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認知症ケアはいま 模索続く共生の場

社会 神奈川新聞  2014年03月04日 00:00

自立支援に取り組む小規模多機能型居宅介護施設「おたがいさん」=藤沢市亀井野
自立支援に取り組む小規模多機能型居宅介護施設「おたがいさん」=藤沢市亀井野

高齢化の進行に伴い認知症の人が増える中、「住み慣れた場所で安心して暮らせる街づくり」へ向け、医療、福祉、行政の分野で模索が続いている。川崎・武蔵小杉地区では、地域の総合病院が中心となり「街ぐるみ」で認知症の早期発見のための相談窓口開設やかかりつけ医への橋渡しに取り組む。藤沢市内の介護事業所は、お年寄りの人格と自立を尊重し、「本人の思いや願いをかなえる」支援を展開する。県内の先進事例は、超高齢社会の課題解決を示唆するモデルでもある。

■早期発見へ窓口

「そもそもの始まりは草の根の活動でした」。日本医科大学武蔵小杉病院(川崎市中原区)に隣接する街ぐるみ認知症相談センター、その初代センター長を務めた同大の北村伸教授は説明する。「病院の中ではなく隣接地に開設したのも、敷居を低くして、いつでも気軽に相談にきてもらえるようにするためです」

2007年12月開設以来、延べ約5千人が来所。大きな特徴は、常駐する臨床心理士による聞き取りと検査だ。相談者の合意を得た上でかかりつけ医に所見を提供している。

センターの原型になったのが、同病院老人病研究所所長を務めた川並汪一名誉教授の活動だ。診察室の外に出て、地域の老人会など高齢者が集まる行事に足しげく通い対話を重ねた。北村教授は「お年寄りの中に入り、対等な立場で直接話を聞くことで、どのようなケアが必要なのかが分かってくるのです」と話す。

従来、認知症ケアは家族、特に女性の負担に過度に依存していた。現場での積み重ねから、川並名誉教授らは「認知症ケアは街ぐるみの支えが不可欠」との結論に至った。センターは国の社会連携研究推進事業としてスタート。平日の午前9時から午後4時まで(受け付けは午後3時半まで)予約なし、無料で窓口を開いてきた。国の事業が終了した12年4月からは病院が独自に継続している。

■顔の見える関係

北村教授は「センターは、医療と介護の連携、早期発見、かかりつけ医を中心とした認知症医療の充実を目指して始動させた。この三つの目標はいまだに課題なのです」と振り返る。認知症の診断、治療には神経内科、精神科などの専門的な知識や現場経験が求められる。このため、総合病院の専門医らとかかりつけ医の「顔の見える関係」を築くため、年2回のミーティングも開始した。

センターは認知症に対する知識、理解を深めてもらうための活動にも力を入れる。高齢者をはじめ家族ら市民の関心も高まっており、2月18日に開かれたセンター見学会には、真冬の寒さにもかかわらず60人近くの中高年らが参加した。

「夫が認知症。私がなるわけにはいかない」と80代の女性。認知症講座やスポーツ科学に基づく脳を活性化する体操が行われ、「外に出ることで気分転換にもなる。また参加したい」という声が聞かれた。

センター臨床心理士の並木香奈子さんは「予防や早期発見は何より大事。ただし、認知症になっても、安心して地域で暮らせるケア、サポート体制、街づくりが急がれる」と指摘する。

■暮らし継続支援

認知症のお年寄りと共に生きる地域社会の構築を目指し、実践している介護事業所が藤沢市内にある。「通い」を中心として「泊まり」や「訪問」を組み合わせた小規模多機能型居宅介護に取り組む「おたがいさん」(同市亀井野)だ。

「このバルコニーは小学校への通学路になっています」。閑静な住宅街に立地し、垣根など周辺と隔てるものはない。交通量の多い幹線道路を避けて、通学、帰宅時には、児童が敷地内を通り抜ける。同事業所を運営する高齢者福祉サービス会社「あおいけあ」を創設した加藤忠相さん(39)は、地域に開かれた施設づくりに余念がない。

利用者の大半が認知症の人で、必要に応じてショートステイ(短期入所)やスタッフの訪問介護を受けられる。「地域で生活を続けるために必要なサービスを医療者の必要に応じて、柔軟に提供している」と加藤さん。

スタッフはお年寄りを「被介護者」とは見ていない。食事の調理、用意も共同作業だ。おかずの「なます」を作っていた際、女性の利用者が「ピーナツを入れると、味がまろやかになる」とふと口にした。「それ食べたい!」と、スタッフはその場で女性を連れ近くのスーパーにピーナツを買いに行き、特製のなますを作って振る舞った。

加藤さんはいわゆる「問題行動」は、認知症に対する理解不足が原因の一つになっているとみている。「認知症の人は感情が豊か。一人一人の存在理由、つまりその人らしさ、記憶の源泉に働きかけることがケアの質を高める。介護保険制度の本来の使命は自立支援に尽きる」

■地域社会の中心

お年寄りを「地域社会のハブ(車輪の中心部)」ととらえ、公園での清掃や花壇作り、地域行事への参加など、地域の一員としての役割を重視。施設1階に開いている駄菓子屋は、お年寄りと子どもたちとの交流の場になっている。

農家、喫茶店経営者、駄菓子屋、製造業と利用者が歩んできた人生、特技、持ち味を引き出し、「社会資源」として社会に役立ててもらう。お年寄りが自尊心や生きがいを取り戻すと、症状は明らかに改善していくという。

団塊の世代が75歳以上になる「2025年問題」を見据え、加藤さんは新たな構想を温めている。コミュニティーレストランやシェアハウスを併設し、幅広い世代が集う地域拠点の形成だ。「集う人々は全員が地域のキャスト。25年、社会の中核になる若者、子どもたちの社会性を育む場でもある。家族、自治体、国と私たちはさまざまな環境の下で生活しているが、最終的には地域が世代を超えた共生の場になると思う。その可能性を切り開いていきたい」

【神奈川新聞】


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