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集団的自衛権を考える(7)不安覚え祖国思う 在日朝鮮人と中国人

政治行政 神奈川新聞  2014年05月16日 10:05

「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」で報告書を受け取り、あいさつする安倍首相(左端)=15日午後、首相官邸(共同)
「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」で報告書を受け取り、あいさつする安倍首相(左端)=15日午後、首相官邸(共同)

集団的自衛権の行使容認へ強い意欲を示した安倍晋三首相。会見では「国民の命を守る責任が私にはある」と繰り返した。高揚感さえ漂わせたその言葉に不安を覚える人たちが県内にいる。在日朝鮮人と中国人。それぞれの祖国は集団的自衛権をめぐる論議の中でクローズアップされている。

■プロパガンダの実例 朝鮮学校教員(55)

集団的自衛権の行使が認められるのか。在日朝鮮人には切実な問題です。日本が米国と一緒に戦争をすることが可能になるからです。

1950年に始まった朝鮮戦争は終わってはいません。今は休戦状態にすぎない。同盟国である米国の求めに応じ、日本が加わって朝鮮半島が再び戦争にならないとも限らない。限定的というけれど、可能性がゼロから有になる。それは大きな違いです。

父は植民地支配下にあった朝鮮半島から渡り、軍需工場で働きましたが、戦争に巻き込まれる歴史は繰り返されるのか。日本には平和憲法がある。だからその通りに行動してほしいというのが率直な願いです。戦争はしない。国同士の対立があっても、武力に頼らず、争いを回避するために手を尽くす。憲法にはそう書いてあるはずです。

◆「防衛本能」

私は朝鮮学校で教員をしていますが、子どもたちには憲法は素晴らしいものだと教えてきました。植民地支配と侵略戦争を反省し、だから大事にしてきたんだ、と。

その憲法を解釈改憲で否定することは、戦争の過去や反省から出発した戦後を否定し、私たちの歴史を否定することでもあります。

朝鮮学校の子どもたちは日本の政治にとても関心があります。それは防衛本能です。日本人以上に日本のことを知り、この先に何が起こるのか身構えておかないといけない。悲しい習性ですが、日本の政治の影響を大きく受ける立場ですから。市長が替わった途端、補助金が廃止になるということが現実にあるわけです。

地域で付き合う人々は個々には大変いい人たちです。それとは別に肌で感じる社会全体の空気がある。それががらりと変わった瞬間をはっきり覚えています。2002年9月17日、日朝首脳会談で北朝鮮による拉致事件が明らかになった日です。子どもや学校へのいやがらせが相次ぎ、以来、北朝鮮で何か事が起きると警察からすぐに電話が入る。警備をしなくていいですか、と。そうした日が10年以上続いた先に今日という日があるのです。

◆異論を排除

テレビでは相変わらず北朝鮮のことをおどろおどろしく、また、見下したように面白おかしく取り上げています。しかし、異議を唱えると反日だ、とののしられる。事実、こうして本名を名乗って取材に答えることもできない。学校に何かあってはいけないと心配だからです。

プロパガンダとはこういうことなのだ、という実例を見る思いです。国を守る。領土を守る。国民の命を守る。否定することの難しい言葉とセットで集団的自衛権が語られる。できなかった戦争ができるようになるというのに安倍首相の物言いは、まるでいいことのよう。反対する人はおかしい、といわんばかりです。

そのための仮想敵国が北朝鮮で、排除されるべき存在として目の前に存在しているのが、在日なのでしょう。集団的自衛権の行使が可能になり、やがて「仮想」の2文字が取れたとき、明確な敵意はわれわれにも向けられるようになるのでしょうか。

■平和憲法なぜ捨てる 中華料理店経営者(59)

集団的自衛権の行使容認に向けた動きは軍国主義の復活にしか映りません。日清、日中戦争と、いずれも仕掛けてきたのは日本でした。その記憶が呼び起こされるからです。祖国に住む中国人も皆、そう捉えるでしょう。

私が来日したのは30年前です。明治維新以降、大きな発展を遂げた日本に憧れ、敬意を持って留学したのです。いまは横浜市内と都内で中華料理店を経営していますが、人生の半分を日本で過ごし、多くの日本人に助けられた。その第二の古里が、政治的におかしな方向に向かっていることが残念でなりません。

安倍首相とは同い年で今年還暦を迎えます。われわれの世代は戦争を直接知らないが、親たちが経験している。戦争を望まない気持ちは依然、強い。安倍首相は国民の生命と財産を守ると主張するが、反対の結果を招きかねないと思います。武力に訴えることは恨みが恨みを呼ぶことになり、何の解決にもならないからです。

それは歴史が教えてくれていることです。

◆歴史重んじ

われわれは釣魚島と呼びますが、尖閣諸島の問題も影響しているのでしょう。

尖閣はほぼ全ての中国人が中国のものだと思っています。約25年前、日本の大学で日明貿易の論文を書くにあたり、国会図書館で明の歴史を調べましたが、中国がこの島々を利用した記録がたくさんあった。日清戦争前、日本は尖閣を領土にしようと十数年かけて調べ、清を破った直後に編入しました。

中国人から見れば盗まれたという言い方しかできない。尖閣周辺の地下資源を欲しているがために領有権を主張していると思われがちだが、そうではありません。

それに、中国人は道教の教えから、形式的なものにこだわらず、よく妥協をするものです。三国志の時代から、「今日は敵だが明日は友人」ということが常にある。日中国交正常化交渉の際、鄧小平さんもそうでした。日本との関係を良くするため、尖閣問題を棚上げし、将来の人たちに任せたのは、そういうことでもあったのです。

石原慎太郎都知事(当時)の尖閣購入計画をきっかけに、互いに引くに引けない状況になったのは、不幸なことです。

◆尊敬を失う

安倍首相の会見も仕事の合間にテレビで見ました。平和を実現したいという思いなど、いいことを言っている。

ではなぜ、いま、解釈の変更によって平和憲法を自ら捨て去ろうというのか。戦争放棄をうたった平和憲法があってこそ、私たちは日本を尊敬してきました。平和で科学技術が発展し、心が豊か。学ぶところがすごく多い。

首相の言葉は、それが本心なのか信じることができないのです。言葉とは裏腹に、結果的に中国国内の反日の動きに口実を与えるだけではないのか。この問題は中国人には阻止できません。日本の国民に立ち上がってもらうことを望んでいます。

【神奈川新聞】


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