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立ちのぼる生命 宮崎進展(中)格子の向こう 孤独を求め虚空に浮遊

カルチャー 神奈川新聞  2014年05月28日 12:27

「冬の鳥」(1993年、周南市美術博物館蔵)
「冬の鳥」(1993年、周南市美術博物館蔵)

会場に作品を展示していて実感したのは、宮崎進(しん)に抽象絵画はないということである。抽象化された作品はあっても、その背景には必ず具体的なイメージがある。

5章立ての会場。第3章の中ほどに、通路を挟んで並べた二つの「花咲く大地」(2000年、東京ステーションギャラリー蔵/04年、県立近代美術館蔵)は、黒い斑点の配置から同じモチーフを描いていることが明らかであり、遠近感さえ感じられる。見慣れてくると、左右2枚のパネルから成る「黄色い大地」(00年、新潟県立近代美術館・万代島美術館蔵)にも、黒い斑点で構成される輪があり、麻布の複雑な褶曲(しゅうきょく)を見せる左側から、平たんな右側へと空間が広げられているように見える。実際、パネルの裏を観察すると、右側のパネルは必要から急いで作られたらしいことがうかがえる。

この作品に衝撃を覚えるのは、粗い麻布のひだをまたいで、あたかも絵の表面のさらに上の空間に刻まれているような縦横の線に気付くときである。それは構図を決めるための補助線などではない。長い冬を経て、永久凍土の表面に一斉に芽吹いた草花がシベリアの大地を黄色く染める様子を描写した上に出現した格子である。そう、これは収容所の有刺鉄線なのだ。このとき、この作品を観(み)る者は、捕囚と同一の目線に立ち、有刺鉄線越しに黄色い大地を眺めることになる。

最初の展示室(第1章)の正面に見える「立つ人」(06年、伊勢現代美術館蔵)にも、同じ壁に並ぶ「漂泊するもの」(1992年ごろ、作家蔵)にも同じような格子が描かれている。それらは、最後の展示室に置かれた二つのドライポイント小品「捕われた人」(いずれも60年ごろ、作家蔵)を見れば、「黄色い大地」とは逆の視線から有刺鉄線越しの捕囚を描いていることが理解できよう。

そして、第1章の冒頭に展示した「冬の鳥」(93年、周南市美術博物館蔵)。画面の縦横に貼られた紙テープの意味も、もはや言うまでもない。シベリアの冬空に舞う一羽の鳥、それがいかに厳しい自然環境の中で孤独であろうとも、少なくともこの鳥は自由なのだ。

宮崎進は語る。「私が私でありたいと思うとき、私はすべてを捨てて孤独を求める。はるかな空や、海原を漂う鳥になりたい。虚空に浮遊していたいのである」(94年、「13の言葉」から)

(県立近代美術館主任学芸員・籾山 昌夫)

【神奈川新聞】


「黄色い大地」(2000年、新潟県立近代美術館・万代島美術館蔵)
「黄色い大地」(2000年、新潟県立近代美術館・万代島美術館蔵)

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