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時代の正体〈420〉放射性土壌の行方(5)議論の過程、記録残さず

時代の正体 神奈川新聞  2016年11月20日 09:24

市内に小中学校に置かれたままの放射性土壌。その処分や扱い方法について決める「放射線対策本部」の会議はすべて非公開にされている。
市内に小中学校に置かれたままの放射性土壌。その処分や扱い方法について決める「放射線対策本部」の会議はすべて非公開にされている。

 今年3月18日、横浜市本庁舎5階で「横浜市放射線対策本部会議」が開かれていた。会議は31回目で、1年3カ月ぶり。時間はわずか20分だった。この短い、久しぶりの会議のために、渡辺巧教副市長、柏崎誠副市長をはじめ、各局の局長ら21人が顔をそろえている。

 東京電力福島第1原発事故の直後、市は「市災害対策本部」を設置し、その本部内に「放射線対策部」を置いた。災害対策本部は1年後の2012年3月に解散したが、放射線対策部は名称を「市放射線対策本部」に変えるなどして存続し、放射性物質に汚染された土壌などの問題を引き続き協議していく形になった。

 だが、14年12月に開かれたのを最後に、15年は一度も開催されなかった。1年3カ月ぶりの会議では、何が話し合われたのだろうか。

 会議録には以下の記載があるのみだ。

 〈議題 (1)指定廃棄物等の保管について(2)その他〉

 〈議事 (1)決定事項 (1)指定廃棄物等の保管について(事務局から資料説明、教育委員会事務局から現状説明)→次回の会議では課題を整理しながら、今後の方向性を議論することとする〉

 どんな資料が配られ、どんな説明がなされたのか。

 誰がどのような発言をしたのか。

 会議録では何も分からない。

秘密会議


 それから約2カ月後の5月25日、第32回本部会議が開かれることになった。

 ところが、である。

 放射線対策本部会議の事務局を務める健康福祉局健康安全課は「会議は非公開」として取材を拒否。会場の場所さえ教えないと言う。

 横浜市の放射線関連の方針は、すべてこの放射線対策本部会議で決まる。12年3月制定の「横浜市放射線対策本部設置要綱」には、「安全・安心を確保し、もって市民の不安を解消することを目的とする」とある。その会議がなぜ、非公開なのか。


原発事故から5年半たった現在も、横浜市内の小中学校には放射性土壌が置かれている。
原発事故から5年半たった現在も、横浜市内の小中学校には放射性土壌が置かれている。

 あらためて取材を申し込んだ際、あくまでも非公開とするなら、その根拠と理由、決定者を明確にするよう求めた。

 同課の返答は-。

 〈会議は非公開のため、会議中のメディア取材は受け付けない。行政内部の会議については、公開、非公開を定めたルールは存在しない。従って、行政内部の会議は趣旨や性格に照らして、運営主体が判断する。放射線対策本部会議については、事務局機能を持つ「健康福祉局健康安全課」が、会議の公開の有無を判断している〉

 〈非公開とした理由は、行政内部の意思決定のための会議であること、指定廃棄物や放射性廃棄物など一種デリケートなテーマを扱うため、率直な意見交換があることなどから、第一回から非公開で運営している。初回時の判断は副市長の承認を得ており、その判断は現在も引き継がれている〉

 つまり、条例や要綱などの明確な規約、ルールなどは存在しないのに、事実上、数人の市職員が公開・非公開を決めている、という説明である。その理由も「デリケートなテーマ」「率直な意見交換ができない」と抽象的だ。


横浜市内の17校に置かれた指定廃棄物。本来は国が管理すべきものだが「置き場所が見つからない」として、横浜市が市内の小中学校に置いている。
横浜市内の17校に置かれた指定廃棄物。本来は国が管理すべきものだが「置き場所が見つからない」として、横浜市が市内の小中学校に置いている。

決定事項



 放射線対策本部会議の議事内容を詳しく知るため、「議事録」の情報公開を請求したところ、「議事録は存在しない」との回答があった。「大切なのは決定事項なので、詳細な議事録を残す必要はない」と同課。だから本部会議の記録は「会議録」しかない、という。その会議録には日時、場所、参加者、議題、議事(報告事項、決定事項)といった項目しか記載がない。

 本当に「決定事項だけ」が大事なのだろうか。

 市が放射性土壌の方針を大きく転換したのは、13年12月16日のことだ。原発事故後、神奈川県内にも放射性物質が飛散したことから、小中学校や保育園は市の指示に基づき、汚染濃度が高い土を除去し、敷地内に保管してきた。だが、同日の放射線対策本部会議はそれまでの方針を覆し、「土は保管せずに地中に埋め戻す」と決めたのである。

 同日の「会議録」は-。

 〈議題 マイクロスポット対応等により発生した除去土壌の適切な処理について〉

 〈議事 決定事項 (1)マイクロスポット対応等により発生した除去土壌の適切な処理については、議題1資料の内容に基づき各所管区局において対応する〉

 まさに決定事項しか記載がない。なぜ、「保管」が「埋め戻す」になったのか。その決定に至るまでにどんな議論が尽くされたのか。これでは全く分からない。誰の責任で方針を変えたのか、責任の所在も不明である。

 「かながわ市民オンブズマン」の代表幹事で、行政法に詳しい大川隆司弁護士は「政策決定の過程を明らかにしなければ、説明責任を果たしたことにはならない」と指摘する。

 その上で「原発事故に伴う放射性物質の取り扱いや放射性廃棄物の処理については、市民が関心を持つ問題。子どもの安全にも関係するデリケートな問題でもあり、政策決定の透明性は担保されなければならない」と話す。


「第34回放射線対策本部会議の会議録」の一部。箇条書きで決定事項が書かれているが、決定のプロセスは分からない
「第34回放射線対策本部会議の会議録」の一部。箇条書きで決定事項が書かれているが、決定のプロセスは分からない

予算ない



 市放射線対策本部の事務局である健康安全課には以前、放射線対策の担当課長、係長、担当者が存在した。そのラインは昨年4月の組織改編で崩れ、以後、専任の職員はいない。今は「新型インフルエンザ等対策担当課長」と係長が兼任する形だ。

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