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研究成果を実用化 横浜市大付属病院に見る先進医療(上)

社会 神奈川新聞  2014年05月05日 16:04

3Dプリンターを活用した「実物大臓器立体モデル」を手に手術支援方法を説明する稲葉医師
3Dプリンターを活用した「実物大臓器立体モデル」を手に手術支援方法を説明する稲葉医師

厚生労働省は国家戦略特区における先進医療の該当審査の期間を半分に短縮することを決めた。治療が難しい病気や難病の克服を目指す先進医療は医学研究を実際の医療につなげ、新たな治療法を保険診療に橋渡しする役割を担う。これまで9種類の先進医療が保険適用されるようになった横浜市立大付属病院(同市金沢区福浦)の現場から、最新動向を報告する。

2010年1月、血管を正常な状態に再生させる新たな治療法が先進治療に加わった。

対象は足の血行障害である閉塞(へいそく)性動脈硬化症。「放置しておくと最悪の場合、足が腐ってしまう。血行障害に伴う潰瘍などは薬物やカテーテル治療、バイパス手術といった従来の治療法が効かないケースがある。血管再生療法は、切断しか選択肢のなかった患者にとって『福音』となった」。医学部准教授で循環器内科の石上友章医師は最新の細胞治療理論の成果を強調する。

高齢化の進行によって増え続ける生活習慣病。中でも激増している動脈硬化症は脳梗塞や心疾患の原因になり、横浜市大では予防と治療の両面で新たな医療技術の開発・提供に取り組んでいる。

血管再生療法は、まず患者の血液から末梢(まっしょう)血単核球細胞を取り出し、血管の再生に必要な成分や血管の元になる幹細胞を濃縮。この血液を局所注射によって患者の体内に戻し、末梢血管の再生を図る。

この手法に先行し、骨髄移植による血管新生療法も先進医療として認められている。石上医師は「骨髄移植では全身麻酔によって骨髄血を採取する必要があり、患者の身体的な負担が大きい。末梢血幹細胞を使った血管再生治療では、静脈からの採血で対応できる。高齢者や合併症のある患者にも安全で負担も軽く治療を行うことが可能になった」と説明する。

血管再生療法は若い男性の発症例が多い難病のバージャー病に対しても有効性が実証されている。

70代の男性は長年バージャー病を患い、両足の痛みと強い冷感に悩まされていた。血管再生療法を受けた結果、「足が温かくなった。何といっても、よく眠れるようになったことがうれしい」と話す。

市大病院は高度な医療・医療技術の提供・開発を担う特定機能病院に市内で唯一指定されている。医学部と先端医科学研究センターを拠点にした医学研究と臨床現場が一体化しているのが大きな特徴だ。重点的な研究分野である生活習慣病の克服へ向け、先端研究を医療現場に橋渡しする研究センターのプロジェクトに石上医師も参画。動脈硬化症の発症リスクを予測する抗体の解析に成功している。

石上医師は「今回の研究成果は、患者のリスク診断や個別化医療の実現に応用できる可能性がある。医師であり研究者であるという立場で研究成果を医療に還元していきたい」と橋渡し研究の重要性を強調する。

■3Dプリンター活用

急速に進歩する画像技術は2次元から3次元へと医療機器にイノベーション(技術革新)を起こしている。

「人体は3次元で立体的かつ複雑な形状を成している。特に整形外科は治療の対象となる部位の形状、形態を正確に把握する必要がある。そのためには患部を映し出す精巧な画像データが不可欠」。同大准教授で整形外科の稲葉裕医師は、医療と画像の密接な関わりをそう説明する。

大腿骨頭すべり症という成長期の子どもに多い原因不明の病気がある。骨盤とかみ合う大腿骨の上端の丸い部分(骨頭)がずれて股関節に痛みが生じる。「骨頭を元の位置に戻して固定する治療を施すが、正常な位置から90度近くずれている症例もあり、複雑で難しい手術になる。それだけに患部の状態や位置を正確に把握し、術前に入念なシミュレーションを行う必要がある」と稲葉医師。

この治療に当たって手術の正確さ、安全性を高めるために導入した方法が「実物大臓器立体モデルによる手術支援」。12年に承認された先進医療で骨盤や足の骨、関節に著しい変形、欠損を伴うケースに適用される。3D画像の急速な進歩、3Dプリンターの開発普及が整形外科の治療法に革新をもたらしたケースだ。

従来、2次元のレントゲン撮影の場合、患者の正面と側面の画像を組み合わせ、立体的な形状を想像していた。1990年代に入ると、コンピューター上で3次元化できる画像技術が登場。患部を撮影したCT(コンピューター断層撮影)画像を基にコンピューター上で3次元画像を作製し、欠損した位置や形状の把握、治療計画の策定に役立てていた。

さらに3Dプリンターの実用化が大きな進歩をもたらした。画像データを3Dプリンターに入力し、石こうなどで骨格の実物大の立体造形を作製する。実物同様のモデルを用いて手術シミュレーションを行った後、実際の手術に臨むことが可能になった。

稲葉医師は「個々の患者に合わせた手術が可能になった。正確で安全な治療の実現という形で技術の進歩が医療に貢献したケース。今後も画像技術の進歩で、手術の精度が一層向上していくはずだ」と期待を込める。

◆先進医療 厚労相によって定められた高度な医療技術を用いた治療法。2004年、国民の安全性確保、患者負担の増大防止、選択肢の拡大などの観点から保険診療との併用(混合診療)が認められるようになった。このため、先進医療にかかる技術料以外の診察、検査、投薬、入院料などは健康保険の対象となり、患者負担が軽減された。国民皆保険制度の下、混合診療は原則禁止されており、保険との併用は将来の保険適用を評価するための例外という位置づけ。

対象となるのは、大学病院などで研究開発された難病などに対する新たな治療法のうち、ある程度実績を積み治療法が確立された医療。将来、保険適用すべきかを検討する段階にある医療技術で、患者が希望し、医師が必要性と合理性を認めた場合に実施される。高度な医療の提供に対応できる施設の用件が規定されており、実施できる医療機関は限られている。

【神奈川新聞】


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