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森の管理法、転換点に 横浜自然観察の森が30年

社会 神奈川新聞  2016年11月29日 09:40

地上140メートルから無人小型機ドローンで撮影した横浜自然観察の森((C)ネイチャーシネプロ 吉田嗣郎)
地上140メートルから無人小型機ドローンで撮影した横浜自然観察の森((C)ネイチャーシネプロ 吉田嗣郎)

 横浜市栄区の「横浜自然観察の森」が開園30周年を迎えた。公益財団法人「日本野鳥の会」が管理する一帯は年々本来の姿を取り戻す傍ら、環境保全や緑化に関する社会のとらえ方も変わってきた。長年見つめ続けた専門家は言う。「森の管理は転換点を迎えた」-。

 

変 容


 鎌倉との市境に、横浜市内最大の緑地が広がる。その一角、45・3ヘクタールを占めるのが自然観察の森だ。

 「起伏のある丘陵地に雑木林、草地、湿地と多彩な顔がある。ハイキングコースもあって散策しながら自然観察を楽しめるんですよ」

 野鳥の会チーフレンジャー、古南幸弘さん(54)の森を見つめる目は優しい。

 開園から10年間勤務。都内の同会本部事務局を経て、2012年から復帰した。職員・スタッフ5人と共に、環境管理やボランティアの調整など幅広い仕事をこなす。観察の森における鳥類の変化など、数編の論文も出している。

 30年という年月が森に変容をもたらす。「森林性の動植物にとっては生息環境が豊かになってきた」。キツツキの仲間のアオゲラや東南アジアから飛来する渡り鳥、オオルリ。森林で繁殖する鳥も増えた。同じ渡り鳥のキビタキも多く見掛けるようになった。昔は県西部などの山地に行かないと見られなかった鳥も、標高が低いこの森で出合えるようになってきた。

 変化は喜ばしいことだけではない。

 「過去に植樹された木が育ち過ぎて、草地が好きな生物は減る傾向にある」。1990年あたりを境にキリギリスはまったくいなくなった。林のへりから草地に巣を作る鳥、ホオジロも、開園当初は一回りすれば10羽ほどのオスのさえずりを確認できたが、現在は2、3羽見られるかどうか。

 かつては農家が肥料や燃料を確保するために里山へ入り、草を刈り、落ち葉を集め、人の手を加えることで雑木林や草地を形作ってきた。「整備や管理の仕方を変える必要が出てきている。森を守る一方で、伐採などもし、かつていた在来種を回復させる取り組みを加速させたい」


 

多様性


 京急電鉄の開発が持ち上がったのは72年。市は金沢区釜利谷地区の一部を許可する一方、残りの同地区と栄区の緑地を「金沢市民の森」として、保全する契約を結んだ。

 環境庁(現環境省)が創設した「自然観察の森事業」は、自然の喪失が著しい大都市とその周辺において、拠点のモデルを整備し、自然保護教育を推進していこうというもの。栄区側は国内初の同事業に認定され、「横浜自然観察の森」として、86年3月に開園。現在は全国に10カ所ある。2007年には市が京急と協定を結び、森の買い取りを開始。県内広域水道企業団の所有地約1・5ヘクタール以外を14年度に完了した。

 開園当初から関わる野鳥の会。これまでは環境を「守る」ことに主眼を置いたが、「手を入れる」に向かいつつある。

 「かつていた在来種の動植物が生息しやすい土地作りが大切になる」。自然の地形を利用して、湿地やため池を作ることで、水辺の環境を生み出す。多様な生態系を目指すためだ。

 人の活動の影響で持ち込まれ、増えた外来種の駆除や除去にも取り組んでいる。

 05年、日本固有の生態系保護などを目的とした外来種被害防止法が施行され、県は06年に「県アライグマ防除実施計画」を策定。横浜市でも同年から駆除に着手。同園では13年度からボランティアの力を借りて、1年目は3頭、2年目は17頭、3年目は8頭を捕獲した。

 植物では、外来種のセイタカアワダチソウが草地に入り込んで繁殖していた。2000年から受け入れる企業ボランティアの手を借りて、根から取り除く。「除草を続けている場所ではかなり少なくなった。大人数による協力はとても効果的。生物多様性の理解も広がる」と喜ぶ。

 タヌキ、ノウサギなど在来種の脊椎動物190種、昆虫2450種、植物910種。現在、同園で生息が確認されている動物は多岐にわたる。

 絶滅危惧種の植物など、人の干渉を嫌う生物の生育環境を保護するため、立ち入りを制限するゾーンも設けた。「周辺の開発地から逃げ込むように移った生物もいるのでは」とみる人もいる。

 物流が盛んで、都市生活の影響も受けやすい横浜では困難も多い。だからこそ、ボランティアと共に在来種を回復させる取り組みはやりがいもある。


 

人の手


 開発規制だけでは緑地保全は進まない。市は独自の取り組みとして、土地所有者と使用契約を結ぶ緑地保全制度を1971年に開始。今年4月現在、43カ所(約527ヘクタール)を指定している。近年は相続が困難といった理由で、所有者から申し出のあった土地を買い取るケースもある。また2009年には「横浜みどり税」を創設。個人・法人から徴収した年間24億円ほどを緑化推進、質の向上、市民参画の促進に充てている。

 森を支えるのは、やはり人だ。

 「優れた良質なボランティアが大勢いることも都会ならでは」と古南さん。同園での活動は年間延べ3千人にも及ぶ。

 ボランティアが加盟する横浜自然観察の森友の会は1988年に発足。現在は雑木林ファンクラブ、定点カメラで動物調査するクラブなど、11グループが存在し、会員は140人。独立した事務局が運営する。交通費も出ない“手弁当”だが、戸塚区内から年間300日近く通う人もいる。

 その“名物ボランティア”、大浦晴壽さん(66)は野鳥観察に興味を持ち始めた9年前、自然観察の森に入った。「大都市なのに手つかずに近い自然が残っていることに驚いた。鳥も多い」。元エンジニアで探究心も強く、「野鳥の季節変動、年間変動も追いたい」と気付けば年中通っている。

 環境教育も、大事な役割の一つだ。

 同園内にある自然観察センターの利用者は開園当初は年間3万人弱だったが、92年に宿泊施設「上郷・森の家」が開設したことで、小学生などの団体客が増えた。昨年度は市内の小学校を中心に150校以上の児童を含む約4万7千人が利用した。

 「横浜にこんな大きな森があるとは思わなかった」「たくさんの生き物がいることに驚いた」。子どもたちは自然との触れ合いを楽しむ。

 10月に開かれた30周年記念のトークショー。俳優で日本野鳥の会の会長を務める柳生博さんや大浦さんら3人の達人が森の楽しさを語った。会場は300席以上が埋まり、熱気に包まれた。

 古南さんは言う。「市民にもっと森を知り、森に来てほしい。森で遊ぶ楽しさを伝えたい」


30年の移り変わりを説明する古南さん=横浜自然観察の森内の自然観察センター
30年の移り変わりを説明する古南さん=横浜自然観察の森内の自然観察センター

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