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ハコ入りムスメプロジェクト(上)街で得た「頼る力」 女子大生が地域課題に挑戦

社会 神奈川新聞  2014年07月11日 12:00

大佛次郎が小説で描いた場所をめぐる撮影会で笑顔を見せる大石さん(右)ら=横浜市中区の山下公園
大佛次郎が小説で描いた場所をめぐる撮影会で笑顔を見せる大石さん(右)ら=横浜市中区の山下公園

 女子大生が地域社会の課題解決に取り組んでいる。過疎や少子高齢化といった閉塞(へいそく)状況を若い世代の発想とエネルギーで打開しようという試みだ。自治体と協働してプロジェクトを主催するNPO法人「ハナラボ」(東京都墨田区)は、そこにある思いを託す。「社会へ出てゆく前に時代を切り開くリーダーシップを身に付けてほしい」。横浜で昨年始まった取り組みに参加した一人の女子大生の成長の軌跡を追った。

 3月中旬、横浜マリンタワーで写真展が開かれた。横浜中華街や元町といった街並みに一眼レフを構えた若い女性の笑顔-。会場を飾る一枚一枚は女子大生のアイデアの結晶だった。

 横浜港を眼下に望む大佛(おさらぎ)次郎記念館(横浜市中区山手町)に若い世代を呼び込もうと昨年5月に始まった「ヨコハマ ハコ入りムスメプロジェクト」。その一つとして女子大生が開いた女子大生による撮影会。横浜を愛した昭和の文豪が写真愛好家であったことに着想を得たものだった。

 企画から運営までを依頼した同市文化振興課の担当者は「来館者離れ、特に若い世代の足が遠のく記念館と流行に敏感な女子大生。真逆な存在をつなぐアイデアに来館者増のヒントがあると思った」と話す。イベント効果もあって2013年度の来館者は前年比約15%増と大幅に伸びた。

プロジェクトメンバーの一人、慶応大2年の大石真子さん(19)は「実現できるとは思わなかった。時間もお金も人手もないものだらけ。多くの人に支えられ、補うことができた」と振り返る。

モデルの不在


 〈社会課題の解決を通して女子大生のリーダーシップを育む〉

 ホームページでそう銘打つ「ハナラボ」の活動は11年夏、島根県海士(あま)町での「婚活事業のアイデア出し」に始まった。若者を呼び込むまちづくりに成功したものの、定住に向け、いかに結婚相手を見つけてもらうかという難題が持ち上がっていた。「女子大生なら今までにない発想ができるのでは」と地元から声が掛かった。

 山梨県北杜市では限界集落への移住促進計画を練り、宮城県石巻市の漁村では東日本大震災の復興のため、漁業に代わる新しい事業を地元住民と考えた。

 大石さんが、そうしたハナラボの活動にたどり着いたのには理由があった。

 幼いころから働く女性に憧れていた。

 高校生のころ、先生に「将来を考えるように」と言われたが働く女性のイメージが浮かばなかった。母親は中学生になるまで専業主婦。生まれ育った社宅ではほとんどがそうだった。

 就職活動の情報サイトを見回してもモデルになっているのは男性ばかり。探し当てたハナラボの関連サイトは違った。女子大生専用の就活応援サイト「ハナジョブ」では子育てをしながら働く女性、女性が生き生きと働く企業が紹介されていた。

 問い合わせると、地元の横浜で始まるプロジェクトを教えられた。母校の鎌倉女学院は、かつて大佛が教壇に立った学校でもあった。

周り巻き込む


 ハナラボの代表を務める角めぐみさん(45)は言う。

 「女子大生に何ができるのか、半信半疑の目で見られることもある」

 だが、「女子」だからといって「何か」ができないということはないはずだ。

 「確かに大学のサークルでは、男子が幹事長、女子が副幹事長というのが定番。男子に比べ、女子は達成感を得る機会に恵まれず、自信が持てない。成長する機会自体が少なく、自分を過小評価する傾向にあるともいわれる。そんな女子大生に小さな成功体験を積んでほしかった」

 市の担当者もやはり、半信半疑だったと打ち明ける。「テレビのバラエティー番組で見られるような、記念館でおいしいスイーツを出して来場者を呼び込もう、といった企画にとどまるのではないかと考えていた」

 写真撮影会も当初、記念館の中だけで行われる企画だった。アイデアは膨らみ、大佛の小説に登場する横浜の街並みをテーマに、フィールドは広がっていった。スマホに慣れ親しむ若い世代にとって、街中で写真を撮ることは身近なことだった。何より一過性のイベントで終わらせたくなかった。大石さんは「街へ出て、記念館と街とのつながりをつくりたかった」と話す。

 撮影を許可してくれた店の協力者らは口々に言った。「一生懸命な姿を見て、自分の娘のように思えてきた」。市の担当者は「女子大生には周りを巻き込む力があった。いい意味で期待を裏切った」と感心する。

踏み出す勇気


 写真展では、横浜を舞台にした大佛の小説の一節と女子大生が撮った写真を一緒に収めたフォトブックもお披露目した。7日間の期間中、カップルや家族連れなど約760人が足を運んだ。

 市の担当者は「女子大生だけの力で実現したわけではない。巻き込む力が生かされて実現した」と強調する。

 実際、アイデアを具体化するのは簡単ではなかった。

 「プロのカメラマンに講師をしてもらいたい」「一眼レフカメラで撮影会をしたい」

 カメラマンの知り合いはいないし、一眼レフも持っていない。ならば誰かを頼るしかない。周囲に働き掛け、つてを探し回り、脈があると思えば交渉を重ねた。

 撮影許可を得ようと元町の商店街を歩いたが、初めての「飛び込み営業」に勇気は出なかった。気になるカフェを見つけ、店の前を行ったり来たりしていると、若い店員が「さっきから、ずっとうろうろしていたよね」と笑顔で声を掛けてくれた。

 撮影会の参加者集めにも苦労した。当初は友人や顔見知りばかり。これでは内輪の自己満足に終わってしまう。インターネットなどで発信し続けると、回を重ねるごとに初参加の女性が集まりだした。5回の開催で参加者は47人を数えた。

 プロジェクトはメンバーを一新し、14年度も継続している。

活動を通し、大石さんが学んだことがある。

 「できないと思っても、できる」

 全てを一人でやろうとするのではなく、苦手なことは他の人の力を借りてみる。「人をまとめることが得意と気付くことができた」という大石さんが踏み出した、小さくとも確かな一歩。

失敗を恐れない-。

 それは角さんが一番伝えたいことでもあった。


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