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京急線土砂崩れ脱線事故1年 「その時」備え対策強化

社会 神奈川新聞  2013年09月25日 10:02

京急の事故現場から1・5キロほど離れたJR横須賀線のトンネル。降雨防災対策の一環で、斜面が格子状に固められている=横須賀市
京急の事故現場から1・5キロほど離れたJR横須賀線のトンネル。降雨防災対策の一環で、斜面が格子状に固められている=横須賀市

京浜急行電鉄の追浜-京急田浦間(横須賀市)で土砂崩れによる脱線事故が起きてから、24日で1年が経過した。短時間に大雨が集中した「想定外」の災難とされた一方、近くでは過去にも雨で線路脇の斜面が崩れていた。土砂などが線路を支障する例は、今年だけでも1月に江ノ電極楽寺駅で、今月17日にはJR中央線相模湖駅で発生。負の経験を生かし災害に備えるには-。

◇災害は「想定内」

「想定外という表現には違和感を覚える」。NPO法人災害情報センター(東京都新宿区)の井田敦之主任研究員・事務局長は言う。1時間当たりの雨量が100ミリを超えた事故当夜の豪雨について、京急はこれまで「考えていた以上の雨の降り方だった」と説明してきた。

「局所的な豪雨で土砂崩れが発生し、列車が脱線する事故は、頻繁ではないにしても昔から全国で起きている」と井田主任研究員は指摘。実際、京急でも1997年、2キロほど離れた場所で電車が土砂に乗り上げて脱線、19人が負傷する事故があった。

京急は97年の事故を機に全線の斜面を点検し、防護対策を強化。昨年の現場にもモルタルの吹き付けや金網の設置などを行っていた。土砂崩れ自体は「想定」されていたのだ。

◇施設整備に限界

豪雨に備え、JR東日本は2004から08年にかけて、総額230億円を投じて首都圏の約650カ所の切り通しやトンネル周辺、盛り土などを格子状のコンクリートでがっちりと固めた。横浜支社管内では、東海道線や横須賀線など約160カ所に65億円を投入。降雨時の運転中止を8割も減らす効果を挙げた。

ただ、こうした施設の強化には膨大な費用がかかり「限界がある」(井田主任研究員)。線路脇の土地所有者との交渉が難しく「まずは自社用地の範囲内で対策を考える」(JR東日本横浜支社)という実情も。

さらに、JRと私鉄の歴史的な“スタートライン”の差を指摘する意見もある。元国立防災科学技術研究所研究官の木下武雄さん(82)は「一般論として(JRの前身の)国鉄は国の基幹交通と位置づけられていたため、対策が手厚かった」と話す。

◇36年ぶり見直し

一方で、災害を想定したソフト面での対策の余地はある。JR東日本は08年、雨による運転規制の指標を36年ぶりに見直した。地表に降る「時間雨量」「連続雨量」だけでなく、地中に染み込んだ水分も勘案した「実効雨量」だ。井田主任研究員は「多様な情報を集めれば、きめ細かな運行基準が設けられる」と話す。

こうした対応は、たとえ土砂崩れが防げなくても列車の脱線だけは防ぐ-という発想に基づく。例えば、土砂や岩がセンサーに触れると緊急信号を発する落石検知装置。JRでは東海道線や伊東線、私鉄は東武鉄道や西武鉄道など全国で実用化されている。けれども京急はこれまで「動物を誤って検知する」などの理由で導入していなかった。1年前の事故後、同装置25カ所の新設を含め、10億円をかけて対策を強化した。

「重要なのは、土砂災害の際にけが人を出さないためのバックアップだ」と木下さんは強調する。

■「経験知」の継承課題

「あの程度の事故で済んだのは京急だから」「マスコミは普段の京急の頑張りを知らない」。事故直後、ネット上に「がんばれ京急!」の声が飛び交った。真っ赤な車体、JRと互角の最高時速120キロ、急カーブ-と個性的な京急に愛情を注ぐ人は多い。

だが「にっぽん鉄道100景」などの著書がある旅行作家の野田隆さんは「もう少し冷静に客観視したほうがいいのに…」と困惑。「好みの路線や鉄道は完全であってほしい、ミスがあっても認めたくない-という思考回路があるのでは」とファン心理を推測する。

確かに自然災害は「不可抗力」だが、予期せぬ事故をも防ぐ知恵は鉄道の現場に昔からある。例えばかつての保線作業員は「線路を守るには草取りから」と語り継いできた。雑草が根を張って路盤をもろくする、との経験からだ。

日本の鉄道開業100周年を記念し、当時の国鉄の保線技術者が編集した「鉄路の闘い100年」(1972年刊)には、現場で「連想せよ」とある。例えば、橋の下で釣り人を見かけたら、橋の周囲が流れに削られ魚の隠れ家になっているのでは、と想像する。線路脇に鳥居があれば、かつて地すべりが起こり住民が神社を建てて祈った、と想像する…。

工事の機械化や外注化が進んだ現在、こうした「経験知」はどれだけ受け継がれているだろうか。

◆京急線脱線事故 2012年9月24日午後11時58分ごろ発生。線路脇の斜面が崩れ、走行中の下り特急(8両編成、乗客約700人)が乗り上げた。前3両が脱線し、乗客と運転士55人が負傷。運転再開まで55時間かかり、63万人に影響した。現場の斜面は、前年の外部調査機関による危険度の調査で4段階の2番目と判定され、降雨時に速度を落とすなどの規制対象になっていなかった。

【神奈川新聞】


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