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【連載】神奈川フィルの再生(下) 垣根払い技術を向上

カルチャー 神奈川新聞  2014年04月01日 12:30

寒川町立小谷(こやと)小学校での演奏会の様子。オーケストラ用に編曲した校歌を神奈川フィルが演奏すると子どもたちは満面の笑みに=2月14日
寒川町立小谷(こやと)小学校での演奏会の様子。オーケストラ用に編曲した校歌を神奈川フィルが演奏すると子どもたちは満面の笑みに=2月14日

日本では、まだオーケストラの演奏会に敷居の高さを感じる人がいることは否定できない。観客との間の垣根を取り払うことは、1日から公益財団法人に移行した神奈川フィルハーモニー管弦楽団にとっても、今後の存続がかかった大きな課題となる。若い世代にクラシック音楽に親しんでもらうことでファンの裾野を広げるとともに、演奏技術の向上も必須。組織としての存続が決まったからこそ、同楽団にはその重みが切実なものとなっている。

■地域密着の活動

「この曲が分かった人は手を挙げて!」。今年2月14日、寒川町立小谷(こやと)小学校で楽団員が約400人の児童に呼びかけた。オーケストラ用に編曲した校歌を演奏すると、子どもたちの表情は驚きと喜びにあふれる。

編曲を手がけた同楽団のホルン担当・大橋晃一さんは「この笑みを絶やさないように学校訪問を続けたい。屈託ない子どもたちの笑顔は楽団員の力にもなるんです」とほほ笑む。

2010年、神奈川フィルが存続のために約12万人分の署名を集めてから早4年。それに応えるように、06年は年間150回だった演奏会が現在は280回に増えた。フル編成だけでなくアンサンブルや小編成のコンサートも積極的に全国各地で開き、特に地域密着型の活動に力を入れる。

県内のそれまであまり訪れなかった会場を回る演奏会やボランティアといった活動の中で、楽団が特に力を入れるのが次世代に向けた活動だ。子ども向けのコンサートは、年間の活動の3分の1を占める。

小谷小学校のような「エデュケーションプログラム」で重視するのは、子どもたちが実際に合奏などで参加すること。県教育委員会子ども教育支援課の小番(こつがい)奈緒美指導主事は「いい音を聴き分ける感性は幼少に養われる。早いうちにできるだけいいものを与えることが未知の可能性を広げる」と話す。かつての聴くだけの知識偏重型の音楽教育とは一線を画す試みだ。

■音究め挑戦必要

一方、こうした声もある。「子どもの情操教育も大切。だが、技を磨いて楽団のレベルを上げるというオーケストラの本分を忘れてはいけない」。日本オーケストラ連盟の支倉二二男常務理事は強調する。

東京を基盤におくオーケストラがひしめく神奈川は、激戦地だ。加えて近年、海外オーケストラの来日公演も盛んだ。昨年は「世界三大オーケストラ」と名高いベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団らが首都圏で相次いで競演。

「世界屈指のオーケストラが身近に聴ける時代に、そのしわ寄せを受ける地元オーケストラはいかに個性を打ち出してファンを獲得するか」とクラシック音楽の専門誌「音楽の友」の今橋学編集長は、課題を投げかける。

楽団の大石修治専務理事が目を付けるのが「ポップス・オーケストラ」だ。実は神奈川フィルは、02年から始動し、日本でもっとも長い歴史を誇るポップス・オーケストラとしての顔を持つ。

「米国では興行として大成功しているオーケストラがある。土壌の違いはあるが、ビジネスモデルのひとつになるのではないか」と大石専務理事。有名曲を演奏することは知名度や人気につながる。

しかしそれでも、クラシック音楽の根幹を揺るがすわけにはいかない。「まずはいい音、アンサンブルを究める。そして挑戦が必要」と今橋編集長。有名曲だけではなく、通好みの現代音楽までレパートリーの幅を広げ、新しい実験的プログラムを提案していくことは「オーケストラの使命」と、多くのクラシック関係者が語る。

■新旧3ホールで

同楽団でも、5年にわたり常任指揮を務めた金聖響さん指揮のマーラー・シリーズなどのプログラムが話題を呼んだ。それを契機に定期会員数が増加し、06年に6割だった入場率は8割まで上がった。クラシックプログラムの充実がファンの広がりにつながることは経験済みといえる。

18日には、国内オーケストラで最年少の川瀬賢太郎常任指揮者(29)の就任披露公演がある。「音のつくり方が非常に面白いマエストロ川瀬と神奈フィルとの化学反応に期待したい」。今橋編集長は期待を込める。

従来、オーケストラはフランチャイズのホールを持ち、練習と演奏会ができるのが理想的とされる。しかしそれができる楽団は日本でも数少ない。神奈川フィルは県立音楽堂、県民ホール、横浜みなとみらいホールの3ホールと連携し、定期演奏会を行っている。

「新旧、特色の異なるホールで演奏会ができることは非常に恵まれた環境にある」と今橋編集長。楽団員の耳が鍛えられるとともにバリエーションの違うプログラムを展開できることは、演奏技術力の向上と新しい魅力を生み出すチャンスがあるという。そしてオーケストラの新しい魅力の創出は、聴衆の耳をも育てる。

■街自慢の楽団に

今月発売された「音楽の友」に掲載された読者アンケート「クラシック音楽ベストテン」で、神奈川フィルは初めてトップ10入りした。愛好家のバイブル的な同誌で1981年から定期的に行われているアンケートは事実上、日本の楽団の格付けランキングとして認識されている。同楽団の歩みが評価されたといえよう。

街の自慢の楽団誕生は、地域の文化向上にも寄与する。神奈川から日本全国に-。大石専務理事は意気込む。「目指すのはトップ5。公共の文化財産としての地元オーケストラの価値を証明したい」

(中島小百合、下野綾)

(上)寒川町立小谷小学校での演奏会の様子。オーケストラ用に編曲した校歌を神奈川フィルが演奏すると子どもたちは満面の笑みに=2月14日(下)神奈川フィルと合奏する子どもら=2013年2月7日、大磯町立国府小学校

【神奈川新聞】


神奈川フィルと合奏する子どもら=2013年2月7日、大磯町立国府小学校
神奈川フィルと合奏する子どもら=2013年2月7日、大磯町立国府小学校

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