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~関東大震災90年~ 元禄の教訓(4)
未曽有に学ぶ〈18〉土砂崩れ◆村を襲った二次災害

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神奈川新聞  2005年11月27日公開  

二次災害の土砂崩れについて報告した文書(南足柄市郷土資料館提供)
二次災害の土砂崩れについて報告した文書(南足柄市郷土資料館提供)

「土砂の崩落で『壗(まま)』が崩れ、小川の水があふれた。家屋の全半壊も相次ぎ、しばらくは野宿を余儀なくされた。当時の家は土台が不安定で、揺れに弱かったようだ」

元南足柄市教育長で郷土史研究グループ「足柄史談会」会員の本多秀雄(90)は、元禄16(1703)年11月(旧暦)の元禄関東地震が引き起こした矢倉澤村(現南足柄市)の被害について、かつて祖父からそんな言い伝えを聞かされていた。「壗」は斜面地や段々畑を意味するという。

「関東大震災に関する記録は数多いが、元禄地震時の状況を記した史料はほとんど残っていない。山間部では土砂災害がひどかったに違いないが、その歴史を知らない住民がほとんどではないか」

地元でも広くは知られていない山間部の被害を書き留めた史料は、少ないながら残ってはいる。

〈去ル年霜月大地震ニ付、当村之内北たけ山ゑみわれ〉

矢倉澤村の名主や組頭が代官に宛てた被害報告の文書「乍恐書付を以御注進申上候御事(おそれながらかきつけをもってごちゅうしんもうしあげそうろうおんこと)」。

伝えているのは、地震直後の被害ではない。昨年の霜月(11月)という記述が示すように、年明けに起きた二次災害の土砂崩れを描写している。報告は続く。

〈昨日之雨ニてわれめへ水入候や、段々昨晩夜中迄ニ山崩落流申候ニ付、北沢入より土ろ水押出〉

地震で崩れかけていた斜面を崩落させる大雨が降ったのは、元禄17年の2月2日。土石流が下流の村を襲った。同19日にも似たような山崩れがあったとの記録があるとされ、降雨のたびに押し流されてくる土砂に悩まされ続けた村人たちの苦悩が浮かぶ。

一方、皆瀬川村(現山北町)から小田原藩へ提出された「皆瀬川ぢしんつぶれ家帳」は地震直後の被災実態を示す。これらの記録や土地の状況を詳しく調べた「防災地理調査」社長の今村隆正(53)は一つの表現に着目する。

〈家屋敷共無之候〉

「家も敷地もなくなってしまったという意味だと考えられる。集落背後の斜面から崩落した土砂に埋まってしまったか、地滑りによって斜面ごと落ちてしまったのか、そのいずれかに違いない」

58軒の家屋が被災したことを記すこの文書に死者に関する記述はないものの、元禄地震の犠牲者のためとみられる供養塔も地元や周辺に残る。今村は「おびただしい山崩れが発生し、斜面に点在する集落のほぼ全ての家が埋没、流失するような壊滅的な被害だった」と推測する。

さらにそこから、現代にも通じる教訓を読み取る。「複数の活断層が走り、富士山の火山灰が堆積する丹沢山地の周辺では、今後も同様の大きな地震で土砂災害に見舞われる可能性が高い」

古都鎌倉では、地震のたびに土砂の崩落が繰り返された。

〈鎌倉切通七口地震ニ而破損〉

5代将軍徳川綱吉に重用された側用人、柳沢吉保による「楽只(らくし)堂年録」は、鎌倉の内外を結ぶ小袋坂や極楽寺坂など七つの切り通しが崩落したと記す。そしてこれらの切り通しは、220年後の関東大震災でも軒並み崩れ、鎌倉は一時「陸の孤島」と化したと伝えられている。

鎌倉市総合防災課の学芸員浪川幹夫(54)は実感を込める。「現実的に鎌倉で危険なのは、津波よりも土砂災害だ」

今月5日、県立鎌倉高校の生徒に地元の災害史を語った浪川は、一枚の絵図をスクリーンに映し出した。

描かれているのは、元禄地震で起きた鶴岡八幡宮近くの崖崩れ現場。「推定だが、この場所の痕跡はいまも残っている」とし、身近なリスクに目を向けるよう訴えた。

戸塚宿で元禄の地震に遭遇した神官梨木祐之は、西へ向かう道中の各地で「山崩れ」や「磐石の崩落」を目撃する。さらに戸塚で湧き出る泥水(液状化)を、鎌倉や大磯で津波の被害を見聞し、揺れや火災で倒壊した家々や犠牲者の遺体を目の当たりにした小田原については「目もあてられぬ有様也」と書き残している。

元禄地震を知る1級の史料とされる、この「祐之地震道記」の写本を所蔵する川崎市市民ミュージアムの学芸員望月一樹(52)は「深刻な状況が克明に記されている。とにかくあらゆる被害が起きた地震だったのだろう」と災禍の激しさに思いをはせる。

大きな打撃を受けた幕府は地震翌年に元号を改める。しかし3年後の宝永4(1707)年に南海トラフで国内最大級の「宝永地震」が起き、その49日後には富士山が噴火。巨大災害が連続する苦難の時代に入り込んだ。=敬称略

【神奈川新聞】


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