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~関東大震災90年~ 揺れる大地(5)
未曽有に学ぶ〈24〉複合災害◆過酷な様相 再来懸念

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神奈川新聞  2005年11月27日公開  

震災2週間後の豪雨により大山町で起きた土石流災害の現場(伊勢原市教育委員会所蔵)
震災2週間後の豪雨により大山町で起きた土石流災害の現場(伊勢原市教育委員会所蔵)

「避難勧告が発表されました。途中で電柱が倒れているので注意してください」

小雪の舞った18日、横浜市中区の市立本町小学校周辺で行われた避難訓練。地震による土砂災害を初めて想定、野毛町3丁目の小さな公園に集まった50人余りの住民は、避難所に指定されている本町小へ向かった。

「建物の倒壊に火災や津波、そして崖崩れと、いつどんな災害に遭遇するか分からない。その時々に応じて臨機応変に行動を」。地元町内会の会長を兼ねる第一北部地区連合町内会会長の神田信男(77)はそう呼び掛け、災害時に旗を振る難しさを口にした。

「場所によっては別の小学校の方が近いし、津波なら広域避難場所の野毛山公園を目指した方がいい。逃げるのか、その場にとどまるべきか。地域ごとに条件は異なり、最終的には個々の判断しかない」

東日本大震災の教訓を踏まえた横浜市の新たな被害想定に基づき、区が行った「診断」では、同地区には道路が狭く消火活動が困難なため、延焼火災の危険性が高い地域がある。液状化のリスクや土砂災害警戒区域も存在し、海に近い一部では津波の浸水も予想された。現実味を増した「複合災害」のシナリオに、神田は危機感を強めている。

その過酷な光景はまさに横浜で現実になっていた。

1923年9月1日、県庁に近い山下町の勤め先で関東大震災に遭った米国人、O・M・プールは家族の安否が心配になり、余震が続く「廃虚の迷路」をさまよいながら山手の自宅へ向かった。その途中で目にした光景を詳しく書き残している。

〈加賀町の警察署をちょうど越えたところで、私たちは立ちすくんでしまった。百ヤード、あるいはそれ以上にもわたって道路が沈下して、いまでは泥沼になっていた〉

〈ひとつの長い崖になっていた山手の縁辺の全体に沿って、同じような地すべりが起こって、あらゆるものを下方の村へと放り出してしまっていた〉

液状化や土砂崩れを目の当たりにし、足元に横たわる犠牲者を踏むことがないよう注意しながら家路を急いだプールは、元町でさらに衝撃を受ける。

〈細長い町全体にわたって、見分けもつかないほどもつれたマッチ棒のようにペシャンコになっていた〉

〈私たちの立っているところから八十ヤードも離れていないところで火が突然吹き出して、赤茶けた炎が薄気味悪いつむじ風となって空へまい上がっていく〉

その後、見慣れた100段の階段の下に着いたが、崖とともに既に崩落しており、登れなかった。そこへ火の手が迫ったため、別の経路からどうにか自宅に戻る。妻や子と再会したときの心境をこう振り返っている。

〈悪夢から目ざめた感じであった〉

震災から90年の節目となった昨年9月、砂防フロンティア整備推進機構の技師長、井上公夫(65)はプールの避難ルートをたどり、当時の苦難に思いをはせた。そしていま、思う。「大火に見舞われた横浜では、崖崩れによって行く手を阻まれ、避難の途中で焼死した人がいたに違いない」

井上がこれまでに確認した関東大震災の土砂災害現場の犠牲者は1056人以上。内閣府の報告書で見積もられた死者数700~800人より3~4割多い。

「関東大震災は悪い条件がいくつも重なった災害だった。昼前の発生で調理中の台所から出火し、燃え広がっただけでなく、直後が台風シーズンだったため、二次災害も相次いだ」。大山町(現伊勢原市)や曽我村(現小田原市)などでは、本震2週間後の9月15日ごろの豪雨で土石流や天然ダムの決壊が起こり、家々を押し流した。

震災の前日に当たる8月31日には台風が接近。1日午前にかけてまとまった雨が降り、地盤が緩んでいたため、川沿いの集落を埋没させた根府川の山津波のような惨事が起きたとみられている。その崩落現場には海からの津波も押し寄せ、挟み撃ちにされて行方不明になった人も少なくない。

関東学院中学校高校の地学講師、相原延光(63)は当時の天気図から、気象の影響を解き明かそうと独自の研究を重ねる。「東京では9月1日午後3時ごろに気圧が下がっており、低気圧が通過したと考えられる。その後、陸軍被服廠(しょう)跡を襲った火災旋風の発生に影響したのではないか」

10万5千人余りという未曽有の死者・不明者を出した関東大震災。同じ規模の地震が再び起きれば、最悪の場合、7万人が死亡すると国は想定する。

90年を経て実態に迫る調査研究がなお続き、その再来を考慮すべき時期に入ったいま、さまざま要素が複雑に絡み合い、被害が拡大した当時の苦い教訓は重みを増している。 =敬称略、第4部おわり

【神奈川新聞】


地震による土砂災害を想定し、身の安全をどう守るかを考えた避難訓練=横浜市中区
地震による土砂災害を想定し、身の安全をどう守るかを考えた避難訓練=横浜市中区

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