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横浜・女児虐待死事件1年 子を救うには親こそ「子ども虐待ネグレクト防止ネットワーク」 山田不二子理事長

社会 神奈川新聞  2014年04月21日 16:04

「子供にとって児童虐待が一番最悪なストーリーということを日本社会全体が認識しなければならない」と話す山田さん=伊勢原市
「子供にとって児童虐待が一番最悪なストーリーということを日本社会全体が認識しなければならない」と話す山田さん=伊勢原市

横浜市磯子区の雑木林で、虐待され死亡した山口あいりちゃん=当時(6)=の遺体が発見されてから、21日で1年が経過する。自治体間や関係機関同士の連携不足、「危険信号」を察知する感度の低さなど、多くの課題が浮き彫りになり、関係機関は対策を講じてきた。だが、「検証も対策も不十分。国家的問題として取り組むべき」。児童虐待の根絶に向け活動してきた認定NPO法人「子ども虐待ネグレクト防止ネットワーク」(CMPN、伊勢原市)の山田不二子理事長は、厳しい目を向ける。幼い命を救うため、さらに必要なこととは何か。

◇当事者意識が欠如

あいりちゃんと母親の山口行恵被告(31)ら家族は、事件までの数カ月の間に、千葉県松戸市から秦野市へ、さらに横浜市へと転居を繰り返した。あいりちゃんの小学校入学時期とも重なっていたが、入学前健診の未受診や入学式欠席などの情報は、自治体間で伝達されなかった。

「当初住民登録があった松戸市は、小学校が家庭訪問を繰り返していたのだから、転居先の秦野市に連絡しなければならなかった。入学前健診を受けず、入学式すら来ない状況は、普通ならばあり得ない。秦野市に『何か問題を抱えているかもしれないからよろしく』と一報を入れるべきだった。『こちらの住民ではなくなったからもういい』という発想だ」

そこに、当事者意識の欠如を見る。

では、こうした児童に対し、自治体などの関係機関はどう対応すべきなのか。強調するのは、親が発するわずかなSOSをしっかりと受け止める姿勢と仕組みだ。

「児童虐待が起きる家庭は、貧困がバックグラウンドにあるケースがほとんど。公的機関と接触したがらない親でも、子どもが病気になれば医療費に困って、住民登録をしないまま居住する自治体に保育や医療費助成など公的サービスを求めてきたり、乳幼児の医療証がないのに医療機関を受診したりする。そうしたSOSをきちんとすくい上げていく寛容性と、速やかに自治体に情報が届くシステムが必要になる」

◇人員配置で力量差

虐待を受けている子どもについて、自治体や警察、児童相談所などの関係機関が情報共有や支援に向けた協議を行う組織として、各自治体は要保護児童対策地域協議会(要対協)を設置している。自身も所属する秦野市の要対協にあいりちゃんに関する情報が正式に伝えられたのは、昨年2月。あいりちゃんの転入から10カ月、死亡からは半年以上がたっていた。

「命が危ない、と感じるタイミングが遅すぎた。それぞれの担当が単独で動いているだけでは、虐待の危険性に気付けない。例えば骨折で、福祉の人間には『事故でも起こる』としか捉えられなくても、医療従事者が見れば虐待だと分かるケースもある。同じ情報でも、専門家と非専門家では評価が違う。多機関が連携する要対協に情報を集約しなければならない」

一方で、要対協の力量には格差があるのが実情という。情報が集まったとしても、危険信号の見落としにつながりかねない。

「格差の原因は、人員配置にある。つまりは、首長の考え方。児童虐待を重要な問題だと考えず、専門性のない事務職を要対協の調整機関に置くのと、社会福祉士や保育士、保健師といった専門職を置くのでは、力の差は歴然」

子どもが死亡するなど重大事案では、詳しい原因を究明し、再発防止につなげるため、児童虐待防止法は検証を自治体の責務と定めている。今回の事件では、横浜市が検証に着手しているほか、松戸市と秦野市もそれぞれ検証、報告書をまとめているが、異議を唱える。

「個別の検証では、『自分たちに責任はない』と互いに相手に責任を転嫁する結論になりがち。松戸市まで巻き込むのは難しいかもしれないが、少なくとも秦野市と、当時同市を管轄していた県厚木児童相談所、県警から通告を受けて対応していた横浜市の3者で、合同で検証すべきだ。特に今回、県厚木児相の対応は鈍かった」

CMPNなどは昨年6月、未就学や児童虐待などが疑われる場合に市区町村や児相、警察が対策を徹底するよう、法整備などを求める要望書を安倍晋三首相や関係省庁の大臣宛てに提出した。

「虐待が原因で子どもが亡くなるということは、子どもの死の中で『最悪のストーリー』だということを、社会はまだ分かっていない。一番守ってくれなければいけない人から危害を加えられたり、見捨てられたりしているのが、虐待の被害児。それは子どもに対する最大の人権侵害だという認識を共有し、国家的な問題として取り組まなければいけない。にもかかわらず、各省庁が自分たちのテリトリーで対応する、というのが今の国の発想。全くうまくいっていない」

◇世界会議から学べ

今年9月、児童虐待に関わる世界各国の研究者や行政関係者ら約2千人が集まる「子ども虐待防止世界会議」が名古屋市で開かれる。日本での開催は初めてとなる。

「日本の虐待対策は今、いろいろな意味で行き詰まっている。多機関連携が進んでいないほか、草の根から政府を主導してきたNPOの存在意義が沈滞しつつある。通告窓口の一元化など、日本では進んでいない医療や司法を巻き込んだ多機関連携は特に、諸外国に学ぶことが大事。世界の虐待対応を引っ張ってきた第一人者に日本で会える機会はめったになく、絶対に活用すべきだ」

最悪のストーリーから、幼い命を救うためには、どうすればよいのか。

「自治体や関係機関は、虐待をしてしまう親を、ただ駄目な母親だと切り捨ててしまってはいけない。親を切り捨てるということは、親にしか守ってもらえない子どもを社会が切り捨てることだ。その構造を認識すべき。親を救っていかなければ、子どもを救うことはできない」

▼やまだ・ふじこ 1960年、横浜市生まれ。内科医。山田内科胃腸科クリニック(伊勢原市)副院長。児童虐待防止活動に取り組み、1998年に「子ども虐待ネグレクト防止ネットワーク」を設立。2001年のNPO法人化に伴い理事長に就任した。今年9月に名古屋市で開催される「子ども虐待防止世界会議 名古屋2014」の実行委員会事務局長を務める。

【神奈川新聞】


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