅危惧種に指定され国際取引が規制されているヨーロッパウナギがフランスから中国経由で輸入されたり、地元当局が輸出を禁止しているフィリピン原産の稚魚など、外来種ウナギが大量に日本に輸入されたりしていることも判明している。

【神奈川新聞】


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