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【JリーグCS】自己暗示という厚い壁 川崎の悲願遠いまま

スポーツ 神奈川新聞  2016年11月24日 17:29

 


【川崎-鹿島】決勝進出ならず、がっくり肩を落とす川崎イレブンら=等々力陸上競技場
【川崎-鹿島】決勝進出ならず、がっくり肩を落とす川崎イレブンら=等々力陸上競技場


 【カナロコスポーツ=佐藤将人】J1川崎フロンターレは23日のチャンピオンシップ準決勝で鹿島アントラーズに0-1で敗れ、悲願のリーグ初制覇をまたもや逃した。第2ステージで失速した鹿島に見せつけられたのは「ここ一番」での勝負強さ。違いはどこにあるのかー。

自己暗示力という伝統


 チャンピオンシップ準決勝の開始直前。あるスポーツ紙で長らく鹿島アントラーズを担当している“先輩記者”に聞いてみた。

 「鹿島ってここ一番に勝負強いですけど、今日はどうなりますかね」

 即答してくれた。

 「うん。そうなる(鹿島が勝つ)と思うよ」

 果たして、その通りになった。

 虎の子の1点を守りきり、鹿島が決勝進出。後半の後半からは特に何度も川崎が好機を迎えたが、鹿島守備陣はGK曽ケ端を筆頭にマークや位置取り、パスやシュートコースのつぶし方など、最後の一線でミスを犯してくれない。その試合巧者ぶり、すさまじい集中力には感嘆するしかなかった。

 川崎は引き分けでも決勝に行けた。会場はホーム等々力。年間勝ち点では川崎が2位で鹿島は3位。特にセカンドステージは3位と11位という決定的な差があった。

 その全部を、覆された。

 リーグ最多のタイトル獲得数を誇る鹿島の勝負強さを、先輩記者はこう分析していた。

 「自己暗示力っていうのかな。『俺らはビッグマッチで勝てる』という。今の若い選手は鹿島がリーグ3連覇(2007~09年)した時にはいないんだけど、それを経験している小笠原なんかが真顔で『絶対勝つのは俺ら』とか言っているのを見て、自分たちもいつの間にかそんな気になっていくみたい」

 ちなみに先輩記者は、一時期フロンターレを担当していたことがあった。そして、こう言うのだ。

 「字にするのは難しいんだけど、大一番を前にクラブに漂う空気が決定的に違うんだよね。書こうとするとどうしてもスピリチュアルな感じになってしまうんだけど、鹿島の『勝つ』空気はすごいよ」


鹿島のベテランGK、曽ケ端(左)。隙の無い守りで川崎を完封した
鹿島のベテランGK、曽ケ端(左)。隙の無い守りで川崎を完封した

エースも「チーム変えられず」


【川崎-鹿島】決勝進出ならず、川崎での最後の試合となってがっくり肩を落とす大久保=等々力陸上競技場
【川崎-鹿島】決勝進出ならず、川崎での最後の試合となってがっくり肩を落とす大久保=等々力陸上競技場


 いつも通りを発揮するのが難しい大舞台で、いつも通りにいかなくても、耐えていなして、最後は勝ってしまう鹿島独特の強さ。試合後、常に遠慮ない物言いをする川崎のFW大久保が自軍との対照的な姿を問われ、特に棘をとがらせたのがチームの「自信のなさ」だった。

 「選手が自信を持って恥ずかしくないプレーをしないと。勝負に対する厳しさがあれば、どこかで優勝していると思います。それがないからこそここで止まっている。自分は言い続けてきたけど、最後までこのチームを変えられなかった。悔しいし、寂しい。(FC東京への移籍が決まり)これからは言うことができない。言える人がいないと、川崎は普通のチームになってしまう」

 点取り屋が川崎に足りないという「自信」は、鹿島がここぞで発揮する「自己暗示力」とほぼ同義だ。

 小笠原は試合直後のピッチインタビューで、やはり大舞台に強いですねという問いを「まだ何も勝ち得ていない。次に勝ってこそなんで」と一蹴した。大久保が言う「勝負に対する厳しさ」とは、そういう姿勢の積み重ねを指しているのだろう。


川崎の得点源であるエース大久保(左)も、大一番ではゴールならず
川崎の得点源であるエース大久保(左)も、大一番ではゴールならず

勝負の神はどこに


2004年の浦和とのチャンピオンシップで、延長を前に指示を出す横浜Fマリノスの岡田監督
2004年の浦和とのチャンピオンシップで、延長を前に指示を出す横浜Fマリノスの岡田監督


 だが、言うはやすし。どうすればその見えない力は身につくのだろう。鹿島の力の根源が「リーグ最多のタイトルを取ってきた経験と自信」だとすれば、他クラブはまねができない。むやみに「俺らは強い」と自己暗示をかければいいという問題でもないだろう。

 かつて横浜F・マリノスを率いて03、04年に連覇を果たした岡田武史・元日本代表監督はそれを「神様」に求めた。

 選手に「勝負の神は細部に宿る」と言い聞かせ、グラウンドを走る時に必ず設置したコーンの外側を走らせるなどした。そうした細かな徹底が、最後の一歩、あと5センチの差につながり、そして最後は勝利の女神をほほえませると。

 今季と同じく2ステージ制の末にチャンピオンシップで年間王者を決めた最後のシーズンとなる04年には、けが人続出で戦況不利とされる中、浦和レッズを2戦合計1-1の末、PKで退けた。奪った1点はセットプレーから、あとは「気持ち」としか言い様がないような集中力でリードを許さない。まさに23日の鹿島に通じる勝負強さだった。


2004年の浦和とのチャンピオンシップで、PK戦を制して2年連続の年間王者となり喜ぶ横浜F・マリノスの選手たち。中央は今は亡き松田直樹選手
2004年の浦和とのチャンピオンシップで、PK戦を制して2年連続の年間王者となり喜ぶ横浜F・マリノスの選手たち。中央は今は亡き松田直樹選手


 何度もタイトル寸前で跳ね返され、「勝負弱い」という不名誉な伝統が続いてしまっている川崎にとっては、極めて難しい課題だ。今季はクラブ創設20周年の節目という大きなモチベーションがありながら、クラブ史上最多の年間勝ち点をとりながら、常に優勝争い圏内にいながら、それでもリーグ制覇に届かなかった。チームリーダーのMF中村が「今は喪失感が大きすぎてコメントできない」と色を失っていたように、鹿島戦の敗北はそれほど重い。

違う持っていき方で




 


故障明けで途中出場ながら、チームに活気をもたらした中村。2本の決定機を決められず、「自分が決めるべきところを決められなかった」と述べた
故障明けで途中出場ながら、チームに活気をもたらした中村。2本の決定機を決められず、「自分が決めるべきところを決められなかった」と述べた


 今季はまだ天皇杯が残っている。クラブ21年目の一歩目に当たる17年元日に初タイトルを取って殻を一つ破るとなれば、これほど縁起の良いこともない。

 ただリーグ終了後にクライマックスを迎える天皇杯は、「来季にはもういない人たち」と一緒に戦うという、気の持ちようが難しい大会でもある。川崎もすでに大久保や風間監督の退団が決まっている。

 川崎は伝統的に、良くも悪くも気の良い選手が多く、団結力が強いと言われてきた。でも、それで20年間タイトルが取れなかったのであれば、どうだろう。いっそのこと、逆をいってしまえば。団結ではなく、チーム内がぎすぎすするほど激しくやりあってしまえば。

 こんな若手がいてもいい。

 「大久保さん、言うことはもっともですけど、あなただって鹿島戦の最初のビッグチャンス外したじゃないですか。俺が試合に出た方が絶対いい。大久保さんが変えられなかったというなら、俺が変えますよ」

 あるいは監督に。

 「攻撃的なスタイルを植え付けたと言っても、結局タイトルとれなかったじゃないですか。足りなかった何かは、俺が自分で見つけますよ」

 特に大久保は「お前、調子に乗るなよ」と言いながら、そんな後輩を喜ぶのではないだろうか。チーム最年長の中村が若手に求める「もっとぎらつく感じ」は、そういうところから始まるのではないだろうか。

 チーム内の不和も、納得のいかないことも、最後に勝って笑えればオールオーケー。プロまで上りつめた選手なら誰でも、どこかで経験していると思うのだが。


川崎の中村と競り合う鹿島の小笠原(左)。リーグでも随一と言える「勝ち方を知っている」選手だ
川崎の中村と競り合う鹿島の小笠原(左)。リーグでも随一と言える「勝ち方を知っている」選手だ







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