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刻む2013(1) 音楽禁止-海岸規制の行方

社会 神奈川新聞  2013年12月23日 12:19

来夏の海水浴場での規制検討状況
来夏の海水浴場での規制検討状況

2013年が終わろうとしている。問われた「文化」のあり方、失われた貴い命、活況の一方で出口の見えない被害…。この1年、われわれの心に刻まれた世相や事件を振り返り、これからを見据える。

■模索続ける自治体

今夏、湘南海岸一帯をゆるがせた治安の悪化や風紀の乱れに対する音楽禁止やクラブイベントの中止。自治体をはじめとする海水浴場設置者は、来夏に向けた規制内容の検討を進めている。中でも逗子市は「全国一厳しい条例」(平井竜一市長)を目指しており、動向に注目が集まる。

かねて「来夏は最も厳しい規制で臨みたい」と強調してきた平井市長。市議会では10月、海の家でのライブハウスやクラブ営業の全面禁止を求める約6500人の請願が全会一致(2人退席)で採択された。市民要望という後押しも受け、条例改正による規制強化へと向かう。来夏は罰則規定を設けないが、2015年度以降は導入も視野に入れている。

一方で、表現の自由をはじめ憲法など上位法との齟齬(そご)を生じさせないため、担当の市経済観光課は「各禁止項目について何らかの形で権利を担保する内容にした」と説明する。例えば音楽なら、FM放送だけは海岸に設置されたスピーカーから流せる。個人利用客の、音響機器につながない楽器の演奏やイヤホンをしての音楽プレーヤー使用は禁止しない。入れ墨・タトゥーは「他者に畏怖を与えるものの露出」と対象を限定。飲酒も、販売する海の家の中では認める。

改正方針を練る上で、逗子市が参考にしたのが神戸市須磨区の須磨海水浴場。逗子海岸と同じく住宅地、さらに病院も近接しているのが特徴だ。主な禁止事項と罰則内容は

(1)音楽など騒音(70デシベル以上)、20万円以下の罰金

(2)花火、10万円以下の罰金

(3)入れ墨や乱暴な言動など他者に畏怖を与えるもの、退去命令

(4)喫煙、過料千円

特に音楽は、市が海の家に指定のスピーカーとアンプを貸与。最大の音量が決まっているため、海の家は好きな音楽を流せるが騒音苦情にはつながっていない。神戸市によると、08年の条例制定と11年の改正を踏まえ、今年夏に海水浴客にアンケート。2009件の回答のうち、8割近くが「海水浴場を安心して利用できるようになった」と答えたという。

■法律家に聞く-文化的価値への寛容さを

逗子市が条例改正への動きを加速させる一方で、音楽をはじめとする表現の自由や、ビーチは誰のものかといった問題をめぐる議論は十分に深まったとは言いがたい。いま一度立ち止まり、音楽を愛する法律家2人に見解を聞いた。両氏とも、治安悪化などにつながる危険性の排除は大前提としつつ、文化的価値への「寛容さ」を持つ大切さを指摘する。

みなと綜合法律事務所(横浜市中区日本大通)の折本和司弁護士は、仲間とギターやベースを手にCDを作成する本格派だ。逗子市の規制強化については「音楽が、治安の悪化や風紀の乱れを招いているのか、因果関係がはっきりしていない」と指摘。だから「公共団体が新たに条例を設けて、広範な規制をかけるというやり方は安易すぎないか」と疑問視する。「本来、法令によるこの種の規制は必要最低限であるべき。音楽と、治安、風紀との因果関係を明確にした上で、どこまで規制対象にするか緻密な議論が必要だ」

アーライツ法律事務所(東京都中央区)の島昭宏弁護士も、ミュージシャン活動や音楽レーベル運営などを経て現職に就いた経歴を持つ。「日活アクション映画が好きでよく見た。『太陽の季節』なんて、まさに湘南の海が舞台」

若者が集まり、自然と文化が生まれる環境が海にはあるという。「新しい文化的価値は敬遠されがちだが、やみくもに排除するのではなく、まずは受け入れ、理解しようとする発想が重要」

付随する悪いものをなくすために、本質にある良いものまで無くしてしまうのは「長い目で見れば損失。異なる二つの価値が対立する場合、どちらかをゼロにするのではなく、ぶつかる部分を調整するのが大原則」。

さらに「公共の場であるほど自由である必要があります」と加えた。

■「永久追放ではない」逗子市

逗子市が検討している条例改正方針では、海の家で音楽を流すことや楽器の演奏を禁止する。また一般利用客に対しては、ラジカセなど音響設備の持ち込みを禁止する一方で、ギターなどの楽器演奏は規制の対象外とした。

「音楽は勇気や感動を与えてくれる。私だって禁止を良いとは思わない。でも今の逗子海岸にふさわしくない」。10月に開かれた市民意見交換会で平井竜一市長は、音楽を締め出すことが目的ではなく、あくまで安全な海水浴場を取り戻すための一手段であると強調した。

市経済観光課も「逗子海岸から音楽を永久追放するものではない」と説明。条例が改正されれば、まずは来夏の状況を踏まえ、再来年以降の対応を検討していくとしている。

◆クラブイベント 明確な定義はないものの、音楽をかけるディスク・ジョッキー(DJ)が大音量でダンスミュージックを次々と流し会場の男女が重低音のリズムに合わせて踊る催し。都内などのクラブでは一晩中踊り続ける企画も少なくない。厳密には風営法上の許可が必要とされることもあり、警察が摘発した店もある。

◇音楽禁止・規制をめぐる経緯◇

2月下旬 藤沢・片瀬西浜で組合が今夏の音楽禁止決定

5月 県がクラブ営業などを行わないよう求めるガイドライン作成

7月14日 逗子海水浴場で客同士のトラブルによる殺傷事件が発生

7月22日 鎌倉・由比ガ浜で組合がクラブイベントの中止決定

8月7日 逗子市が来季の音楽禁止方針

8月23日 人気デュオ、キマグレンが2005年から逗子海水浴場で経営してきたライブハウス「音霊」を今季限りで閉鎖すると発表

9月上旬 鎌倉市が音楽規制などの条例制定検討を表明

9月 各海水浴場で今夏の利用客数まとまる。音楽禁止や方針を表明した藤沢、鎌倉、逗子で減少した一方、サザンオールスターズの凱旋(がいせん)ライブがあった茅ケ崎では増加するなど、明暗が分かれた

9月26日 県が、来季全海水浴場での統一ルール策定を表明

10月10日 逗子市が、音楽や飲酒、入れ墨露出などの禁止を盛り込んだ条例改正方針案を発表

11~12月 逗子市が条例改正案作成へパブリックコメント実施

【神奈川新聞】


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