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【照明灯】色

社会 神奈川新聞  2014年04月27日 10:30

日本の伝統色は指折り数えて400とも500ともいう。その色見本と名付けに、先人たちの目の確かさ、詩情の豊かさを思う。桜、萌葱(もえぎ)、鶯(うぐいす)ならば現代のわれわれにも分かりやすいが、空五倍子(うつぶし)、御召御納戸(おめしおなんど)とくると、もはやどんな色なのか、想像すらつかない▼「憲法色」も難解な一つだろう。黒褐色の一種で、黒と茶と赤と灰が絶妙に混ざりあい、落ち着いた風合いがある。これで染めた小袖などは江戸時代を通じて人気があったらしく、今でも帯や浴衣に使われる▼この奇妙な名前は、戦国から江戸初期に生きた剣術家、吉岡直綱(号は憲法)に由来する。足利将軍家の兵法師範を務めた吉岡流の4代目。あの宮本武蔵との試合で大けがを負わせた逸話も伝わるが、大坂夏の陣の後、染め物業に転じたという▼当時の染料の多くは草木。武門の家が染め物、とは意外な気もするが、治療目的で薬草の研究を進めた蓄積があったらしい。憲法色は、漢方で止血薬や打ち身薬として使われた楊梅(ようばい)や櫟(くぬぎ)の樹皮で染めたのが始まり、と一説にある▼誕生から400年。一本気さ、かたくなさ、実直さが愛され、幅広い層の人々に親しまれてきた。時代を超越したその魅力。「守る」「変える」といった議論とは違う次元にたたずんでいる。

【神奈川新聞】


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