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100年先道筋示す挑戦、スマートタウンが藤沢で始動

社会 神奈川新聞  2014年04月18日 10:26

FSSTの街づくりを率いるパナソニックの宮原マネジャー。街開きを前に「ゼロから街が誕生する。前例のない挑戦です」と力を込める =藤沢市辻堂元町6丁目
FSSTの街づくりを率いるパナソニックの宮原マネジャー。街開きを前に「ゼロから街が誕生する。前例のない挑戦です」と力を込める =藤沢市辻堂元町6丁目

最先端の省エネ技術を駆使した日本初のスマートタウンが藤沢市でいよいよ産声を上げる。自社工場跡地で街づくりを手掛けるのは、総合家電メーカーのパナソニック。「持続可能な」を意味する「サスティナブル」をその名に冠する街が目指すのはエコだけではない。100年先を見据えた前例のない挑戦-。26日の街開きを前に事業の開発担当者は、そう力を込める。

東京ドーム4個分、広大な敷地に槌音(つちおと)が響く。藤沢市辻堂元町で工事が続く「Fujisawa サスティナブル・スマートタウン(FSST)」。一角には住宅が立ち並び、街路沿いに植えられた木々の緑がまぶしい。

工場閉鎖から5年で姿を現し始めた未来。パンフレットには「100年先も『生きるエネルギー』がうまれる街に」の文字。2月中旬に売り出された第1期62戸は5千万円前半から6千万円半ばの価格にもかかわらず、ほぼ即日完売だった。

■ルールづくりから

完工の2018年までに千戸が建つ。すべてに太陽光パネルと家庭用蓄電池、燃料電池システムを備え、電力の発電量と使用量を表示するメーターで省エネを促す。自社の多様な省エネ製品、創エネシステムを組み合わせ、掲げた目標は二酸化炭素(CO2)排出量の7割削減(1990年比)、生活用水の使用量3割減(2006年比)だ。

07年の構想段階から携わり、開発を率いるパナソニックのプロジェクトマネジャー、宮原智彦さん(48)は強調する。

「この街は、単に省エネ設備を取り入れたスマートハウスの集合体ではありません」

例えば、電気自動車(EV)や電動バイクを住民たちで共有するシステム。「街のルールを含めてゼロからつくる。住民のコミュニティー形成にも関わっていき、ガイドラインをつくって実行を促す。目標の達成にはただの自治会ではなく、スーパー自治会になってもらわなければなりません」。街の管理を担当する会社の社長でもある宮原さんは、ライフスタイルの提案を含めた街づくりである点を強調する。

それはもう、家電メーカーの仕事の範囲をはるかに超えている。なぜ、そこまでやるのか。

■時代の転換を象徴

街全体でエネルギーを生み出し、消費エネルギーも最小化するスマートタウン。国内では、FSSTを除けば実証実験の一環という事業が大半だ。

かたや海外では400近いプロジェクトが始動。20年後、その市場は現在の164兆円から3千兆円にまで膨らむとされる。

プロジェクトの形態は大きく二つに分けられる。

一つが、真っさらな土地に新しく街をつくる「グリーンフィールド」。新興国でニーズが見込まれ、街自体がエネルギーを生み出せば、発電所などのインフラ整備が少なく済み、人口急増への対応策にもなる。

もう一つは、既存の街に新技術を取り込む「レトロフィット」。こちらは居住者が高齢化しているケースが多く、再整備に合わせて高齢者施設や医療機関が設けられることが少なくない。

「FSSTは両方の要素を兼ね備えている珍しいプロジェクトです」と宮原さんは言う。ここに浮かび上がる戦略がある。

少子高齢化を迎え、国内市場は縮みゆく。モノをつくり、売るというビジネスモデルからの脱却が迫られる。そこで打ち出すのが「まるごと戦略」。自社の家電とソリューションをつなげた家造りにはじまり、店舗にビル、そして街づくりまでを担ってしまおうという試みだ。かつて冷蔵庫やエアコンの製造ラインがあった工場跡地で進むFSSTは時代の転換の象徴といえた。

そして、FSSTで蓄えたノウハウで世界の市場に打って出る。「『Fujisawa』の『Fuji』は、日本の世界ブランドといえる富士山を連想させる。ローマ字表記には、世界に向けた発信も込められているのです」。宮原さんはそう明かす。

■取り戻したい絆

「持続可能性」が意味するのはエネルギー問題の解消だけではない。

FSSTでは医療と介護、看護が切れ目なく提供される「地域包括ケアシステム」を実践する。街区につくられる各施設が互いに連携し、住み慣れた地域で人生の最後まで暮らし続けられるよう、高齢者を街全体で受け止める構想。目指すのは、購入者世代を含め家族3世代が住み続ける街だ。

何より快適でなければ人はやがて離れていく。宮原さんがこだわったのは曲線を基調とした街路だ。「四角く区画された街は視界が道によって寸断される。曲線なら景色が途切れることがなく、歩いていても飽きない。テーマパークの構造と同じです」。宮原さんは01年オープンの東京ディズニーシー(千葉・浦安市)の開発にも関わった人物でもあった。

街全体設計で中心に描かれたのが円形の公園だった。ところが、管理することになる藤沢市から「丸い公園なんて前例がない」と物言いがついた。担当職員にコンセプトを何度も説き、ようやく納得してもらえた。新しい発想を形にする難しさをあらためて感じさせた出来事でもあった。

でも、と宮原さんは言う。「この街に住もうという人はきっと新しモノ好き。EV共有システムも受け入れてもらえるはず」。そして夢想する。住民同士がEVの走行距離を競い合ったり、家庭での省エネやごみを減らすアイデアのコンテストをしたり…。そこに人々の輪ができ、笑いが起き、それはやがて、失われた地域の結びつきを取り戻すことにつながっていく-。

視線の先に入居を待つばかりの家々が並ぶ。一企業人としての立場を超え、宮原さんは思いを新たにする。「技術だけではない。人と人との関係づくりを含め、持続していく街とはどういうものなのか。実践していく新しい街の誕生は、日本がこれから直面する問題の解決への道筋を示す挑戦でもあるのです」

◆「世界的な先進事例」

日本総研・佐藤主任研究員

スマートタウン市場に詳しい日本総研の佐藤浩介主任研究員は、FSSTについて「スマートタウンの世界的な試金石になる」と位置付ける。

「現状で、建物や設備のハード面だけでなく、医療や介護、セキュリティーなどのソフト面を含めたスマートタウンが実用段階に入るプロジェクトはない」と指摘。FSSTは世界的に見て先進事例になると分析する。

中国の内陸部や中東諸国では、大規模なスマートタウンが造られているものの、省エネ設備を取り入れた家の集合体というケースが大半。一方でソフト面を重視したプロジェクトは国内を含め数多く進められているが、ほとんどが実証実験として期間を区切った技術的な検証にとどまっているという。

佐藤主任研究員は「FSSTで行われる多様な取り組みで、生活のスマート化(効率的運営)が実現できれば、国内を含め先進国で課題となっている高齢化社会などにも対応した街づくりの形が提案できる」とみる。

【神奈川新聞】


◆Fujisawa サスティナブル・スマートタウン 藤沢市辻堂元町6丁目の松下電器産業藤沢事業所跡地(約19ヘクタール)を再開発し、一戸建てと集合住宅の計約千戸と商業施設、医療機関や特別養護老人ホームなどの公益施設を整備する計画。2018年の全体完成時には約3千人が住む。総事業費は約600億円。パナソニックを筆頭に三井不動産、三井不動産レジデンシャル、三井住友信託銀行、三井物産、オリックス、東京ガス、日本設計、アクセンチュア、パナホーム、NTT東日本、電通などが事業に参画している。
◆Fujisawa サスティナブル・スマートタウン 藤沢市辻堂元町6丁目の松下電器産業藤沢事業所跡地(約19ヘクタール)を再開発し、一戸建てと集合住宅の計約千戸と商業施設、医療機関や特別養護老人ホームなどの公益施設を整備する計画。2018年の全体完成時には約3千人が住む。総事業費は約600億円。パナソニックを筆頭に三井不動産、三井不動産レジデンシャル、三井住友信託銀行、三井物産、オリックス、東京ガス、日本設計、アクセンチュア、パナホーム、NTT東日本、電通などが事業に参画している。

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