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改正生活保護法(下)「申請しづらさ」支援者危惧

社会 神奈川新聞  2014年06月11日 11:00

生活困窮者をサポートする「ポルト湘南・茅ケ崎」職員の北本さん
生活困窮者をサポートする「ポルト湘南・茅ケ崎」職員の北本さん

横須賀市の京急線横須賀中央駅の周辺。NPO法人「路上生活者支援ネットワーク」横須賀代表の北本明子さん(43)は、公園や道端のホームレスに持参したおにぎりを手渡す。市街の夜回りも含め、こうした支援活動を15年間続けている。

それとは別に、生活困窮者をサポートするNPO法人「湘南ライフサポート・きずな」(藤沢市)が運営する無料低額宿泊所「ポルト湘南・茅ケ崎」の職員として勤務。「路上生活をしていた人や家族と仲が悪くなって行き場所がない人」など、多様な事情を抱える困窮者と接してきた。

■申請は従来通りに

7月から改正される生活保護法は就労による自立促進を目的に、保護からの脱却を促す給付金を創設した。働く受給者の収入に応じてポイント制のように積立金を設け、1人暮らしの場合は最大10万円を保護脱却時に受け取れる。

と同時に、不正・不適正受給対策も強化。罰金の引き上げや福祉事務所が必要と認めた場合、扶養義務者に報告を求められる。

従来から受給の申請時には、扶養義務者の有無や扶養の意思を当事者に確認していた。ただ、高齢者世帯を中心に受給者は年々増えており、財政を圧迫している。厚生労働省は「扶養者の中には富裕者がいる場合もあり、客観的にみて明らかに経済的な余裕があるのなら、扶養してもらいたい」とあらためて強調する。

改正法が成立した昨年末当初は、申請時に書面の提出を義務付けていた。しかし、「(煩雑な作業を伴う)申請そのものをためらう恐れが高まる」などとパブリックコメント(意見公募)で修正を求める声が多数寄せられた。これを受け、厚労省は従来通り口頭での申請も受け入れ、申請書は保護の決定までに提出することで落ち着いた。

北本さんは、申請方法が分からない希望者の手伝いで福祉事務所へ同行したことがある。改正後も手続き上の大きな変更は今のところ見当たらないというが、「懸念はやっぱり申請書。そもそも申請の仕方を知っている希望者は多くない。同行する機会は今後も増えると思う」と推測する。

■「的を射た」評価も

今回の法改正について、現場の行政職員からは好意的な声も聞こえてくる。県内自治体の担当者は「受給者への対応をある程度明確にしたという点で的を射た改正法だと思う。(行政の権限が強化されており)運用面での乱用は警戒しないといけないが、悪質な不正があった申請については適用されるべきだ」と評価する。

不正受給者が絶えない原因の一つとして「受給の判断の際に、あまりにも(対象者の)個人情報が少なかった」(同職員)という。例えば、申請者が雇用保険に入っているかどうかもハローワークに照会しなければすぐに確認できなかった。「ケースワーカーも所得情報などをデータとしてすぐに見られるわけではない。そうすると、受給者本人の言うことに沿って判定することになり、とても効率的とは言えなかった」

こうした現場の状況も踏まえ、厚労省は「行政の負担を軽減するために、年金や児童手当など一部の必要な情報について把握できるように調査権を明文化した」と説明する。

その一方で、多くの自治体でケースワーカーが申請者の相談を受け、さらに受給の判断にも関わる仕組みの根本について、疑問を投げ掛ける声もある。これまで希望者に対し、理由を付けて申請をさせずに追い返す窓口の「水際作戦」が全国的な問題となってきた。「行政はあくまで実施、運用の部分で関与し、権力を分散する方がいいのでは。そうでなければいつまでも『水際作戦だ』と受け取られてしまう」と言う。

■不正は一部だけ

複数の芸能人の親族が不正に受給していた問題をめぐり、あらためて生活保護の在り方に焦点が当たった。北本さんはしかし、「不正は一部であって、大部分はそうではない」と訴える。改正に至る一連の議論を受けて、「生活困窮者にとっては『出していいのかな』と、さらに申請しづらいイメージになったかもしれない」と危惧する。

「国の解釈をどう自治体が受け止め、柔軟に対応してくれるか。いつでも誰でも生活保護を受けることはあり得る。その時に利用しやすい制度であるかどうか。自分の身に置き換えて考えてみてほしい」と話している。

◆受け皿県内134カ所

無料低額宿泊所は、住宅などに困っている生計困難者のために、無料または低額で簡易住宅を貸し、地域福祉の推進などを目的として設けられる。県内ではNPOを中心に134カ所が運営されている。全体の定員は3811人。

県のガイドラインによると、「適正な事業運営を確保するため、定員は原則的に30人を超えないこと」「食事を提供する場合は食堂を利用する」などを設備基準として規定。運営基準は、「入居に際して保証人を求めないことや運営確保のため必要人員を配置する」などとしている。

茅ケ崎市に2施設ある「ポルト湘南・茅ケ崎」と「ポルト湘南・辻堂」は、NPO法人「湘南ライフサポート・きずな」が運営。同NPOは、シェルターを併設した相談所も設けている。

ポルト湘南・茅ケ崎の場合、居所をなくした生活保護者が中心で年齢は30~80代。企業の社員寮だった建物を借り上げた。1日3食、約千円で食堂を利用できる。

同NPOによると、施設によっては、利用者が認知症などを発症し高齢者施設に預けられないケースもある。スタッフの人員不足も長年の課題だ。「行政だけではカバーしきれない。民生委員やボランティアが協力しなければ支援はうまくいかない」と指摘する。

また、一部の民間事業者が生活に苦しむ人に保護費を受給させ、費用を徴収する「貧困ビジネス」も横行している。

【神奈川新聞】


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