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特性ある発達障害児の学習支援 排除しない教育の一歩に

社会 神奈川新聞  2014年04月11日 12:13

算数の授業のユニバーサルデザイン化で作成された掲示物。「要点は赤い字で書く」などのルールを決め、どの先生も同じ体裁で書く=横浜市立日野南小学校
算数の授業のユニバーサルデザイン化で作成された掲示物。「要点は赤い字で書く」などのルールを決め、どの先生も同じ体裁で書く=横浜市立日野南小学校

発達障害がある子どもの学習をどう支援していくか、学校現場で模索が始まっている。一つのモデルが「ユニバーサルデザイン化された授業」。読み書きや計算が苦手といった障害の特性に配慮し、工夫した指導方法だ。ここで光が当たるのが「インクルーシブ(包括的な)教育」の理念。なぜいま、「排除しない教育」なのか。

■五感を使って学ぶ

図形を描く授業で3種類の用紙が配られた。白紙のもの、升目のあるもの、点が描かれたもの。横浜市立日野南小学校(港南区)の竹内裕子校長が解説する。

「抽象的な思考や細かい作業が苦手な子どもは升目が描かれた紙を選び、升目に沿って線を引く。得意な子は白紙を使えばいい」

横浜市と共同で考案したユニバーサルデザイン化の一例だ。

升目のある用紙は発達障害の子ども向けといえるが「大事なのは教員が『あなたはこれを使いなさい』と決めるのではなく、自分で選ぶこと」だという。

工夫は教室の見た目にも施されている。黒板の周囲の掲示物は日直の当番表など必要最小限。自閉傾向のある子どもは多くの情報が目に入ると気が散ってしまうためだ。

両側の壁には図形の描き方や算数の公式が貼り出されている。習った順に並べられていて、解答に行き詰まっている子どもには「壁に貼ってある紙を見てごらん」と声を掛ける。「計算が苦手な子どもには立体模型を使う。見る、触るなど五感に訴える指導です」と竹内校長。

一方でこうも強調する。「ユニバーサルデザインの授業とは、どんな子どもでも理解できるようになる支援が盛り込まれた授業。特別支援教育という特別な分野の話ではなく、そもそも学校として当然やるべきことでもあるのです」

■欠かせない「配慮」

設問の順番通りに解くことにこだわり、分からない問題を後回しにすることができない。ローマ字の「b」と「d」が区別できない-。発達障害者の家族などでつくる「神奈川オアシス」の横倉江美子代表は「つまずいている理由を先生が把握し、その子に合った指導をするのが重要」と話す。

自閉症であれば行動のパターン化や強いこだわりがあり、アスペルガー症候群なら興味や関心の偏りがみられる。読み書きの能力が極端に低いというのも特徴の一つだ。

いずれも脳機能の障害によるものだが、「しつけが原因」という誤った見方により、支援は遅れてきた。

転機は2005年の発達障害者支援法の施行。06年には学校教育法が改正され、小中学校で学習障害の子どもなどに適切な教育をすることが盛り込まれた。

「ただし」と横倉さんは指摘する。「発達障害は障害名が同じでも、程度や年齢、生育環境などで特性の現れ方が一人一人異なる。コミュニケーションが苦手な子と人が好きな子では指導方法も違う。一概に『学校はこう指導するのが良い』とはいえない」。求められているのは工夫と同時に、個別の配慮。現状の学級規模でどれだけ目を配ることができるのか、という限界も浮かび上がる。

■公平性めぐる問い

課題がより明瞭になるのは高校での取り組みにおいて、だ。

文部科学省は、障害の状態を踏まえた個別の指導と教育支援の計画作成を求めているが、13年度の調査によると、県内の公立小中学校の作成率が9割超なのに対し、公立高校の作成率は6割程度にとどまった。

「理由の一つは義務教育ではないことです」と話すのは都立足立東高校(東京都足立区)の林真司副校長。09~10年度に文科省の発達障害支援モデル事業の指定校となった同校だが、「高校は受験でふるいに掛けられた生徒が集まっている場所という意識が根強い。特別支援教育の視点を取り入れることに戸惑う教員は少なくない」と指摘する。

問題は公平性をどう考えるかにある。

県内のある高校でのこと。体育祭を控え、クラスが高揚した雰囲気になり、教室に入れなくなった女子生徒がいた。自閉傾向があり、団体行動が苦手だった。

女子生徒は保健室で課題に取り組み、単位を認定された。県立総合教育センター教育相談課の浜崎美保課長は「この学校では『この課題なら単位を出せる』と教員全員で合意できた。では、例えば不登校の生徒にも同様の配慮を認めるのか。答えは簡単には出ないだろう」と指摘する。

合意形成の鍵はどこにあるのか。浜崎課長は授業のユニバーサルデザイン化は手段の一つにすぎない、と語る。「子どもそれぞれに支援が行われ、その一つが発達障害への支援という形にできればいい。多様な支援を積み重ねることで、高校のインクルーシブ化を目指したい」

では、見据えるインクルーシブ教育とはいかなるものか。

■根源的な問い掛け

「排除しない教育」「万人のための教育」とも訳されるその理念を提唱した1994年の国連教育科学文化機関(ユネスコ)のサラマンカ宣言はこう求める。

〈すべての子どもはユニークな特性、関心、能力と学習ニーズを持っており、教育システムはこうしたきわめて多様な特性やニーズを考慮して計画され、実施されなければならない〉〈個人差もしくは個別の困難さがあろうと、すべての子どもたちを含めることを可能にする教育システムに改めることに、高度に政治的・予算的優先性を与えること〉

これが、とりわけ障害者教育における世界共通の指標となった。

重要なのは、ここでうたっている公平性とは、同じ教室で机を並べることにとどまらないという点だ。その実現は子どものニーズに応じた配慮があってはじめて成り立つ。そうであるならば、配慮は不公平ではなく、公平さを保つための合理的な措置ということになる-。

転じて、特別支援学校・学級で在籍者が増え続ける日本の現状は何を意味するのか。地域の普通学校がすべての子どもにとって安心して学べる場になっていない裏返しではないのか。いじめや不登校もまた、根を同じくする問題ではないのか。目を向けるべきは学校全体の有り様であるはずだ。

そして、排除しない教育は排除されないための教育でもあるのだった。前出の林副校長は言う。「文字を読むのが苦手な生徒がいたら、漢字を手書き入力で調べられる電子辞書を授業で使えるようにしたらいい。重要なのは、単に学力を身につけるだけでなく、社会に出るために生徒が自分の特性を理解し、特性を補う方法を人に説明できるようになることだ」

生きる力-。支援の模索は、教育とは何かという根源的な問いへとつながっている。

■発達障害支援とインクルーシブ教育■

発達障害は発達障害者支援法により「自閉症や学習障害、注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群やこれらに類する脳機能の障害」と定義される。

文部科学省は実態把握のため2012年に全国から抽出した小中学校を対象に、発達障害の可能性のある児童生徒の実態を調査。「決まったパターンの文章しか書かない」「不適切な状況で走り回る」など発達障害に関する質問項目に1164校が回答。「学習または行動面で著しい困難を示す」とされた児童生徒の割合は対象5万2272人のうち6.5%と推定された。

インクルーシブ教育の理念は06年に国連総会で採択された障害者権利条約に明記され、同条約批准のため日本政府は11年に障害者基本法を改正。「国や地方自治体は、障害のある子どもが障害者でない子どもと共に教育を受けられるよう、必要な施策を講じなければならない」と定めた。

県内では昨夏、黒岩祐治知事の諮問機関「神奈川の教育を考える調査会(教育臨調)」がインクルーシブ教育の推進を答申。「小中学校から高校まで連続した特別支援教育」として「発達障害などの支援を要する生徒にインクルーシブな教育を実践出来る高校づくり」を課題に挙げた。

【神奈川新聞】


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