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健康・医療戦略の展望を聞く

社会 神奈川新聞  2014年03月06日 00:00

政府は世界最高水準の医療の提供、健康長寿社会の形成を掲げ、健康・医療戦略推進法案と独立行政法人日本医療研究開発機構法案を今国会に提出した。健康・医療分野の産業化を通じて超高齢社会の課題解決、経済成長につなげる狙いだ。法案作りを担った和泉洋人首相補佐官(内閣官房健康・医療戦略室長)と、早くから医療イノベーションを提唱してきた東京大学大学院の木村廣道特任教授(生命科学、医薬品産業経営論)に、日本の医療をめぐる課題や総合戦略の在り方、国家戦略特区との関わりを聞いた。

◆司令塔機能で研究集約 和泉洋人・首相補佐官

-健康・医療戦略推進法制定、日本医療研究開発機構創設の狙いは。

「世界最高水準の医療を実現するためには、研究開発が、基礎段階から実用化まで進行状況に応じて研究費などを切れ目なく確保できる体制が必要だ。医療研究分野の司令塔として政府の健康医療戦略推進本部が実務を担う機構を統括し、六つの省・機関に分かれている実用化をにらんだプロジェクト型の研究費の申請、配分を一元化する」

「臨床研究には膨大なデータの集約が不可欠だ。国内の臨床研究拠点は15の病院や機関に分かれている。司令塔機能によってこれらをネットワーク化し、同じ計画、制度、仕組みで臨床研究を行ってデータを集め、研究成果の早期実用化につなげる。特にがんや認知症の克服、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を活用した再生医療の早期実現、難病の克服といったプロジェクト型研究については達成目標を示し、出口戦略を明確にする」

-健康・医療戦略が必要となった背景は。

「少子高齢社会において持続的な成長を実現するためには、規制改革も含めたイノベーション(技術革新)による生産性の向上、既存産業の新陳代謝も含めた設備投資、労働力の確保の三つの要素が必要だ。健康・医療分野はイノベーションの点では日本の競争力が高く、アジアの中でフロントランナーであり、経済成長に大きく貢献できる。労働の確保については、高齢者が元気で長く社会参加できる健康長寿社会の実現へ向けて研究開発を実用化し、予防や個別化医療などを充実させることが必要だ」

「世界に冠たる国民皆保険制度は日本の社会、経済安定の一番の礎であり堅持する。この制度を維持していくためにも、健康・医療産業の成長が必要と考える。また、国際貢献の視点も大切だ。医薬品・医療機器の貿易赤字を黒字に転換するという産業の観点ばかりでなく、医療保険制度、社会制度の面でも、今後高齢化するアジア諸国・地域などに対し、日本の経験を踏まえて協力していく」

-医療分野などで規制改革を掲げた国家戦略特区との関わりは。

「健康・医療戦略の推進は国家戦略特区ともリンクしている。特区の一番大きな役割は規制改革で、オールジャパンでは難しい改革を特区でやっていく狙いだ。同時に国として選択と集中によって支援する場所を決め、そこを拠点に研究機関を集約し効果を上げていく。健康・医療分野は、頂上が医療保険でカバーされる範囲で、その裾野に健康長寿のためのさまざまなサービス、ビジネスが広がるピラミッド型の構造だと捉えている」

◆産業化で需要増に対応 木村廣道・東京大学大学院特任教授

-なぜ「医療イノベーション」が求められるのか。

「急速に高齢化が進む中で、生活の質を確保するため医療が支援すべき対象者が非常に広がっている。需要の増加に対応しながら、同時に低コストで質の高い医療を実現するためには、経営の視点、産業化が必要になる」

「医療制度を持続可能なものにするためにも質の維持、効率化が命題だ。自動車の排ガス対策が国際的に求められた際、日本企業は高度な技術力を駆使して、世界トップの環境技術を生み出すとともに量産化によって低価格を実現し、グローバルな市場を席巻した。医療も社会のニーズに応え、ハイテクで低コストを達成できるはずだ」

-産業化の意義とは。

「医療は人類の根源的なニーズであり、誰の立場に立っても大事なものだ。医療の大前提は公平性だ。患者の立場に立てば、国民の福祉という位置づけになる。かつては『国民の福祉を産業と結びつけるのはけしからん』という議論があった。一昔前は医療産業イコール医薬品、医療機器産業のことだった。最近は、病院も経営力が求められている。医療イノベーションといっても、公共性、福祉といった根本が変わるのではなく、時代の変化、つまり高齢化にどう対応していくかというテーマだ」

-医療産業が目指すべきものは。

「昔の医療はある程度政府が管理して国民福祉という形でやってきたが、これからは供給をぐっと増やさなければならない。歴史を振り返れば、足りない供給を増やすためには、産業化によってはじめて供給量が桁違いに増えている。医療産業が目指すべきなのは、今後、ニーズが増えていく在宅、遠隔医療など『いつでもどこでも』享受できる医療ではないか」

「日本の技術力があれば医療機器の家電化によって、家の中に病院をつくることも可能だ。日本が新しいコンセプト、モデルを構築し、市場をつくっていく。市場拡大によって参入者が増えれば、効率化が進み、供給が増える。医療現場の生の声、患者の気持ちをベースに研究開発、製品開発をする必要がある」

-実用化、製品化へ向けた課題は何か。

「日本は基盤となる技術、基礎研究が充実している。ここが枯れると、元も子もない。苗床を絶やさない努力が大切だ。医療はいろいろな技術の集積でもある。大学の中だけにコミュニティーをつくるのではなく、オープンイノベーションが重要。京浜臨海部では研究機関、企業、行政などいろいろな分野から研究者や開発者が集うオープンなエリアが形成されつつある。新たな技術の臨床応用や実用化を見据え、さまざまな価値観を持ったチームが同じゴールに向かう必要がある。そのためには、全体を統括し経営が分かる人材が求められよう」

【神奈川新聞】


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