1. ホーム
  2. 社会
  3. 「ガールズ」追跡調査から(上)気付いた「私だけじゃない」

「ガールズ」追跡調査から(上)気付いた「私だけじゃない」

社会 神奈川新聞  2014年06月03日 10:54

ガールズ講座受講者の追跡調査と就労体験事業を報告した公開講座=横浜市南区のフォーラム南太田
ガールズ講座受講者の追跡調査と就労体験事業を報告した公開講座=横浜市南区のフォーラム南太田

学校や職場でのつまずきから働くことができず、自宅にこもりがちになった若い単身女性を支援する「ガールズ講座」と就労体験施設「めぐカフェ」(横浜市南区)。主催・運営する市男女共同参画推進協会が、その受講者・実習生の追跡調査を行った。結果からは、効果の一方、今後の支援課題も浮かび上がった。

受講生の多くは学校でつまずきを経験し、家庭でも困難を抱えている-。

追跡調査で浮き彫りになったのは抱えた複層的な生きづらさと、その存在自体の「見えづらさ」だ。

学校での経験を聞くと、48・4%が「クラスメートなどからいじめられた」、35・5%が「1年間に1カ月以上不登校だった」と回答した。

市が無作為抽出した15歳以上、39歳以下3千人を対象に実施した「市子ども・若者実態調査」(2012年)と比較すると、その割合の高さが鮮明になる。市の調査では「いじめられた」との回答は25・7%、「不登校だった」は6・3%にすぎなかった。

家庭での経験では、半数近い45・2%が「家からほとんど出ない状態が半年以上続いた」と回答。「親がいろいろなことに干渉してきた」は43・5%(市調査は6・1%)で、「親・きょうだいなど家族から暴力・虐待を受けた」は17・7%と市調査の1・7%を大きく上回る。

社会的支援を受けにくい状況もうかがえる。

62・9%が短大・大学に進学しており、経済面で比較的余裕がある家庭で生活していることが推測されるが、「家にいることを家族から強くとがめられないため、ますます見えない存在となり、支援もない状態にある」と同協会。高校・専門学校・短大・大学を中退した人は27・4%に上り、同協会は「学校から離れたことで、支援を受ける機会も逃してしまったことも考えられる」と話す。

■孤立脱し前向きに

講座はパソコン技術などを学ぶものだが、役に立った点について54・2%が「同じ立場の人と知り合い、話すことが励みになった」と回答した。孤立し、気持ちが内向きになる中で、同じような状況にある人の存在を知る意味は小さくない。「自分だけの問題ではないのかもしれない」という気付きが社会に目を向けるきっかけになり得るからだ。

昨年5月にガールズ講座を受講した、市内の女性(26)もそんな一人だ。抱えた悩みを「大学時代の友人にはなかなか言えなかったけど、意外にみんな悩んでいるんじゃないかと思えるようになった」と話す。

女性は大学卒業後、資格取得を目指して専門学校に進んだが、休学して就職。12年の夏から総合病院の事務職として働き始めた。

30~40人のスタッフがパソコンに向かって作業をする職場だった。仕事量や内容に問題はなかったが、次第に職場の雰囲気にしんどさを覚えるようになった。

同僚は女性がほとんどで、私語を交わす人が多かった。仕事は集中してきちんとこなしたい性格だったこともあり、話し声が気になった。同僚の悪口を言い合う声を聞き続けるうちに「私もこんなふうに言われているのかもしれない、と怖くなった」。職場に行きたくなくなり、休むようになった。会社側は「少し休んでから、戻ってきてはどうか」「部署の異動も考える」と気遣ってくれたが、結局、退職した。

講座を受講したのはそれから間もなくのこと。「つらいときの対処法として、その場から逃げてしまう。受講で何か変われれば」と思い立った。女性は高校時代に不登校を経験し、そのときは全日制から通信制に移っていた。

講座ではいろいろな発見があった。

女性は転校したときに留年したため、履歴書を書くことに抵抗感があった。書き方のアドバイスをしてくれた講師の「ブランクという考え方自体がナンセンス。死んでいたわけじゃなくて、葛藤していたんだから」という言葉にはっとした。

受講後は「何とか働けそう」という気持ちになり、医療関係のアルバイトに就いた。やりがいを感じたが、人間関係に難しさを覚え、今年初めに辞めた。それでも「面接で不安にならなかったし、冬場は自分の調子が悪くなりがちなことにも気付いた」と前向きに受け止めることができた。

講座を受けたことで同じような立場にいる友人もでき、今も連絡を取り続ける。講座の資料は「自分の中で引き出しにして、使えるように」と全てファイリングして保管している。「読み返すと気付きがあるし、戒めとして入ってくることもある」。4月から派遣で医療関係の仕事に行き始めた。

■次なる一歩は重く

受講後、71・0%が相談・支援機関に足を運んでいる。ハローワークへ行った、求人に応募した人はともに43・5%。61・3%が収入のある仕事や活動をするに至っている。実際の就労につながったケースは47%だった。

こうして新しい一歩を踏み出そうとする人がいる一方、29・0%が収入のある仕事や活動を「していない」と回答し、引きこもり状態に戻っていることも分かった。

仕事で困った経験について59・7%が「人間関係がうまくいかなかった」と答えるなど、次なる一歩の心理的負担は軽くはない。調査ではより細かい支援の必要性が浮かび上がってもいる。利用してみたい相談や場については「保健室のような場」が61・3%、「個別面談相談」が54・8%と続く。

同協会では講座終了後に気軽に相談できる場を定期的に設けることを検討している。「ほかの人がどうやってこの状況から抜け出せたのか知りたい」といった声を受け、「勤務先で困ったことがあったが、こうして乗り切った」といった事例集をつくり、知恵と工夫を共有したり、トークイベントを開いたりして、受講者が何らかのつながりを保てるような仕掛けをも検討している。

◆ガールズ(若年無業女性)支援事業追跡調査

調査は講座を開始した2009年から12年までの受講者157人と就労体験実習生6人の計163人を対象に実施。送付したアンケートに62通の返信があり、一部の受講者にはインタビュー調査も行った。回答者の平均受講年齢は27.5歳、回答時の平均年齢は30歳だった。調査結果は今後、横浜市男女共同参画推進協会のホームページなどで公開される。

◆ガールズ講座

働いておらず、通学もしていない30代までの未婚女性で、子どものいない人を対象に2009年度から始まった。年間2回の開催で、受講料は無料。当初は基礎的な「パソコン講座」と履歴書の書き方などを学ぶ「しごと準備講座」で構成され、12年度からは11日間の「しごと準備講座」のみを実施している。6月現在までの参加者は220人。

【神奈川新聞】


シェアする