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~関東大震災90年~ 津波が襲う(7)
未曽有に学ぶ〈31〉将来リスク◆「最大級」どう生かす

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神奈川新聞  2005年11月27日公開  

「国としての判断と、神奈川の沿岸をどう守るかという判断は、違ってもおかしくはない。県民の安全を守るため、最大クラスを検討していく」

神奈川県の防災部局や有識者らとの会合を終えた早稲田大教授の柴山知也(60)が強調した。1月28日、横浜で県の津波浸水想定検討部会が開かれていた。

巨大津波が人々の命を奪った東日本大震災を教訓に「想定外」をなくす目的で発足した検討部会。起こり得る最大級の津波について試算し、沿岸市町が避難対策を考える上で必要な予想波高や到達時間、浸水範囲などのデータを提供する。柴山はその部会長を務めている。

想定し得る最大級は既に描かれている。最高値は鎌倉市の14・5メートル。さらに横須賀市9・6メートル、小田原市6・3メートル、横浜市4・9メートルなどと各地の最大波を試算した結果は2012年3月に公表した。役割をほぼ終えていた部会が再び検討に入ることになったのは、国が新たに示した津波の試算結果に対応するためだ。

昨年12月に内閣府作業部会が見直した首都直下地震の被害想定。マグニチュード(M)7級の「大地震」で全壊、焼失する棟数や死者数を算出し、被害軽減に向けた手だてを打ち出すとともに、相模トラフで予想されるM8級以上の「巨大地震」が起きた場合の津波の様相も描いた。

神奈川への影響が大きいのは、「関東大震災タイプ」、それをやや上回る規模の「元禄関東地震タイプ」、そして過去に発生が知られていない「最大クラスの地震」の三つ。これらの局所的な最大波高は、三浦半島の一部や藤沢以西の沿岸域で2年前の県想定を上回り、三浦市のように一部で20メートルと予想された地域もある。

ただ内閣府作業部会は、いずれの巨大地震も当面は起きないとみて、対策の中心には据えていない。「100年程度先に発生可能性が高くなっている」のが関東大震災タイプ。元禄タイプや最大クラスは「しばらくのところ可能性はほとんどなく、次に起きるとは考えにくい」とみた。

中でも最大クラスについては、予想波高などの数字が独り歩きするのを懸念。地域別の一覧は公表せず、住民や自治体に対する配慮をにじませた。

一方で県は、最大クラスも含めて神奈川沿岸で予想される津波高などを詳しく計算し、被害も算出する方針を決めた。

理由を柴山が説明する。「国は切迫しているM7を重視したのだろうが、自分たちの地域をどう考えるかは自分たちで決めること。沿岸住民の安全を考慮すれば、県より高い津波高の想定を無視するわけにはいかない」。さらに言う。「あらゆる可能性を考慮し、最大クラスを検討すべきという方針は、そもそも国の中央防災会議が示している。それに沿って対応するということだ」

東日本大震災以降、防災対策は「最悪」から目をそらさず、その土地や人々にとってマイナスになる情報も積極開示する方向へかじを切った。だが、国と自治体の足並みは必ずしもそろわず、次々と公表される数字に現場対応を担う市町村は困惑し、住民は不安の声を上げる。

「津波のモデルはいかようにも作れるが、科学的な根拠が不可欠。それがなければ人を驚かせるだけになってしまう」と、海洋研究開発機構の地震津波・防災研究プロジェクトのグループリーダー、高橋成実(46)。特に相模トラフに関しては「海底の地形や構造が非常に複雑で分かっていないことが多く、一層の調査が不可欠」と指摘し、「関東大震災の津波を目撃した人の証言も取り込むべきだろう」と訴える。

体験を反映させるべきなのは、将来の津波リスクを描く作業に限らない。海沿いで暮らす一人一人が当時の教訓に学ぶ必要がある。

津波から逃れた母の体験を語り継ぐ鎌倉市の伊藤武子(82)は「揺れの直後、梁(はり)が落ちてきたが、隙間で助かった母はいったん浜へ逃げたらしい。でも近所の人に『こんなときに行ってどうする。津波が来るぞ』と怒られ、山へ向かった」。その一方で「はす向かいのそば屋では、竹筒に入ったお金を取りに戻ったときに津波に巻き込まれて亡くなった人がいた」と聞き、避難の大切さを痛感させられた。

茅ケ崎市で1月に行った講演後、来場者から津波の危険性について尋ねられた名古屋大教授の武村雅之(61)は「一つの目安」として「旧東海道」を挙げた。

「大体、標高10メートルを保っている。昔の人は、それより海側に道を造ると、高潮も含め不測の事態が起きると考えたのではないか」とした上で、現代に通じる教訓と想定にとらわれない心構えを説いた。「旧東海道より海側に住んでいるなら、津波に対して覚悟を。そして、その場所でできる限り高い場所に逃げる。それしかない」

=敬称略、第5部おわり

■国想定の最大クラス

マグニチュード(M)8.7として試算。国は自治体別の最大波高を公表していないが、報告書に記載されたグラフから県が読み取ったところ、真鶴町約20メートル、二宮町約19メートル、藤沢市約17メートル、三浦市約15メートル、葉山町約13メートル、横須賀市約10メートル、横浜市約4メートル、川崎市約3メートルなどだった。

■最大クラスの津波想定 (県、2012年3月)

【神奈川新聞】


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