1. ホーム
  2. 社会
  3. 【ひとすじ】途上国でカット技術教える

美容師・丸山裕太
【ひとすじ】途上国でカット技術教える

社会 神奈川新聞  2014年07月06日 12:00

丸山さんたちが開いたカット技術の講習 (丸山さん提供)
丸山さんたちが開いたカット技術の講習 (丸山さん提供)

 世界遺産・アンコールワットから歩いて帰る道中、脱水症状で倒れた。一人旅で訪れていたカンボジア。その国の人たちは、日本から来た見知らぬ少年を献身的に介抱してくれた。

 「自分はなんて小さい人間なんだろう」。手荷物を盗まれないようにと警戒していた相手に、助けられた。美容師、丸山裕太(31)。自分を恥じた14年前の体験が、ハサミとクシを手に途上国へと向かわせる原点だ。

 もともと、美容師になりたいと望んでいたわけではない。ファッションデザイナーを目指していた17歳のときに訪れた米国で、トラブルから所持金を失った。アルバイトとして雇ってくれたのが、美容室だった。無一文から働き、初めて手にした報酬。そのありがたみは格別だった。帰国後、通信制の美容専門学校に入学、両親と同じ道を歩んでいた。

感じた希望


 助けてくれたカンボジアの人々のために「何かしたい」との思いは、いつもあった。とりあえず現地に行き、考えた。自分に何ができるのか-。

 歌も下手だし、楽器もできない。何かを教える技術もない。「消去法で思いついた」のが、髪を切ることだった。だが、プロとして他人の髪を扱ったことはない。専門学校で得た知識と両親の手つきを思い出し、震える手でハサミを入れた。

 散髪費用もなく伸び放題だった彼らの髪はボサボサで、絡まった頭髪の中に虫を見つけたこともあった。そもそも髪を切って整えるという意識がなかった。切りそろえると、みんなケラケラと笑った。ただ伸びるばかりで虫のすみ処でしかなかったものが、実は自分を美しく見せてくれる。彼らの概念が百八十度変わっていった。

 「どうやって切っているの」「教えて」。髪やカットに興味を持ち始めた人々が、口々にせがんだ。気付くと30人ほどが自分を囲み、真剣な表情で手元を見つめていた。「教えたことを友達同士で試す姿を見て、希望が見えたんです。彼らの収入になる、いけるぞって」米国で一文無しだった自分の姿が重なった。「技術があれば稼げる」と身をもって知った経験から、ピンときた。現地で美容講習を開く構想が浮かんだ。

夢ができた


 講習を開く場所は自ら探して開拓していった。ふらりと出向いた農村地帯で人を集め、英語と日本語、身ぶりを駆使し、基本的な技術を1週間~10日かけて教える。集まってくる多くは、貧困地域に住む15~20歳の若者。1日2~3ドルで暮らし、学校に通っていない子も多かった。

 今も胸に残るのは13歳の少女の言葉だ。最初は全くやる気がなく、ため息ばかりついていた彼女。だが、ハサミの使い方を覚えていくうちに、少しずつ目つきが変わり始めた。見守りながら一つずつ教え続け、3日目。「夢ができた」。その言葉通り、彼女は美容師として働いている。

 川崎市内や都内で3店舗を経営する今も、1~2カ月に1度は現地を訪れ講習を開く。共に活動する美容師仲間も増えた。昨年7月に「国際美容ボランティア協会」を立ち上げ、中心メンバーは約30人に。NPO法人として申請中だ。


丸山裕太さん
丸山裕太さん

 これまで「300人くらいには教えたかな」。そのうちの1人が今夏、プノンペンの高級住宅街に美容室をオープンさせる。内装や外装は協会が引き受け、夜は協会の活動拠点として美容学校を開く予定だ。

 経済的に自立できない人たちが技術を身に付ける場をつくるとともに、彼らの就職先を確保しようと、現地の日本人が経営する美容室を駆け回る。運転資金の管理など経営の基本もレクチャーする。

 活動範囲はカンボジアにとどまらない。シンガポールでも美容学校開設が決まり、フィリピンやインドネシアでも講習の場を探す。

引き継いで


 「やっぱり恩返しなのかな」。高校にも通わず放浪していた自分を、優しく受け入れてくれたカンボジアの人たち。今は、彼らに「自分の姿勢を正してもらった」と感謝している。

 講習を受けた“教え子”たちは、1回のカットで4ドルほど稼げるようになるという。富裕層向けの縮毛矯正なら、25ドルだ。生活の質や美意識の向上に、少しずつ貢献しているのかもしれない。だが、それがゴールではない。

 安定した収入を得た彼らが家庭を築き、次の世代が生まれる。技術が引き継がれるのはもちろん、教育を受ける機会が確保され、潤いのある生活を送る子どもたちの姿を思い描く。

 「昔、髪を切るのを教えてくれた日本人のおじさんがいたんだよ」。そう現地の人々が記憶に刻んでくれることも、夢の一つだ。

 国際美容ボランティア協会は8月25~29日、カンボジアでの美容ボランティアツアーを企画し、参加者を募集している(美容師以外も可)。問い合わせはヘアーラウンジエゴ電話044(755)9246。 =敬称略

まるやま・ゆうた 1983年5月生まれ。東京都目黒区出身。23歳のとき世界の国々を回って髪を切り、移動費をためては次の国を訪れる旅を始めた。「国際美容ボランティア協会」理事長。川崎市中原区新城で美容室「Hair Lounge EGO」を経営する。


シェアする

編集部のおすすめ

アクセスランキング

  1. 40代男性がはしかに感染 横浜

  2. 伊勢丹相模原店跡、複合ビル建設を検討 野村不と売買交渉

  3. ロマンスカー車内でわいせつな行為・小田急車掌を逮捕/神奈川

  4. 横須賀市内で5900軒停電

  5. 横浜高島屋が開店60周年 鳩サブレー缶など限定販売

  6. 動画 はっけよい…ぎゃー! 比々多神社で泣き相撲

  7. 稲村ケ崎海岸の沖合に女性遺体 鎌倉署が身元など捜査

  8. 閉店セール、開店前に行列も 伊勢丹相模原店

  9. 【写真特集】台風15号の被害状況

  10. 保育園埋設の放射性汚染土問題 横浜市が保護者に相談会