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医療分野の規制緩和は「公平なシステム堅持を」 神奈川県医師会・大久保会長に聞く

社会 神奈川新聞  2014年03月22日 15:00

医療は社会のファンダメンタルと語る県医師会の大久保会長
医療は社会のファンダメンタルと語る県医師会の大久保会長

特定エリアを対象に医療分野の規制緩和を実施する国家戦略特区の地域指定が3月末にも行われる。政府は並行して、健康長寿社会の形成を目指して健康・医療戦略を推進する方針だ。少子高齢化の進行、人口減少社会の到来といった時代の変化を踏まえ、国民皆保険制度を基盤に発展してきた日本の医療制度はどうあるべきか。県医師会の大久保吉修会長に聞いた。

-成長戦略を見据え、医療分野の新たな戦略推進や規制緩和が議論されている。

「医療は社会のファンダメンタル(基礎的条件)であり、政権が代わるたびに方向性が変わるのは良くない。国民皆保険制度を基盤にした日本の医療制度は、社会を安定させるセーフティーネット(安全網)でもある。超高齢社会を見据えながら、公平な医療システムを維持していくためには、特区など地域限定ではなく、都市と地方をはじめ日本全体を視野に入れるべきだ。現行制度を持続可能にするためには、まずは医療費を支払う側である保険者(健康保険組合)の組織財政基盤がしっかりしている必要がある。同時に医療保険の利用について無駄はないのかどうかを検証するなど、保険証の使い方の適正化を図らなければいけない」

「今回の国家戦略特区は、これまでの民間発の特区と性格が異なり、首相官邸主導のトップダウン方式だ。この手法では政策の実行が迅速になる半面、政府全体のコンセンサスがとりにくく、推進する過程で紆余(うよ)曲折も想定されるのではないか」

-規制緩和の検討事項として、保険外併用療養(混合診療)の拡充などが挙がっている。

「規制緩和にすべて反対というわけではないが、将来にわたって日本の医療をどうしたいのか明確に示されているとはいえない。混合診療を認めれば、保険外の範囲が拡大していく恐れがあり、それはすなわち、公平性の原則を揺るがし、国民皆保険制度に大穴をあけることになる。そもそも安全性、有効性が確認された高度先進医療はすべて保険で賄うのが本来のあり方ではないか」

「外国人医師の診察を解禁することも疑問だ。これは国籍ではなく、医師と患者の対話、コミュニケーションの問題で捉えている。医療とは医学的な技術のことだけではない。患者の訴えや思いに医療従事者が十分に耳を傾け、治療に反映させることが何より大切だ」

-規制緩和が必要な分野は。

「米国などで製造された高品質で低価格の医療機器、例えばペースメーカーなどの導入はもっとスムーズにしても良いのではないか。国内への輸入をめぐっては、米国の規制当局が許可したものでも、あらためて日本で検査し直すため、患者の元に届くまでに時間がかかる。医療現場では一世代前、しかも価格が高いペースメーカーを使っているのが実情だ」

-医療分野の産業化によって超高齢社会の課題は解決されるのか。

「成長戦略はあくまで産業化の話だ。高齢者市場を見据えた製品開発や介護サービスの需要は増えるだろうが、産業化によって少子高齢化や超高齢社会、その先にある人口減少社会の課題が解決されるものではない。神奈川をはじめ大都市周辺での一番の課題は、単身高齢者世帯の増加だ。今回の診療報酬改定では、病院などの施設から地域、かかりつけ医重視の方向が打ち出された。方向性としては正しいと思うが、地域で医療と介護、福祉が連携し、医師、歯科医師、看護師、薬剤師、介護士など多職種が協働で医療、福祉を提供する体制は、かつて経験のない試みだ」

「医療、福祉にわたる多職種協働のグループを誰がマネジメントするのか。地域のかかりつけ医といっても、診療所は駅の近くに偏在し、大きく県域でみると、県庁所在地に偏在しているなどの課題がある。地域の実態に合わせてどのようなモデルを構築していくのか、早急に取り組む必要がある」

-日本の医療制度を持続可能にするために何が必要か。

「日本の医療水準は患者に対してほとんど格差がない。少子高齢化、人口減を見据え、北欧のように高負担高福祉を選択するのか、あるいは中負担中福祉が日本社会には合っているのか、米国のように低負担低福祉、受益者負担が良いのか。時代の変化を踏まえた制度改革は必要だが、規制緩和の目的が、受益者負担を増やし給付を下げることであるのならば格差の拡大になるので承服しかねる」

おおくぼ・よしのぶ 1935年生まれ。61年、東京医科歯科大卒。73年、大久保整形外科を開設。93年、秦野伊勢原医師会会長。2003年、県医師会副会長、07年から現職。

■国家戦略特区の指定 教育、雇用などでも

国家戦略特区ワーキンググループは「国家戦略特区の検討すべき規制改革事項等」として、医療分野については▽国際医療拠点における外国人医師の診察、外国人看護師の業務解禁(高度な医療技術を持つ外国人医師の受け入れ促進)▽病床規制の特例による病床の施設・増床の容認(高度な水準の医療の提供)▽保険外併用療養の拡充(同)▽医学部の新設に関する検討(社会保障制度改革や全国的な影響などを勘案)-などを掲げている。

医療以外では、都市再生・まちづくり(容積率・土地利用規制の見直しなど)、教育(公設民営学校の設置など)、雇用(有期雇用の特例など)、歴史的建築物の活用、農業(農業生産法人の要件緩和)の各分野で規制緩和を進める方針。

国家戦略特区は国際競争力が高い産業と経済拠点の育成を目的に、大幅な規制緩和と税制優遇を図る制度。都道府県や都市圏の広域型と規制緩和の対象を絞った上で複数の離れた場所を一つに束ねる事業連携型がある。

指定後は、国と自治体、企業による区域会議を設け、詳細な区域計画を策定する。

広域型の特区には、東京圏として「東京23区、川崎市、横浜市」の一部地域、関西圏として「大阪市、京都市、神戸市」の一部地域が選ばれる見通し。

【神奈川新聞】


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