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改正生活保護法(上)行政の権限強化で受給者は

社会 神奈川新聞  2014年06月10日 16:00

「生活保護から抜け出し、自分自身で生活を維持できるような人間になりたい」と話す男性
「生活保護から抜け出し、自分自身で生活を維持できるような人間になりたい」と話す男性

不正受給への対策強化や自立促進などを盛り込んだ改正生活保護法が7月から施行される。昨年末に成立し、申請手続きの厳格化や扶養義務の強化が規定されたが、「申請をためらう人が増える」と関係者が反発。今年4月に大幅に見直された。そうした中、全国で生活保護を受ける世帯は3月末で160万2163世帯と過去最多を更新、増加基調に歯止めがかからない。一連の法改正の動きを受給者と支援団体、そして行政はどのように受け止めているのか。施行を前に2回にわたって報告する。

■勘当され路上生活

2012年11月から茅ケ崎市内の無料低額宿泊所「ポルト湘南・茅ケ崎」を利用している男性(30)は、13年3月から介護職に就いた。

藤沢市出身の男性は約2年前、不仲だった父親との関係が決定的にこじれ、勘当された。その後、所持金も少なく約2カ月間、路上生活を経験。市内の公園などを転々とし、寒い日は拾った毛布にくるまり耐えた。

偶然近くを通った知人から無料低額宿泊所などを運営するNPO法人「湘南ライフサポート・きずな」(藤沢市)を紹介され、苦しい日々から抜け出した。

高校中退後は定職に就かず、「ぷらぷらして、引きこもり同然だった」と振り返る男性は心を入れ替え仕事に打ち込んだ。

新たな悩みも生まれた。ヘルパーの資格を取るなどようやく職場にも慣れ、宿泊所を出て1人暮らしを始めるかどうか思案していた。当初は藤沢市から主に住宅、生活扶助の保護を受け、月に12万円余りを受給。その後、働きだしてから額は減り、月収が11、12万円のころには月1万円ほどになった。宿泊所の家賃は月4万6千円なので、生活費を差し引くと手元に2、3万円が残った。

もう少しで保護から抜け出せるところまできた。だが、市の担当職員に「資格も取り、給料も上がる。君は若いし(宿泊施設を)早く出なさい」と自立をせかされた。職場の同僚からは冗談交じりに「私たちの税金のおかげだからね」と言われ、ひそかに傷ついた。

「僕としては、お金もまだたまっていないし、自分のペースもある。それが崩れてしまうと、また元に戻ってしまうんじゃないかという不安がある」。1人でアパートを借り、家賃や生活費などすべてを賄っていけるのか。ある意味で心の支えになっていた保護を断ち切る不安が、1万円を惜しむ言葉ににじんだ。

今回の法改正では、受給者の不安に応えるように、保護停止時に最大で単身世帯には10万円を給付する仕組みがつくられた。ただ、現場の行政職員からは「10万円ぽっちで役に立つのか。一度給付を受けると3年間は適用されない点も気になる」と、早くも効果を疑問視する声が出ている。

■「長い目で見て」

男性の「不安」は的中した。5月に同僚と口論になり、1年以上勤めた仕事を辞めてしまったのだ。事情を聴いた同宿泊所職員の北本明子さんは、「甘いと思われるかもしれないが、今まで彼は定職に就いたことがない。むしろ長く続いた方だ。中には3、4日で辞めてしまう人も珍しくない。彼らに自信がつくまで、もう少し長い目で見てほしい」と当事者の願いを代弁する。

昨年末の法改正では一度、受給申請した人を扶養する義務があるのに応じない親族に、自治体の福祉事務所が理由の説明を求めることを可能にした。しかし厚生労働省がパブリックコメント(意見公募)を行ったところ、「扶養が要件になり、保護が必要な人の申請を妨げる」と指摘があり、関係部分は修正された。親族に責任を果たしてもらうのは前提だが、照会できるケースは限定的にとどめた。県内自治体のある職員は「実質的には親族の自宅を訪れて説明を求めることはないと思う。あくまで詐欺的な申請など、怪しいときの対策だ。運用面で7月でがらっと変わることはない」と話す。

男性は依然、父と連絡を取っていない。可能性は低くとも今後もし、福祉事務所の職員から父や親類へ自分の近況などを伝えられるとしたら…。「それは本当に嫌ですよ。そこまでやる必要はない。個人個人の事情がある。なかなか連絡できないからこうなっているわけで、親子関係を修復できたらこうなっていない。生活保護を本当に必要としている人にとっては、審査が厳しくなるとマイナスになると思う」と慎重な運用を求める。

受給者の中には、家族にも頼れないような事情を抱える人も少なくない。いまだ職場や周囲の偏見も問題として残る。

男性は現在、再び福祉関係の仕事を見つけ、働き始めている。「最終的には生活保護から抜け出し、自分自身で生活を維持できるような人間になりたい」

◆県内受給者は過去最多/3月速報値

県生活援護課によると、県内で生活保護を受けているのは最新の3月速報値で、11万4230世帯(15万6771人)で過去最多を更新した。うち、65歳以上の高齢者世帯は45.2%、母子世帯7.9%、障害者世帯12.1%、傷病者世帯15.2%、働ける世代を含む「その他世帯」19.7%となっている。保護を受けている76%が1人暮らしだった。

全国で生活保護を受けているのは同月で217万1139人となり、過去最多を記録した。

2013年3月時点の47都道府県の保護率(人口千人当たりの割合)でみると、神奈川は17.10/00で15番目。被保護者の年齢構成(12年度)は、60歳以上の高齢者が全体の49.7%を占め、次いで0~19歳の15.9%。30~39歳は7%、20~29歳は3.3%だった。1975~85年度には、40歳未満が約半数を占めていたが、近年は高齢化が顕著になっている。

県内の不正受給件数は2012年度が3076件。10年度が1929件、11年度が2788件で年々増加している。不正受給額は10年度は約10億7千万円、12年度は約15億1千万円だった。

【生活保護法の主な改正内容】

(1)就労による自立促進 安定した職業に就くことで保護からの脱却を促すための給付金を創設。支給額の上限は単身世帯で10万円、多数世帯で15万円。

(2)不正・不適正受給対策の強化

▽扶養義務の強化 保護の実施機関(福祉事務所)は、必要と認めるときは扶養義務者に対し報告を求めることができる。

▽罰則の引き上げ 罰金の上限を30万円から100万円に引き上げ、不正分の返還金にペナルティーを加算する。

▽福祉事務所の調査権限拡大 「資産および収入」に限定される調査事項について、就労や求職活動の状況、健康状態、扶養の状況等を追加。福祉事務所が行う官公署等への情報提供の求めに対して回答を義務付ける。

(3)医療扶助の適正化

【神奈川新聞】


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