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海洋冒険家・八幡暁(下)
【ひとすじ】「野生スイッチ」に導かれ

社会 神奈川新聞  2014年06月30日 10:00

3年2カ月以上を経た今も傷痕色濃い港町を歩いて回る八幡さん(左端)=宮城県石巻市
3年2カ月以上を経た今も傷痕色濃い港町を歩いて回る八幡さん(左端)=宮城県石巻市

 うねる水面(みなも)にカヤックが木の葉のように揺れる。三陸沿岸の被災地を巡る海遍路も中盤に差し掛かった5月下旬、宮城県女川町は牡鹿半島沖。海洋冒険家、八幡暁(さとる)(39)は自身の判断を少しだけ悔いていた。

 「メンバーの技量を総合的に考えれば、甘かったとしか言えない」

 海面に近い漕(こ)ぎ手の目線に3、4メートルのうねりはそびえ立つ壁のように映って迫る。3艇で連なっての旅、八幡を除けばメンバーのカヤック歴は長くて数年だ。互いの姿が見えなくなれば、たちまち距離と方向の感覚を失い、パニックに陥りかねない。

 数時間前、出航の支度に取り掛かっていた八幡たちに漁師は忠告していた。「おめーら、海、なめんでねぇどぉ。沖のうねりが強ぇから出んな」。そう言われても空は抜けるように青く、風も穏やかだ。荒天が3日続き、足止めをくらっていたことも想定を見誤らせたのかもしれなかった。

 「低気圧は沖で発達しながら北上している。北風が3日も吹き続けたのだから、うねりは相当大きい。だから気を付けよ。漁師はきっとそう言っていた」

 数キロも進まないうちに内海の港へ避難を余儀なくされた。

 でも、と八幡は考える。
 「こういう目に遭うと、すぐに『無謀』という話になる。でも、遊びだからといっても命を懸けないというのは違うと思う。世界中の漁村では小さな子どもが荒波打ち寄せる海で遊んでいる。大事なのは自然の中でしっかり危険を認識し、死なない知識や経験を積み重ねることではないか」。

 そうした日々があって、漁師たちは2011年3月11日、大きな揺れを感じるや沖へと船を出し、津波の難から逃れることができたのだった。

人も自然と知る


 八幡もまた、20歳になるまではどこにでもいる大学生の一人だった。サラリーマンの父と保育士の母との間に三男として生まれ、公立高校を卒業後、都内の私大へ。打ち込んできたアメリカンフットボールを続けた。

 だが、ほどなく情熱を失い、なぜだろう、近郊の山々へ足が向かった。
 
 覚醒の瞬間を八幡は忘れない。大学1年の初夏、沢登りの途中で道に迷った。日が暮れる。テントは持ち合わせていない。

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