1. ホーム
  2. 政治行政
  3. 障害者雇用で国際セミナー(下) 鍵握る就労後の支援

障害者雇用で国際セミナー(下) 鍵握る就労後の支援

政治行政 神奈川新聞  2014年04月29日 11:35

障害者を雇用する事業者の国際組織「ワーカビリティー・インターナショナル(WI)」のメンバーを招いて開催された「障害のある人の労働・雇用国際セミナー」。オーストラリア、英国、米国、日本の現状報告から、障害者の一般就労の推進をめぐる課題が浮き彫りになる一方、地域作業所などでの蓄積を生かし、日本独自の制度構築を模索すべきとの声が上がった。

◆法整備も進まぬ一般就労-米国

4カ国のパネリストによる報告のなかで注目を集めたのが、障害者への差別を禁じ、世界的に影響を与えた障害者法(ADA法、1990年制定)を持つ米国で一般就労が増えていないとされたことだ。

米国は英国、オーストラリアとともに、従業員に占める障害者の割合を定めた法定雇用率を導入していない。障害者に最低賃金を保障する中、その雇用は企業、団体の志に負うところが大きい。

WI理事で重度精神障害のある娘を持つリック・セバスチャンさんは「法定雇用率は自由な市場とは異なる制度だ。強制は好ましくない」と言い切る。その上で、米国では障害者が就労した後の支援が不十分だと指摘した。

オーストラリアのWI理事、ジェイソン・マッケイさんも「強制で雇用してほしくない。メリットがあると思って雇用してほしい」と語った。そして、「企業にとって負担なら障害者の排除は変わらず、インクルージョン(包容)は難しい。政府による柔軟なサポートが必要だ」と訴えた。自由市場の重視から法定雇用率制度を導入しない米国などの制度的限界、今後の課題が浮き彫りになった。

日本はフランス、ドイツなどと同様に法定雇用率で障害者雇用を推進しようとしている。ただ、率自体が2%(民間)と低い上に実雇用率も1・76%(2013年)にすぎない。雇用の実態も、雇用率達成のための形式的な雇用にとどまっているケースがあるとの指摘もある。

雇用率アップには、法定雇用率のない米国などの教訓、その中で障害者雇用に取り組んでいる企業の努力も参考になると示された。

米国については一般就労していない障害者の生活も注目された。セバスチャンさんはロードアイランド州の地域作業所の事例を報告。福祉サービスである作業所は労働法規が適用される工場(労働の場所)であってはならず、「作業所に入るには、一般就労を試して失敗することが必要とされている。そのため、『福祉サービスが障害者の失敗を求めている』と批判されている」と語った。雇用と福祉の厳格な分離がかえって問題を生じさせるという難しさが浮かび上がった。

オーストラリア連邦裁判所で障害者差別禁止法違反とされた「ビジネスサービス賃金評価ツール」も関心を呼んだ。

オーストラリア政府が開発したもので、生産性評価(50%)と就労能力評価(50%)で構成されている。障害者の賃金を評価する際に用いられた。しかし、評価項目が知的障害者に差別的とされ、見直しが行われているという。

日本においても、どのようにして差別なく、公平かつ正当に障害者の労働、賃金を評価するかは大きな課題。参加者からは「何が差別で何が差別でないのか。オーストラリアの議論を注目していきたい」との声が上がった。

◆求められる日本独自の制度

日本の障害者就労支援に取り組む関係者からは、福祉制度改革の必要性をあらためて訴える声が上がった。

「雇用と福祉を連結させた独自の制度が必要」。そう指摘するのは、WIの日本組織「ワーカビリティー・インターナショナル・ジャパン」代表理事の藤井克徳さん。

労働行政としての雇用と福祉行政としての福祉が分かれた現在の二元政策を解消し、労働障害の程度に応じて雇用政策と福祉政策の比重を変化させながらサービスを提供する「対角線モデル」の制度が必要だと主張する。

労働法規の適用といっても、事業者には大きな負担になる。最低賃金を義務づけることで、労働障害の重い人が雇用の場から排除されてしまっては元も子もない。米国の現状に藤井さんは「率直に言って、障害者に冷たいと感じた」という。

労働法が適用されず、最低賃金以下の低い報酬が問題視される日本の福祉的就労だが、「個々の障害実態やニーズに応じた柔らかい働き方が実質化され、重度障害者の働く場になっていた」という長所があり、「これは継承する必要がある」と指摘。その上で、賃金補填(ほてん)などの制度を検討し、最終的に最低賃金を保障すべきだと訴える。

制度改革のためには、厚生労働省内にいまも残る労働と福祉の縦割り主義を改め、審議会でも両分野の有識者が協力する必要があるとも。

そして、関係者が口をそろえるのは政府予算の確保だ。

経済協力開発機構(OECD)調査によると、障害関連支出の国内総生産(GDP)比(2009年)はオーストラリア1・4%、英国2・4%、米国1・0%に対し、日本は0・4%。内閣府の障がい者制度改革推進会議が2011年に提出した骨格提言では、障害者サービスをOECD諸国平均並みにするには、約1兆円の予算増額が必要とされた。

どのように国民の理解を得るかでは、オーストラリア、英国の現状から大きな示唆を得たという。

特にオーストラリアは有権者1人当たり年間3万2千円の税負担を新たに課し、障害者サービス予算を2・5倍の1兆3500億円に増額。世論調査でも78%が新制度導入に賛成したことが報告された。「予算額は日本と比べてもはるかに高い。国民の8割が支持したのは感動的」と藤井さん。

日本では今後、親の高齢化などで多くの障害者が家族扶養から生活保護受給者に移行する可能性がある。生活保護費を含めた政府支出を考えれば、働く障害者に賃金補填などを行って生活を支えることは、全体として支出を抑制できるという指摘もある。

一般就労に至らない障害者、日本の福祉的就労に該当する障害者の「労働」の問題は、各国がさまざまな方法論で取り組み、模索が続いている。「明確な回答は出ていない」と藤井さん。日本の蓄積を生かし大きな枠組みで議論することで、「障害者権利条約に見合う日本独自のモデルの構築を政府に求めていきたい」と締めくくった。

■福祉的就労 障害者総合支援法の「就労継続支援A型」「就労継続支援B型」「就労移行支援」など、福祉政策の下での就労。通常の事業所に雇用(一般就労)されることが困難な障害者に就労機会を提供したり、一般就労に向けた「訓練」を行っている。B型と就労移行支援には労働法の適用がなく、平均工賃月額(2012年度)はB型約1万4千円、就労移行支援約2万1千円で、障害者の働く場であるにもかかわらず、自立した生活を支える状況になっていない。労働法適用のA型でも平均工賃月額は約6万9千円にすぎない。

【神奈川新聞】


シェアする