1. ホーム
  2. 社会
  3. 【社説】取り調べ可視化 すべての事件で実現を

【社説】取り調べ可視化 すべての事件で実現を

社会 神奈川新聞  2014年05月17日 09:29

これで本当に冤罪(えんざい)を防ぎ、失墜した司法の信頼を取り戻すことができるとは、到底思えない。

捜査と公判の改革を議論する法制審議会の特別部会にこのほど、取り調べの録音・録画(可視化)の法制化に向け、議論のたたき台となる法務省の試案が示された。

取り調べの「最初から最後まで」の可視化を義務付けた点は、評価できる。昨年の基本構想に提示されていた「一部の場面」では、取調官の都合の良い部分だけに限られる可能性があり、これまで密室の取り調べで行われてきた自白の誘導や強要などを防ぐことはできないからだ。

だが、それ以外では問題点が多すぎると言わざるを得ない。まず指摘しなければならないのは、広範な例外規定を設けていることだ。

特に、取調官が容疑者の言動から十分な供述が得られないと判断した場合は可視化しなくてもいいとする規定は、実施の是非が取調官の裁量に委ねられるため、拡大解釈の恐れがある。制度が骨抜きになりかねない。暴力団事件など捜査に支障を来す可能性がある場合に限るなど、例外を最小限にとどめるべきだ。

さらに対象事件が限定的である点も大きな問題だ。試案では「裁判員裁判対象事件」(A案)と「A案に加え、全事件での検察取り調べ」(B案)が併記された。

A案とした場合、対象となるのは全事件のわずか2~3%。特別部会設置のきっかけとなった厚生労働省の文書偽造事件は対象とならない。裁判員裁判対象事件以外で警察段階の取り調べを可視化しないことは、無実の少年が神奈川県警に犯行を「自供」させられるなど計4人が誤認逮捕されたパソコン遠隔操作事件も防げないことになる。

法務省は6月以降の部会で修正案を提示する方針という。可視化は何のために実施するのか。冤罪事件を教訓に、取り調べに依存した捜査のあり方を見直すという特別部会設置の原点に立ち返り修正すべきだ。

これまでの試行で、適正な取り調べの確保や供述の任意性・信用性の立証に役立つことが分かっている。対象範囲を試行より後退させるような結論を出してはならない。

事後の検証を可能にするためにも、全事件すべての取り調べの可視化へ道筋をつけるべきだ。それが、失われた司法の信頼を取り戻すために欠かせない姿勢だろう。

【神奈川新聞】


シェアする