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問われる教育委員会〈下〉いじめ隠蔽 問題は「制度」か「人」か

社会 神奈川新聞  2014年05月22日 13:00

衆院文部科学委員会の地方教育行政法改正案審議傍聴後に会見するいじめ自殺で息子を失った大津市の男性=14日、衆院第1議員会館
衆院文部科学委員会の地方教育行政法改正案審議傍聴後に会見するいじめ自殺で息子を失った大津市の男性=14日、衆院第1議員会館

大津市で中学2年の男子生徒がいじめを苦に自殺してから1年以上が過ぎた2013年1月、第三者調査委員会は報告書で市教育委員会の形骸化、閉鎖性を厳しく批判した。

「事実究明を放棄して親子間の問題をでっちあげ、原因にしようとした」「県教委への事件報告をA4用紙1枚で済ませた」

事なかれ主義、隠蔽体質といった世間の厳しい見方も後押しに、首長が教育委員会に一定の関与ができるよう打ち出された政府の改革案。だが、国が目指す首長の関与による「責任の明確化」や「迅速な危機管理対策」が、肝心のいじめ問題の解決につながるのか。

4月末、首長の政治的思想によって教育施策がねじ曲げられることのないよう、文部科学省に要望書を出した全日本中学校長会は「大津市教育委員会という特殊な例をもって、教育委員会制度を否定するのは飛躍がある」とした。

堀井栄夫(しげお)事務局長は「教育委員会が中立性にこだわり過ぎて閉鎖的になり、事なかれ主義に走る場合はある。しかし教育委員長や教育長が閉鎖性を自覚し、周囲もトップに物が言える雰囲気であれば修正できる。いじめの隠蔽が起きるか否かは制度ではなく人の問題」と強調した。

■欠陥の表れ

隠蔽を引き起こすのは制度か、人か-。

その問いに「制度の問題。大津は特殊ではない」と言い切るのは、大津市のいじめ自殺で息子を失った父親だ。

父親は今、全国のいじめ被害者の保護者や遺族と連絡を取り、学校が行ったアンケートの開示や第三者調査委の人選に関する説明を教育委員会に求める際、遺族と同行するなど支援に取り組む。

制度的欠陥の一例に、山形県天童市の中1女子自殺をめぐる遺族と市教委の対立を挙げる。13年9月のいじめ防止対策推進法施行の4カ月後に起きたこの事案では、第三者調査委設置にあたり、市教委は決定済みの設置要綱を遺族に伝えた。遺族は「調査の公平性、中立性が守られていない」と設置に反対。今年5月にようやく、遺族の要望を反映した要綱に修正することが決まった。

天童市の遺族も支援している父親は「いじめ防止法施行後もこうした対応がまかり通る。『中立性』に阻まれ、教育長に誰もブレーキをかけられない弊害の表れだ。教育委員会は廃止に踏み切るべきだった」と主張する。

訴えは続く。「情報公開も真相究明もせず、事実と向き合わずに済む制度に守られた教育委員会に、正しいいじめ防止策ができるはずがない。市民から選挙で選ばれる首長が教育施策の権限と最終的責任を持てば、仮に教育委員会と一緒に隠蔽しようとしても、市民の監視の目があり、明るみに出れば次の選挙で落選するかもしれないとブレーキが働く」

■初動調査を

「国や政治家が関与するにしても、教育委員会への指示や大綱策定といったやり方は1ミリも容認できない」。同じいじめ自殺遺族の立場から、いじめ防止に取り組むNPO法人ジェントルハートプロジェクト(川崎市川崎区)の小森美登里理事=横浜市港南区=は、改正案に真っ向から反対する。

小森さんは1998年、娘の香澄さんをいじめ自殺で失った。全国の学校や教育委員会を講演で回り、命の大切さを訴える。国のいじめ防止基本方針策定に有識者として携わり、文科省で意見を述べた。

しかし、小森さんに達成の喜びはない。「いじめ発生後に学校はただちに初動調査をし、そこで得た情報を、子どもを亡くした親と共有することが必要」と訴え続けているが、いまだに実現できていないからだ。

「隠蔽を防ぐには遺族に情報が入るシステムをつくりさえすればいい。文科省が関与するとしたら、初動調査のノウハウの提供や情報共有を適切にしているかのチェックをするべきだ」

政治家である首長の関与にも懸念を示す。「やられたらやり返せ」「いじめの傍観者は加害者と同じ」。そうした発言で、いじめられた子どもだけでなく周囲の子どもも追い込んでしまう無理解な大人が多い中、いじめ問題を熟知している政治家がどれだけいるのか、と疑問を感じている。

香澄さんの死後、学校内には「うわさで聞いたことは事実ではないかもしれないから話してはいけない」という雰囲気がつくられた。10年以上が過ぎた一昨年、いじめを知っていた卒業生が、黙っていることしかできなかったことに自責の念を抱えていることを知った。

「初動調査によって周囲の子どもは自分の思いを吐き出し、同じことを起こさないためにはどうすればいいか考えるようになる。加害側の子どもも自分と向き合い、更生につながる」。いじめ防止のためにも初動調査が必須と考える小森さんは、教育長の任期を4年にするか3年にするかといった形式論に審議時間が費やされたことに「最初の一歩からして違う」と落胆する。

「制度変更ありきで、子どもの声、保護者の声、現場の先生の声がそのまま届く教育委員会にしようとしていない。大津の件を口実に、国が関与する流れを加速させたいだけでないか」。制度が改正されても、遺族の思いを訴え続ける。

現行制度の維持、教育委員会廃止と立場は違っても「改正案ではいじめを防げない」との見方は重なる。学校関係者やいじめ自殺遺族と、いじめ問題に向き合う人々に疑問を残したまま、審議の場は参院に移る。

【神奈川新聞】


教育委員会制度改革におけるいじめ対策の不十分さを指摘する小森さん=横浜市港南区
教育委員会制度改革におけるいじめ対策の不十分さを指摘する小森さん=横浜市港南区

子どものいじめ自殺と国の対応
子どものいじめ自殺と国の対応

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