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海水浴場名は変えず 命名権で豊島屋「市民の親しみ」優先

社会 神奈川新聞  2014年05月16日 03:00

正式名称と変わらない名称に決まったことを発表する豊島屋の久保田社長=鎌倉市役所
正式名称と変わらない名称に決まったことを発表する豊島屋の久保田社長=鎌倉市役所

鎌倉市内の3海水浴場について、ネーミングライツ(命名権)を持つ豊島屋(同市小町)の久保田陽彦社長は15日、正式名称である「由比ガ浜海水浴場」「材木座海水浴場」「腰越海水浴場」をそのまま愛称にすることを明らかにした。鎌倉土産の定番「鳩サブレー」で知られる同社は、「親しんだ名を変えたくなかった」と理由を説明した。

同社はことし3月、愛称とロゴマークを公募。全国から計393件が寄せられ、正式名称のままが良いとの意見が約1割と最も多かった。応募者らが添えた愛称の理由なども加味し、選定委員会で決定した。同市役所で会見した久保田社長は、「『昔から親しんだ名前が良い』との意見が多かった。わたし自身、この名を変えないでおきたかった」と安堵(あんど)した表情を見せた。

年間計100万人の海水浴客が訪れる3海水浴場の年間5千万円近い維持管理費に充てるため、市は昨春、「年間100万円以上(原則3年以上)」を条件に命名権者を公募。「100万円程度で伝統ある名前を売るのか」といった市民の批判も上がる中、「変な愛称を付けられたら嫌」と手を挙げた豊島屋と年間1200万円(10年間)の契約を交わした。愛称は今夏から3年間使用する。

愛称とともに募集していたロゴマークは、東京都内在住の30代女性が描いたデザインに決定。「鎌倉のイメージ」でもある鳩がモチーフで、「海水浴は楽しいな」という雰囲気や誰もが楽しく遊べる海水浴場であるように、との思いが込められているという。久保田社長は「グッズを販売して収益を維持管理費に使うなど、市税だけでなく海を訪れる皆が負担し合える仕組みをつくりたい」を強調した。

■郷土愛に歓迎の声、「企業イメージ向上」と専門家

「海は皆のもの。清掃費を出したつもり」-。鎌倉の3海水浴場の愛称に、豊島屋は地元で親しまれてきた正式名称をそのまま生かすことを決めた。命名権の普及で企業名や商品名が冠された施設が増える中、地元企業の郷土愛に市民や関係者から歓迎の声が上がり、専門家はイメージアップにつなげた豊島屋の巧みな戦略を評価している。

「歴史がある名前を、地元の企業が守ってくれた」。由比ガ浜の海岸を歩いていた市内在勤の女性会社員(27)は笑みを見せた。鎌倉市とともに観光施策の先頭に立つ市観光協会の井手太一会長も「まちに愛着とプライドを持つ鎌倉らしい結論だ」と喜ぶ。

人口減に直面し市民税収入が細る一方、年間延べ2千万人の観光客を迎える同市。新たな財源確保策として取り入れたのが、命名権だった。

今回の決定で、市は年間1200万円の契約料を海水浴場の維持管理費に充てられる一方、市民から要望の多かった正式名称の存続にもつながった。豊島屋が経費を“肩代わり”しただけにも映るが、専門家は「豊島屋にとってもメリットはあった」と指摘する。

明治学院大の川上和久教授(戦略コミュニケーション論)は「命名権の手法としては極めて異例」とした上で、「度量の広さを見せたことで、かえって企業イメージが高まった」と豊島屋の戦略を評価。新聞やテレビで報道されることにより「億単位の広告料を払うより効果はあるかもしれない」と話す。

横浜国立大の鶴見裕之准教授(マーケティング論)も「商魂よりも郷土愛を大事にした『豊島屋方式』。社名などが前面に出過ぎる例もある中、今後の命名権のあり方に影響を及ぼす可能性がある」と分析した。

【神奈川新聞】


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