1. ホーム
  2. 社会
  3. 愛国の超特急(中) 新幹線網の「精神」 映画「大爆破」で顕在化

愛国の超特急(中) 新幹線網の「精神」 映画「大爆破」で顕在化

社会 神奈川新聞  2014年04月07日 12:00

風を切って走る東海道新幹線の初代車両「0系」=1971年、横浜市旭区(神奈川新聞社撮影)
風を切って走る東海道新幹線の初代車両「0系」=1971年、横浜市旭区(神奈川新聞社撮影)

「国民統合の象徴」。象徴天皇制を定めた憲法第1条のことではない。第2次安倍晋三政権の国土強靱(きょうじん)化政策を支える藤井聡・内閣官房参与(京大大学院教授)は、近著「新幹線とナショナリズム」で新幹線をそう位置付けた。

同書は「オールジャパン」「絆」「日本国民の『大きな物語』」といった惹句(じゃっく)とともに、全国の都市を新幹線で結ぶ効用を強調する。40年以上前に構想された全国新幹線計画は今、国民の「精神」と意識的に結び付けて語られ始めた。

■沸騰する擁護の声

新幹線をめぐってナショナリズムが顕在化したことが、過去に何度かある。その一つが1975年7月公開の東映映画「新幹線大爆破」(佐藤純弥監督)をめぐる鉄道雑誌の反応だ。

「ひかり109号に爆弾を仕掛けた」。物語は、高倉健さん扮(ふん)する犯人からの脅迫電話で始まる。爆弾は時速80キロ以下になると爆発する、だから止まれない-。焦燥する運転士(千葉真一さん)、大混乱の乗客たち。終点・博多に着くまでの約10時間後をタイムリミットに、息詰まる群像劇が展開された。

「あの時、世界に誇れるのは新幹線か富士山しかないと思っていたから」。当時、東映のプロデューサーとして原案を考えた坂上順(すなお)さん(74)は、新幹線を題材にした理由を振り返る。

当初は、暴走する列車を止める映画を考えていた。「でも、よく調べてみると、新幹線は速度超過や信号・電気系統の異常、地震など何かあればすぐに止まるようにできていた。それならば逆に、止めちゃいけないことにしよう、と」

80キロ以下になると爆発する発想は、そうやって生まれた。自動列車制御装置(ATC)をはじめとする多重の安全装置に守られた新幹線だからこそ成り立つ筋書きだった。

けれども、鉄道ファンは、そうは受け取らなかった。「モロ手をあげて称賛する人は皆無」「スリルをねらった迫真の場面は逆に失笑」。公開後間もなく、月刊「鉄道ジャーナル」は75年10月号の特集「推薦・非推薦? 話題の映画『新幹線大爆破』を斬る!」で酷評した。

大半は鉄道技術に関する描写の誤りや、模倣犯の懸念を指摘したものだったが、その文脈でしばしば次のような言葉が踊った。「世界の鉄道の最先端をゆく“日本国有鉄道新幹線”」「メカニズムの塊りであり国民の大切な足」

写真家の丸田祥三さん(49)=東京都町田市=は当時、その記事を読んで意外に思ったという。「ちょうど蒸気機関車(SL)が国鉄からなくなるころで、鉄道雑誌はSLの特集ばかりしていた。(対極にある)新幹線をこれほど擁護するとは思わなかった」

SL、特急、ローカル線といった多様な趣向が、「新幹線大爆破」という“外敵”が現れたことで「一つにまとまったのでは」と推察する。戦争や領土問題を契機に愛国心が沸騰する過程に通ずる。

■「夢」と裏腹の陰

特集記事は「2時間余におよぶスリルのあげく、話はメデタシメデタシでおわり…」とやゆした。

だが、よく見れば、映画の結末は決して「めでたし」ではない。

確かに爆弾は解除され、千数百人の乗客の命は助かる。けれども、宇津井健さんが熱演した運転指令長は、自責の念に駆られ静かに国鉄を去った。いっとき乗客を見殺しにしようとしたからだ。

工業地帯のある北九州市や住宅が密集する福岡市への二次被害を防ぐため、爆弾を除去できなくても山口県の田園地帯で停止させる-というのが、映画の中の国や警察、国鉄の判断だった。

そこに、パニック映画の身上のカタルシス(快感、浄化作用)はない。

「作り手がみんなハッピーじゃなかったから」と坂上さんは苦笑する。佐藤監督にも、共同で脚本を手掛けた小野竜之助さんにも当時、「負のエネルギー」が感じられたという。倒産した中小企業の経営者、革命の夢破れた活動家、貧困生活を送る青年-という3人の犯人像には、作り手の心情とともに時代状況も重ねられていた。

時は高度成長期が終わった数年後。「経済が急成長して形ばかり繁栄した陰に、取り残される人もいた。その格差が大きくなり始めたころだったと思う」(坂上さん)

新幹線がもたらすのは効用だけではない、と人々が気付きつつあった。74年には沿線住民が国鉄を相手に、騒音と振動を減ずるよう提訴(名古屋新幹線訴訟、86年和解成立)。「夢の超特急」は「公害」にもなっていた。

劇中、山口県内での停止、すなわち爆破を命じた国側の一人は、こんなせりふを吐く。「小の虫を殺しても大の虫を生かさなければならないこともある」

その思想は、架空の世界に限ったことだろうか。

「本土」のために基地が置かれ続ける沖縄、首都圏のための原発によって汚染された福島。国家の利益と引き換えに地方や弱者が負担を強いられる構造を指して、東大大学院の高橋哲哉教授(哲学)は「犠牲のシステム」と名付けた。

◆整備新幹線 全国新幹線鉄道整備法(1970年)に基づき73年に計画された▽北海道▽東北▽北陸▽九州(鹿児島・長崎ルート)の各新幹線。山形、秋田新幹線は在来線扱いなので含まれない。北陸の長野-金沢間は2015年春、北海道の新青森-新函館(仮称)間は16年春に開業予定。同法は▽北海道南回り▽山陰▽四国▽東九州なども挙げたが、凍結中。田中角栄元首相は著書「日本列島改造論」(1972年)で新幹線の必要性について、先行投資や地域開発、格差解消などの観点から論じた。しかし現実には、新幹線開業と引き換えに並行在来線をJRから分離する方針が定められ、地元の負担が課題となっている。

【神奈川新聞】


これまでの主な新幹線計画
これまでの主な新幹線計画

シェアする