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子どもの貧困対策法施行 世代連鎖防ぐ教育の場

社会 神奈川新聞  2014年03月21日 15:00

生活保護受給世帯の中学生向け無料塾「はばたき教室」で講師を務める女子大生(左)。かつて自身もこの教室で学び、高校進学を果たした=横浜市保土ケ谷区
生活保護受給世帯の中学生向け無料塾「はばたき教室」で講師を務める女子大生(左)。かつて自身もこの教室で学び、高校進学を果たした=横浜市保土ケ谷区

長い不況下で子どもの貧困が深刻化する中、子どもの貧困対策法が1月に施行された。親から子への「貧困の連鎖」を国や自治体の責任で防ぐように定めているが、効果的な施策はあるのか。県内で始まっている取り組みを取材した。

2月下旬、横浜市保土ケ谷区のビルの一室に、区内に住む中学2年の生徒7人が集まってきた。同区が生活保護世帯の中学生向けに開いている無料塾「はばたき教室」で学ぶためだ。

学年末試験を間近に控え、生徒たちは教室にあるドリルをコピーし、テスト形式の問題に取り組んでいた。講師役の大学生が隣に座り、中学生の希望に応じて、どの教科でもマンツーマンで指導する。

講師の私大2年のA子さん(20)は、この教室から高校、大学へと羽ばたいた1人だ。

両親が幼いころに離婚。生活保護を受けながら、女手一つでA子さんと弟を育てる母は、病気がちだった上に、パートで家にいない日も多かった。中学生になって勉強が難しくなっても教えてくれる人は身近におらず、学習塾に通う経済的余裕もなかった。

中学3年の秋、区が開設したばかりのはばたき教室に通い始めた。個別指導のおかげで、つまずいていた数学の2次関数も理解できるようになり、第1希望の市立高に合格した。

教室では授業の合間に20分間の休憩時間を設けている。生活保護世帯の子どもは、大学卒業者と触れ合う機会が少ない。大学生と会話し、将来へのイメージを膨らませてもらうのが狙いだ。

「勉強は好きだけど、大学進学は経済的に無理」と諦めていたA子さんも、大学生から授業やサークルの話を聞き、大学生活に夢を描くようになった。高校進学後も月1回は教室に顔を出して学習を続け、奨学金を得て、得意の英語を学べる大学の外国語学科に現役合格を果たした。

母も再婚し、安定した生活を取り戻した今は、「恩返しをしたい」と講師役を申し出て、現在はほかの区の同種教室も含め、週4日を講師業務に充てる。「将来は子どもの学習支援の仕事に就きたい」と目を輝かせた。

2008年に保土ケ谷区が独自で始めたこの教室は、12年度までの5年間に参加した中学3年生72人のうち71人が高校に進学した。

この成果を受けて、10年からは横浜市内の各区で学習支援をスタート。新年度には総額1億7千万円の予算を組み、全区で支援事業が始まる予定だ。

横浜市によると、11年度の全日制高校進学率は全市の87・6%に対し、生活保護世帯は55・4%。市保護課では「高校進学率に明らかな差があり、その後の就職を考えると、貧困の連鎖につながりかねない」と分析。市青少年育成課も、生活保護世帯の子の高校進学支援事業を「きわめて重要な事業」と位置づける。

課題もある。

はばたき教室でも、保土ケ谷区が生活保護世帯の中学3年生に、戸別訪問やチラシ配布で参加を呼び掛けているが、参加者は対象者全体の約3割にとどまる。

近年はプライバシー保護の観点から、学級担任が生徒の家庭が生活保護を受給しているか把握していないケースもある。経済負担を考えて公立高を目指す生徒が、学校では私立高の併願受験を勧められるなど、連携不足が招く混乱もみられるという。

そもそも、小学生時代の学習が滞っていたり、生活習慣が乱れていたりする生徒が多いのも事実だ。

はばたき教室にも高校進学を目指して中学3年生が訪れるが、小学校の学習からやり直さなければならなかったり、昼夜が逆転した生活が直らなかったりして、進学は容易ではないケースが多いという。

保土ケ谷区からの委託を受けて、同教室を運営しているNPO法人リロードの天笠翔さん(30)は「法の制定により貧困家庭の子どもを守ろうという社会的合意を得ることで、学校や家庭、地域との連携が進めば、支援もしやすくなるのではないか」と期待を寄せている。

◆子どもの貧困対策法 次世代への貧困の連鎖にもつながりかねない子どもの貧困を解消するため、教育の機会均等など総合的対策を推進。子どもの貧困率(2009年15.7%)、1人親世帯等の貧困率(同50.8%)をそれぞれ3年で1割以上のペースで削減する目標も掲げている。

「生活支援も必要」ケースワーカー

生活保護世帯の子どもへの支援では、学習以前に生活支援の必要性を訴える声も多い。

県は2010年度から、モデル事業を実施。元教員や児童相談所の元職員らによる「子ども支援員」を保健福祉事務所に置き、家庭訪問や個別相談などを通じて、生活全般の支援をしている。11年度に作成したケースワーカー向けの手引書「子どもの健全育成プログラム」でも、対象を0歳児の子育てから高校卒業後の進路までとし、総合的な支援に取り組んでいる。

横浜市の一部の区でも、学習支援に加えて生活支援を行っている。支援拠点にキッチンや風呂を備え、生活困難家庭の子どもに入浴や歯磨きをさせたり、洗濯や料理を教えたり、日常生活を体験させている区もある。

県が11年、生活保護世帯と実際に関わるケースワーカー約700人を対象に実施した調査では、親世代の貧困が子どもにも影響を与える「貧困の連鎖」について、「感じる」「感じるときがある」との回答が94%に上った。連鎖を断ち切るために子どもを対象にした支援が「必要」「できれば必要」との回答も89・9%に上った。

県生活援護課は「生活保護世帯と直接関わるケースワーカーの実感として、貧困の連鎖と子どもへの支援の必要性は間違いなくある。進学のみならず、前段階の生活から支援し、連鎖を食い止めたい」と話している。

【神奈川新聞】


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